人口移動（読み）じんこういどう（英語表記）migration

精選版 日本国語大辞典

じんこう‐いどう【人口移動】

〘名〙 人口がある地域から他の地域へ移動すること。

出典　精選版 日本国語大辞典

改訂新版　世界大百科事典

人口移動 (じんこういどう)
migration

人口移動には，国内人口移動と国際人口移動とがある。前者は，国内のある地域から他の地域への空間移動，後者は一つの国から他の国への国境を越えての移動である。また国内人口移動においては，同じ地域社会の中での常住地の変更local movementと異なった地域社会の間での常住地の移動migrationが区別される。日本では総理府統計局において住民基本台帳法にもとづいて登録された人口移動の集計を行っているが，その場合，自区市町村内移動（local movementにあたる）と，さらに市区町村間移動（migrationにあたる）を府県内移動と府県間移動に区分して集計した結果を発表している。国内移動において，ある地域に入ってくる人口を転入人口，反対に出ていく人口を転出人口，また外国に出ていく人口を移出民emigration，反対に外国から入ってくる人口を移入民immigrationという。国際的移動人口を一括して移民ともよぶ。一般に移動人口は若い年齢層に多く，子どもや老年人口では少ない。特定年齢層に移動が集中する場合，このような傾向を移動の年齢選択性という。

　人口移動は，地域社会の発展と密接な関係がある。現住地での仕事や環境について不満が多い場合，より望ましいと思われる地域への移動が起きやすいであろう。人口移動は，したがって経済的・社会的変化や地域の経済的・社会的格差に対する人口の適応であるといわれる。このような移動の発生を説明する理論として〈押出し・吸引の理論“push-pull”theory〉がある。大都市は人口を吸引する魅力をもっているとか，農村は人口を押し出す要因が多いということがいわれてきた。しかし，押出しか吸引かだけでは説明することは困難である。AとBの地域間だけでも多くの複雑な要因が相互に作用しあうばかりでなく，その社会全体の変化や発展の段階が移動に影響することも考慮する必要がある。さらに留意すべき点は，人口移動が地域人口の出生率，死亡率に与える影響である。転出人口の大部分は，結婚したばかりか，まもなく結婚する若い人口であるケースが多いから，転出地域の出生率を低下させ，転入地域の出生率を高める傾向がある。また若い人口は死亡率が低いため，転出地域の死亡率を高めるとともに，反対に転入地域の死亡率を低下させる傾向がある。人口移動がはげしく，かつ長期に持続するときは，このような影響が強くあらわれてくる。日本では，出生率が死亡率よりも低くなっており，自然増加率マイナスといった市町村もあらわれている。
→人口分布
執筆者：黒田 俊夫

出典　株式会社平凡社「改訂新版　世界大百科事典」

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典

人口移動
じんこういどう
migration

一般に人口の空間的，地域的移動をいうが，国際連合はそのうち出発地から目的地への住所変更を伴うものと規定している。したがって空間的移動を行なっても住所の変更を伴わない通勤や出稼ぎ，季節移動や短期間の旅行などは含まれない。人口移動には大別して国内人口移動と国際間人口移動 (移住) とがある。国内人口移動には，単身，家族，集団など移動者の集団性による移動，地域社会内移動，都市農村間移動，都市間移動など移動の地域による移動，職業移動，就学移動など移動の目的による移動などがある。近代社会では，より高い生活水準やよりよい就業の場を求めて，地方から都市部への職業移動が，単身あるいは家族単位で活発に行われている。

出典　ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典

世界大百科事典（旧版）内の人口移動の言及

【人口】より

…しかし，2000年には，500万人以上の人口をもつ大都市は世界で45都市にも達し，その大部分はアジアに集中することが予測されている。　大量の人口移動が，地方，農村から大都市に向かって持続して行われると，受入地の大都市では生活環境の悪化，公害問題，青少年非行の増大，スラムの形成等の過密の弊害が発生する。また，大量の労働力を喪失した地方では生活基盤の弱体化，生活水準の低下，地域共同体機能の低下等の過疎の弊害が発生する。…

【人口分布】より

…自然増加率が地域人口の分布に影響することはいうまでもない。しかし，経済的･社会的･政治的変動によって顕著な変化をする人口移動が，地域人口の増減に大きな影響をもたらし，人口分布に変化を与えることも多い。したがって，自然増加と社会増加が地域人口に与える影響は，地域の特徴と時代によって異なっている。…

※「人口移動」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典｜株式会社平凡社「世界大百科事典（旧版）」