二重母音(読み)にじゅうぼいん

精選版 日本国語大辞典 「二重母音」の意味・読み・例文・類語

にじゅう‐ぼいん ニヂュウ‥【二重母音】

〘名〙 一つ音節をなすものとして、二つの異なった母音が連続しているもの。東京語の「貝」の〔 ai 〕、「鯉」の〔 oi 〕、「杭」の〔 ɯi 〕など。重母音。〔国語声音学(1902)〕

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

デジタル大辞泉 「二重母音」の意味・読み・例文・類語

にじゅう‐ぼいん〔ニヂユウ‐〕【二重母音】

連続する二つの異なった母音で、一つの音節をなすもの。東京語の「貝」の[ai]など。重母音。

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

日本大百科全書(ニッポニカ) 「二重母音」の意味・わかりやすい解説

二重母音
にじゅうぼいん

同一音節内で音価が変化する母音を複合母音といい、そのうちでも特に変化が二音間に生ずるものを二重母音という。このように二重母音は、2種の母音が同一音節に属するところから、音節の頂点形成機能上、一方が音節主音他方が音節副音という形で、互いに主従関係をなすことになる。たとえば英語の‘I’[a]では、それぞれ[a]が主音、[]が副音となり、IPA国際音声字母)では音節副音部に補助記号[˘]を付すことになっている。

 また、前述の‘I’のように、「聴こえ」が漸次減少するタイプを降り二重母音、逆に中国語の光[kɑŋ]のように「聴こえ」が漸次増大するタイプを昇り二重母音、さらに二音間に「聴こえ」の大小差を認めがたいタイプを平ら二重母音と称して、下位区分することがある。なお、英語学では、「聴こえ」でなく、舌の高さを基準としてこれを評価するため、前述の「昇り二重母音」を「下方向二重母音」、「降り二重母音」を「上方向二重母音」と称する。しかしこの呼称は、基本的な評価基準そのものに難点があるのみならず、いたずらに初学者を混乱させる点でも首肯しがたい。

 世界言語を音韻的側面から類型化する際にも、二重母音化を好む傾向性を有するか否かは興味ある結果をもたらす。たとえば、日本語フランス語の母音は、α+β>γ式の変化を遂げてきたという通時的特徴があり、この点で、二重母音化を遂げてきた英語とは、決定的に袂(たもと)を分かつことになる。

[城生佰太郎]

『城生佰太郎著、金田一春彦監修『音声学』(1982・アポロン音楽工業社)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「二重母音」の意味・わかりやすい解説

二重母音
にじゅうぼいん
diphthong

同一音節中にある連続した2つの母音をいう。たとえば,日本語 (近畿方言など) の[kai] (貝) ,[koi] (恋) などにみられるものである。これらの例では[i]は持続部がなく (わたり音という) ,短くて弱い。このように音節主音の次に音節副音がくる二重母音を「降り二重母音」という。それに対して,副音の次に主音がくるものを「昇り二重母音」といい,どちらが主音とも決めがたいものを「平ら二重母音」という。英語の poor「貧しい」のように中央の[ə]に向ってわたっていくものは「中向き二重母音」という。音節の副音には,[aı˘],[ı˘a],[uə˘]のように[ ]をつけて表わす。また[ ]のように下に[ ]をつける方式もある。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

百科事典マイペディア 「二重母音」の意味・わかりやすい解説

二重母音【にじゅうぼいん】

同一音節中にある連続した二つの母音。ふつう,音節主音と副音とからなり,副音はわたり音で短い。主音の次に副音がくる下降二重母音,副音の次に主音がくる上昇二重母音,主音と副音の区別がない平二重母音に分かれる。標準英語には下降二重母音が多く,日本語でも東京方言などは[i]を副音とする下降二重母音に限られている(たとえば,鯉koi)。

出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報

世界大百科事典(旧版)内の二重母音の言及

【音声学】より

…cart[kːt]〈車〉。(7)二重母音 舌がある母音から出発し他の母音へ向かって移動しながら1音節を構成するものを二重母音diphthongという。例えば,英語のI[a]〈私〉では,舌が[a]の構えから高母音[]へ向かって移っていくが,[]の手前で調音を終えてしまう(図10参照)。…

【母音】より

…フランス語のpaix[pɛ]〈平和〉の[ɛ]は口母音であるが,pain[p]〈パン〉の[]は鼻母音である。また,舌が低母音[a]の構えから出発して低め高母音の[]へ向かって移動するとき二重母音[a]が出る。このように連続した母音において舌の位置が変化するものを二重母音という。…

※「二重母音」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

今日のキーワード

脂質異常症治療薬

血液中の脂質(トリグリセリド、コレステロールなど)濃度が基準値の範囲内にない状態(脂質異常症)に対し用いられる薬剤。スタチン(HMG-CoA還元酵素阻害薬)、PCSK9阻害薬、MTP阻害薬、レジン(陰...

脂質異常症治療薬の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android