乾燥地農業(読み)かんそうちのうぎょう(英語表記)dry farming

改訂新版 世界大百科事典 「乾燥地農業」の意味・わかりやすい解説

乾燥地農業 (かんそうちのうぎょう)
dry farming

雨の季節性,風の強さ,土壌の性質などによっても異なるが,おおよそ年降水量500mm以下の地域で,灌漑によって水を供給せず,降雨のみを利用して作物に必要な水を土壌中に保存し,収量は低いが安定した作物栽培を行おうとする農法をいう。乾地農業乾燥農業ともいう。年降水量500mm以下の地域は地球全体の50%以上を占め,アメリカの北西部,オーストラリア,アジア大陸北部,地中海沿岸などに広く分布している。近年灌漑が行われる耕地が増加しているが,なお多くの地帯で麦作を中心にこの農業が行われている。年降水量が375mm以上の地域では作物生産は比較的安定しているが,250~375mmでは不安定となり2年1作の地帯もある。250mm以下になると灌漑なしには作物栽培は困難である。この農法の基本は雨水流失防ぎ,土壌水分蒸発を抑え,できるだけ多くの水を土壌中に貯え,その水を作物に有効に利用させることにある。傾斜地では,等高線栽培を行ったり,耕地の周囲畦畔(けいはん)を設けたりして雨水の流失を防ぐ。さらに雨水を地中深く貯蔵するために雨季の前には深耕しておく。土壌からの蒸発を抑える目的で,表土をかきまぜる作業を繰り返し行い,土壌の下層表層の毛管連絡を切断して土壌の表面だけを乾燥させ,下層からの水分の上昇を防ぎ,そこに水を貯えるようにする。作物の種子は比較的深まきした後よく鎮圧し,毛管連絡によって周囲の土壌から種子に水が移動するようにする。水の利用効率をよくするため土壌改良も重要である。麦類のほか生育期間の短いソルガムなどの作物が選ばれる。
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百科事典マイペディア 「乾燥地農業」の意味・わかりやすい解説

乾燥地農業【かんそうちのうぎょう】

乾地農業,乾燥農業とも。雨量の少ない地方で,特に引水せずに行う畑作農業。雨水の流失を防ぎ,土壌水分の蒸発を抑え,できるだけ多くの水を土壌中に貯えて作物にその水を有効利用させるのが特徴。古くは地中海沿岸,南ロシアなどで,また近代米国の草地開拓でも改善された乾地農法が用いられ,小麦などの栽培圏はこの農法により世界の半乾燥地域へ拡大した。→灌漑(かんがい)

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