事務機械工業(読み)じむきかいこうぎょう

改訂新版 世界大百科事典 「事務機械工業」の意味・わかりやすい解説

事務機械工業 (じむきかいこうぎょう)

事務機械工業とは,オフィスなどで行われる事務のシステム化,合理化のために使用される事務機械・器具を製造する産業である。事務機械は,一般的に,文書ドキュメント)作成,複写印刷,伝達,保管検索の四つの基本機能を単独または複合的に備えている。おもな事務機械には,複写機(コピー機),ページプリンターファクシミリ日本語ワードプロセッサーワープロ),電卓レジスターなどがある。また,パーソナル・コンピューター(パソコン)も,事務機械としてオフィスに導入されることが多い。1997年の主要製品の生産金額は,パソコン(パソコンサーバーを含む)が2兆4521億円,プリンターなどの入出力装置が1兆3902億円,複写機が4967億円,ファクシミリが2959億円,日本語ワードプロセッサーが928億円などとなっている(通産省《生産動態統計調査》による)。

 第2次大戦前の事務機械の中心は,レジスター,英文タイプ,謄写版などであったが,いずれも欧米からの輸入品が中心で,一部の官公庁,企業で使われていたにすぎなかった。戦後から昭和30年代までは事務合理化ブームに乗って電動計算機など新しい事務機械の輸入が進められた。また,1950年に日本で開発されたジアゾ複写機は,低コスト・簡便さを武器に〈1事務所に1台〉といわれるほど急速に普及した。その後,エレクトロニクス化の進展に伴い,60年代中ごろ以降,加算機,電卓,電子複写機,電子レジスター,電子タイプライターなど続々と新製品が登場した。とくに1980年ころからはパソコン,ワープロ,ファクシミリといったエレクトロニクス・通信技術を駆使した製品が急速に普及し,オフィス事務の本格的な合理化・効率化の推進,いわゆるOA(オフィス・オートメーション)化を支えた。

 1990年代以降,急激に進展したディジタル化の流れは,コンピューターや通信との融合による事務機器のシステム化,ネットワーク化を促し,事務機器のあり方に大きな変化をもたらした。これによって,複写機,プリンター,ファクシミリを1台で兼ねるなど,複合的な機能を備えた製品も登場してきている。他方各社による低価格機の投入により,従来はオフィスのものであった事務機械は,家庭にも普及するようになった。

 この業界の特徴は,(1)精密機器,カメラ,家電,コンピューター,通信機器など多くの業種に属するメーカーが,おのおのの得意技術を活かして参入していること,(2)技術革新のスピードが速いため,新製品開発や,既存製品の多機能化,高性能化,低価格化が絶えず行われていること。また,それに伴う市場シェアの変化も激しいこと,(3)複写機,ページプリンター,ファクシミリなど,輸出産業として強い競争力を持っている製品が多く,各種機器の技術標準が世界的に統一化されてゆく動きの中でも,日本が主導的な地位を担ってゆける可能性が高いこと,である。

 今後の事務機械・機器の発展の方向性としては,(1)カラー化が進展する,(2)それぞれの機器が,ネットワークに接続する端末として,文書作成,入出力などの機能別に再構成される,(3)SOHO(small office,home officeの略)などの小規模オフィスに代表される分散型のビジネス環境に対応して,個人を対象とした機器が増加し,家電や文具との融合が進む,などが予想される。一方,業界が対応してゆくべき課題としては,(1)メーカーや業界相互の連携によるハード・ソフト両面からの技術標準の統一,(2)部品や消耗品の再利用など,環境に配慮した製品設計および回収システムの確立,があげられる。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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