人工透析(読み)じんこうとうせき

精選版 日本国語大辞典 「人工透析」の意味・読み・例文・類語

じんこう‐とうせき【人工透析】

〘名〙 腎不全の治療法の一つ。体内の老廃物を半透膜を介して人工的に取り除き、血液を浄化させる方法。透析。

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デジタル大辞泉 「人工透析」の意味・読み・例文・類語

じんこう‐とうせき【人工透析】

透析療法とうせきりょうほう

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家庭医学館 「人工透析」の解説

じんこうとうせき【人工透析】

◎人工透析とは
◎血液透析
◎腹膜透析(腹膜灌流)
◎血漿(けっしょう)交換法
◎血液吸着(けつえききゅうちゃく)(吸着筒法(きゅうちゃくとうほう))
◎長期人工透析の合併症

◎人工透析(じんこうとうせき)とは
 腎臓(じんぞう)のもっとも大事なはたらきは、からだの中の老廃物や不要な水分を除去して血液をきれいにし、からだの状態を一定に保つことです。
 かつて腎臓の病気は、直接死にいたる病でした。腎臓のはたらきが極端に落ちたとき、血液をきれいにして、なんとか命を救うことができないかということから、人工透析が考案されました。
 実際この人工透析が初めて大きな威力を発揮したのは、50年以上前の朝鮮戦争のときで、戦傷による急性腎不全(じんふぜん)の治療に用いられました。
 日本で一般に広く透析が普及し、必要な患者さんが誰でもその恩恵に浴することができるようになったのは昭和50年代です。
 現在は、約15万人の患者さんが維持透析を受けています。そして、その数は年々増加しています。日本の透析は、その数、医療技術、福祉体制の面において世界の最先端にあります。
 老廃物などを除去して血液をきれいにするには、おもに透析膜(とうせきまく)を利用します。透析膜としてもっとも普及しているのが、血液を体外に取り出し、線維膜(せんいまく)により透析する方法(血液透析(けつえきとうせき))です。また、透析膜として患者さん自身の腹膜(ふくまく)を利用する方法もあります(腹膜透析(ふくまくとうせき))。この透析によって血液をきれいにするほかに、汚れた血漿(けっしょう)を除去して取り替える方法(血漿交換)、有害成分を吸い取る方法(吸着)など、さまざまな方法があります。
 以上述べてきたように、血液をきれいにするいろいろな方法が開発され、応用されています。これらの方法は血液浄化療法(けつえきじょうかりょうほう)と総称されています。原理は、患者さんの血液を体外に取り出し、膜分離あるいは遠心分離により、血液中の有害物質を取り除き、きれいにした血液を患者さんにもどすのです。血液を体外に取り出し、またもとへもどすことを体外循環(たいがいじゅんかん)といいます。日本では膜分離が中心ですが、欧米諸国では遠心分離が主です。
 血液中のどのような有害物質を除去するかによって(除去する物質の大きさによって)、どの血液浄化療法を選ぶかが決まります。表「血液浄化療法」に血液浄化療法の種類と、それぞれの対象とする病気をまとめました。このなかで、腎不全の治療としてもっとも広く行なわれているのが血液透析です。

◎血液透析(とうせき)
●透析のしかた
 利(き)き腕でないほうの手首(多くは左手首)の動脈と静脈をつなぎ、腕の静脈を動脈化します。そうすると静脈は太くなり、透析に十分な血液が流れます。太くなって動脈化した静脈(内(ない)シャント)に針を刺し、体外循環した血液を線維膜(せんいまく)(ダイアライザー)に通し、もう1本刺した針から血液を体内にもどします。ふつうは、脱血(だっけつ)(体外へ血液を導き出す)と返血(へんけつ)(体内へ血液を送り返す)の2本の針刺しが必要ですが、1本の針で脱血と返血を行なうこともできます(シングルニードル)。図「血液透析のしくみ」に血液透析の模式図を示します。
 ダイアライザーには体外循環した血液のほかに、灌流(かんりゅう)(透析)液が流れています。この灌流液と血液のそれぞれの性状のちがいを利用して、血液をきれいにします。すなわち、血液と灌流液の間(ダイアライザーの小さな孔(あな)を通して)で、拡散(かくさん)、浸透(しんとう)、限外濾過(げんがいろか)の原理により、老廃物である尿素窒素(にょうそちっそ)、クレアチニン、不必要な水などが除去され、血液の電解質は正常化されます。
 拡散とは、物質が分子運動によって全体に広がっていく性質をいいます。血液の尿素窒素、クレアチニンは分子量が小さいので、拡散により線維膜の孔を通って、透析液のほうへ除去されていきます。分子量の大きい血中成分(赤血球(せっけっきゅう)、白血球(はっけっきゅう)、たんぱくなど)は、ダイアライザーの小さな孔を通過することができないため、除去されません。また、透析液側の圧は血液側の圧より高いので(浸透圧差)、血液側の水分、電解質は圧の高い透析液側のほうへ流れ込んでいきます。これを浸透といいます。透析液側をモーターで吸引して陰圧をかけ、血液側から水分を除去することを限外濾過といいます。血液透析には大量の透析液が必要です。
●透析の時間と回数
 慢性腎不全の患者さんは、この血液透析を専門施設で1回4~5時間、週2~3回続けていきます。日中仕事を持っている人は、夜間透析することもできます。日本ではあまり普及していませんが、家庭での透析も可能です。透析中は本を読んだりテレビを見ることができます。
●日常生活の注意
 透析を行なっていても、健康な人とほとんど同じような生活ができます。しかし、透析を長く維持していくためには、食事における水分、塩分、たんぱく質の制限が必要なことはいうまでもありません。食事の具体的制限については、透析施設の医師の指示にしたがってください。
 旅行については、旅行先の透析施設とあらかじめ連絡をとることによって、長期旅行も可能となります。
 維持透析を受けている患者さんは、理想体重というのが設定されます。それぞれの患者さんのからだにとって医学的にもっとも適切な体重値です。透析直後、その理想体重になるように除水します。水分を多くとりすぎると、理想体重をかなりオーバーすることになり、浮腫(ふしゅ)(むくみ)が現われ、肺水腫(はいすいしゅ)となり非常に危険です。ふつう透析前の体重は、理想体重より1~2kg増加している状態です。
 内シャントが作製されている腕では、皮膚表面の静脈が動脈化されているので、けがなどしないように十分注意しましょう。内シャントは、透析するためにはなくてはならないものですから、大事にしなければなりません。

◎腹膜透析(ふくまくとうせき)(腹膜灌流(ふくまくかんりゅう))
●透析のしかた
 腹膜をダイアライザーにして透析を行なう方法です(図「腹膜透析(腹膜灌流)のしくみ」)。おとなの腹膜を広げると2m2ほどの広さになります。腹腔内(ふくくうない)へ透析液を入れると、血液から余分な水、尿素窒素、クレアチニンなどが透析液のほうへにじみ出てきます。そして汚れた透析液をサイホンの原理で体外へ出します。このことをくり返すことによって、血液をきれいにします。
 腹膜透析は血液透析と異なり、高価な透析装置は必要なく、患者さんの循環系への負担も少ない点がすぐれていますが、くり返し行なわなければならず、時間がかかる(効率が悪い)、腹膜炎(ふくまくえん)をおこしやすい、腸管の癒着が生じやすい、たんぱくも透析液へ出てくるなどの欠点があります。
●CAPD(持続性携帯腹膜透析(じぞくせいけいたいふくまくとうせき))
 最近、腹膜透析を改良したCAPD(持続性携帯腹膜透析)という方法が普及してきています。この方法は、腹腔内へカテーテルを半永久的に留置して、おとなで透析液2ℓを約6時間おなかの中にためて、排液します。これを1日4回くり返すわけです。透析液の入った袋をカテーテルにつないでおなかの中へ注入して、空になった袋を6時間からだに巻きつけておいて、その袋の中に排液するわけです。排液された袋を捨てて、新しい透析液の入った袋とかえます。
 CAPDは、はたらいているときや睡眠中でも透析できるわけですから、患者さんにとっては、これが使用できる状態であれば、たいへんよい方法です。

◎血漿交換法(けっしょうこうかんほう)
 血液は、細胞成分としての赤血球、白血球、血小板と、それ以外の部分の血漿に分類できます。
 血漿交換は、体外循環した血液から病的な血漿を分離・除去して、除去した血漿のかわりに、たんぱくをまじえた液(置換液)によって置き換える方法です。
 肝不全、免疫異常などの病気で、悪影響をおよぼしている血漿を取り除くために行なわれます。

◎血液吸着(けつえききゅうちゃく)(吸着筒法(きゅうちゃくとうほう))
 体外循環した血液を吸着物質(活性炭)で充填(じゅうてん)したカラム(筒状の容器)に通すことによって、クレアチニン、尿素窒素、有害物質を除去する方法です。腎不全、薬物中毒、肝不全などで、この血液吸着が行なわれます。

◎長期人工透析(じんこうとうせき)の合併症
 長期透析のおもな合併症として腎性貧血、高血圧、腎性骨異栄養症(じんせいこついえいようしょう)(透析性骨症(とうせきせいこつしょう))、透析アミロイドーシスをあげることができます。
 腎性貧血についての詳しい解説は、コラム「腎性貧血」を参照してください。腎不全患者さんでは貧血の原因として、消化管出血、出血傾向、悪性腫瘍(あくせいしゅよう)などもありますから注意が必要です。
 高血圧は、理想体重をオーバーしているために生ずることが多いので、注意が必要で、生活の節制が重要です。降圧薬も必要に応じて投与されます。
 腎性骨異栄養症は、長期透析における骨の合併症の総称で、非常に大きな問題です。代表的なのは、腎臓でつくられる活性型ビタミンDの欠乏と二次性副甲状腺機能亢進症(ふくこうじょうせんきのうこうしんしょう)が背景となる骨軟化症(こつなんかしょう)と線維性骨炎(せんいせいこつえん)です。幸い現在では活性型ビタミンDは、薬として投与することができます。副甲状腺は骨に関係する重要なホルモンをつくっていますが、長期透析では副甲状腺のはたらきが亢進してきます。関節痛、皮膚のかゆみ、骨変化、異所性石灰化などが現われてきます。進行した二次性副甲状腺機能亢進症では、大きくなった副甲状腺を切除します。
 長期透析では、透析液や内服剤に含まれているアルミニウムが蓄積し、全身骨痛、骨折、全身けいれんなどが生じます(アルミニウム骨症(こつしょう))。こうした場合には、アルミニウムを除去する薬剤のデスフェラールの投与、透析液の水処理、アルミニウム含有製剤の投与禁止などが行なわれます。
 透析アミロイドーシスは、おもに腎臓からもともと排泄(はいせつ)される分子量の小さいたんぱくであるβ2ミクログロブリンの蓄積によって生じます。とくに腱(けん)、神経周囲、関節、椎間板(ついかんばん)に蓄積されていろいろな症状をおこします。手の関節、腱などへの蓄積による病変を手根管症候群(しゅこんかんしょうこうぐん)(「手根管症候群」)といい、手指のしびれ、筋力低下、筋萎縮(きんいしゅく)、ばね指などがみられます。これを防ぐには、透析中できるだけβ2ミクログロブリンを除去するようにすることがたいせつです。症状が強いときには、手術を行ないます。

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改訂新版 世界大百科事典 「人工透析」の意味・わかりやすい解説

人工透析 (じんこうとうせき)

透析療法dialysisの一つ。腎不全のために,腎臓のもつ老廃物排出機能が著しく障害されたときに,透析器dialyzer(一般には人工腎臓という)を用いて,血液を透析,ろ(濾)過する方法をいう。血液透析hemodialysisともいう。1910年代から試験的に行われていたが,本格的に行われるようになったのは50年代以降である。

半透膜のもつ物質の選択的透過性を利用して,血液中に蓄積された老廃物をろ過するもので,半透膜を透過する物質は膜の両側の濃度差によって,濃い側から薄い側へ移動する。したがって,半透膜と透析液dialysateを適切に選択すれば,腎臓のもつろ過機能に近い成績を期待することができる。現在,人工透析に用いられている半透膜は,クプロファン膜では分子量5000以下の物質を自由に透過させることができる。この場合,血漿タンパク質は移動しない。そこで,透析液として正常血漿と類似の液を用い,一定の圧力を加えて限外ろ過を行うことによって,糸球体でのろ過と同じようなろ過を行うことができる。

透析装置は透析器を中心にし,血液と透析液を流すためのポンプや透析液供給槽が組み合わされたもので,現在,日本で用いられている透析器にはコイル型,積層型,中空繊維型の3種がある。コイル型はコルフ型とも呼ばれ,帯状の半透膜をコイル状に巻き込み,上方から血液,下方から透析液を流して,透析を行う。積層型では,透析膜を2枚重ね,膜間を血液,膜外を透析液が流れ,中空繊維型では,多数の中空繊維を束ね,中空繊維内を血液が,外側を透析液が流れる。これら3型の間に機能の優劣はほとんどない。

 生体から装置への血液の流し方は,かつては,そのたびごとに動脈,静脈に穿刺(せんし)して血液の体外循環を図っていたが,反復透析が困難であったため,後には動脈,静脈にチューブを挿入して固定し,透析以外のときは双方を結ぶ外シャント方式がとられるようになった。しかしこの方法でも血栓の形成や感染などの合併症が起こりやすく,シャントが数ヵ月~2年しかもたないなどの欠陥があるため,現在では動脈と静脈を生体内で連絡させ,動脈化した静脈に2本の針を刺して固定させる内シャントの方法が用いられている。

 透析に要する時間は病態によって異なるが,急性腎不全の初期は1回2~4時間で連日,慢性腎不全では1回3~5時間,週2~3回が必要とされている。

 慢性腎不全に対する人工透析は現在確立された治療法となっており,1995年現在,約15万5000人がこの療法を受けており,毎年約1万人ずつ増加している。なお人工透析の様式には,家庭で行う家庭透析,病院で患者自身が行うリミテッド・ケア透析,病院透析の3種があるが,日本では家庭透析は普及していない。

人工透析に際しては,透析中の過誤による空気塞栓や出血,細菌感染,また一時的に血液が体外へ流出することによる血圧の低下やショックなどのほか,不均衡症候群,透析性認知症,出血,血清肝炎などの合併症を併発することがある。

 不均衡症候群disequilibrium syndromeは血液-脳関門での物質の移動が血液の清浄化に対応できないため,髄液と血液の間に浸透圧などの差が生じて,脳浮腫となるために起こると考えられ,透析30分前後から,悪心,嘔吐,血圧上昇などが起こり,全身の痙攣(けいれん)や意識障害に至ることもある。透析性認知症は進行性認知症,不随意運動などを示し,予後は一般に不良である。出血は透析中に抗凝血薬のヘパリンを用いることから起こるもので,硬膜下出血が多い。血清肝炎は末期腎不全で輸血の機会が多い場合にみられ,4~5%の頻度といわれている。

腹膜透析peritoneal dialysisは腹膜灌流ともいわれ,人工透析と並ぶ,いま一つの透析療法である。人工透析が人工の半透膜を利用して血液をろ過するのに対し,腹膜透析は自己の腹膜を利用して血液の清浄化を図る方法である。方法は,へその下から腹腔内へ側孔のあるカテーテルを挿入して,500~2000mlの灌流液を注入,しばらく置いて,灌流液を交換するもので,15~60分おきに20~80lの液交換を行う。人工透析に比べ,心臓への負担が少ないことや不均衡症候群の発生が少ないなどの利点があり,高度の尿毒症のある場合などに適用されるが,長期の透析療法としては,人工透析のほうが優れている。
腎臓 →腎不全
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知恵蔵 「人工透析」の解説

人工透析

体の血液を浄化させる働きを腎臓に代わって人工的に代行する方法。末期腎不全に対する治療方法の一つである。透析療法の別称。
腎臓の最も重要な役割は血液をろ過して尿を作り、これを体外に排泄(はいせつ)することである。腎臓が悪くなり、その機能が落ちると、余分な水分や塩分を体外に排泄できず、むくみや高血圧、肺水腫(肺に水がたまり呼吸困難になる)を引き起こす。また、老廃物を排泄できないことから、吐き気や食欲低下、意識障害といった尿毒症を起こす。
人工透析(透析療法)には、大きく分けて血液透析と腹膜透析の2種類がある。血液透析は、腕の血管に針を刺しポンプを使って血液を身体の外に取り出し、ダイアライザ(透析器)に循環させて尿毒素を除去した後、身体に戻すという方法である。ダイアライザとは、細い管状の透析膜を約1万本束ねたもの。透析膜の小さな穴を通して老廃物や水分、塩分など不要なものを除去し、浄化された血液を身体に戻す。血液透析は、通常週3回、1回4時間程度の継続的な通院治療が必要である。
腹膜透析は、腹部に埋め込まれたカテーテル(チューブ)を通して腹腔内に直接透析液を注入し、腹膜を介して血中の尿毒素、水分や塩分を透析液に移動させる方法である。老廃物などを含んだ透析液は、再びカテーテルを通して体外に出す。通常、1日4回の腹膜透析液の交換を必要とする。夜間、就寝中に機械を使って透析液の交換を行うシステムもある。
日本透析医学会の調査によると、人工透析を受けている患者数は2017年度末時点で33万4505人。人口100万人当たり2640人、国民378.8人に1人が透析患者である。透析患者数は、台湾に次いで日本は世界2位である。
透析患者数は年々増加傾向であったが、近年患者数の伸びは鈍化している。これは死亡患者数が増加傾向にあることが影響している。一方、新規透析導入患者数は、4万959人で年々増加傾向を示している。
導入患者全体の平均年齢は男性68.90歳、女性71.41歳で年々高齢化している。平均透析歴は、男性6.82年、女性8.30年。透析歴5年未満が全体の半数近い47.4%を占めている。一方、透析歴20年以上は8.3%、30年以上が2.2%、40年以上が0.3%。最長透析歴は49年4カ月であった。透析歴の長い患者が増加し、1992年末には1%に満たなかった透析歴20年以上の患者は、2017年末には8.3%に達している。
透析療法の治療目標は、患者の生活及び生命の質を向上させ、維持することである。末期腎不全の患者の生命維持に必要不可欠な人工透析であるが、患者の全身状態によってはかえって身体の負担になる場合があることから、人工透析の開始または継続を見合わせる事態も起こり得る。
そうした事態に対応するため、日本透析医学会は、14年に「維持血液透析の開始と継続に関する意思決定プロセスについての提言」をまとめた。この中で、治療方針の決定は、医療チームとして行い、十分な情報提示の下で、患者が的確な自己決定を行うことができるようにすること、などを提示した。
19年3月の報道で、公立福生病院の外科医が、当時44歳だった腎臓病患者の女性に対して人工透析治療をやめる選択肢を示し、透析治療中止を選んだ女性が1週間後に死亡したという事件が明らかになった。
この報道を機に、患者の生命予後と深く関わる、透析の開始や中断の意思決定のあり方について議論が広がった。日本透析医学会では、「透析を行っている患者は終末期には含まない」ことを確認。一方で患者の状態については、「透析に伴う合併症等を含めて個々に判断していくことが重要」とした。
その指針とすべく、日本透析医学会は「人生の最終段階における維持透析の開始と継続に関する意思決定プロセスに関するガイドライン(案)作成委員会」を立ち上げた。厚生労働省が提唱する「協働意思決定」や「人生会議(人生の最終段階における医療・ケアについて、本人が家族や医療・ケアチームと繰り返し話し合う取り組み)」を盛り込んだ意思決定のためのガイドラインを、19年中に作成することとしている。

(星野美穂 フリーライター/2019年)

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「人工透析」の意味・わかりやすい解説

人工透析
じんこうとうせき
artificial dialysis

腎(じん)(臓)が十分にその機能を営まなくなったときに、透析膜の物理化学的性状を利用して、その機能を人工的に代用させる治療法をいう。本来、腎は三つの機能を有する。第一に過剰の水とタンパク質代謝の窒素含有性老廃物(尿素、クレアチニン、尿酸)を分泌すること、第二に血漿(けっしょう)の酸・塩基平衡と電解質濃度を調節すること、第三に内分泌機能を営むことである。人工透析では第三の機能については代用できない。

 溶質には分子の大きさによって晶質と膠質(こうしつ)との2種類がある。晶質は小さな分子で、たいていの半透膜を透過する。無機塩、アミノ酸、糖、その他の小分子の有機化合物が含まれる。一方、大部分のタンパク質と多糖類は膠質とよばれ、たいていの自然膜を透過しない。透析膜というのは、晶質は通過させるが膠質を通過させない膜のことである。

 人工透析には二つの方法がある。第一は患者自身の透析膜を利用する方法で、腹膜がこの目的にもっとも適しており、腹膜透析または腹膜灌流(かんりゅう)という。第二は患者の血液から老廃物と毒素とを取り除くように構成された溶液中に人工の透析膜(PEPA膜など)でつくった管を浸し、この管の中に患者の血液の一部を循環させる方法で、血液透析とよび、この目的のために用いられる器械のことを人工腎臓という。

[中村 宏]

『前田憲志編著『人工透析・CAPD』(1995・永井書店)』『大平整爾著『透析療法の基本と実際』第2版(2001・中外医学社)』『佐中孜・秋葉隆編著『透析療法――専門医にきく最新の治療』第2版(2003・中外医学社)』『澤西謙次監修、齊藤昇他編著『透析患者と食事管理』第2版(2006・第一出版)』『秋澤忠男編『やさしい透析患者の自己管理』改訂第3版(2007・医薬ジャーナル社)』

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百科事典マイペディア 「人工透析」の意味・わかりやすい解説

人工透析【じんこうとうせき】

腎臓の機能が低下して,尿毒症を起こす危険がある時,腎臓に代わって血液の組成を正常化する方法。人工腎臓を用いる血液透析,本人の腹膜を使用する腹膜透析,血漿のうち不要なものを除去して必要なものを加える血漿交換療法,血液中の不要なものを吸着筒を用いて排除する方法がある。現在主流となっているのは血液透析であるが,血漿交換療法と吸着筒を用いる方法は,薬物中毒や膠原(こうげん)病などによって起こった血液異常の治療にも用いられる。
→関連項目血液透析腎移植腹膜透析

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「人工透析」の意味・わかりやすい解説

人工透析
じんこうとうせき
artificial dialysis

腎臓の機能を代行する治療法で,血液透析と腹膜透析とがある。腹膜透析は,腎臓の代りに腹膜を利用して血液を透析する方法で,腹腔内に大量の滅菌溶液を注入し,一定時間後に排液することを繰返す。血液透析は人工腎臓を利用するもの。人工透析は,急性腎不全にも用いられるが,慢性腎不全の治療や腎移植の前段階として用いられることが多い。日本でも近年,人工透析の普及がめざましく,腎不全の死亡率や合併症の発生率を下げるために大いに役立っている。

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化学辞典 第2版 「人工透析」の解説

人工透析
ジンコウトウセキ
artificial dialysis

血液と透析液を半透膜を介して接し,ドナンの膜平衡によって血液中の尿素ほかの有害物を取り除く医療.最近では,腎不全患者の血液をホロファイバー状の半透膜を通過させる方式がとられている.腎臓が悪くなると,造血ホルモンであるエリトロポイエチンも分泌されなくなるので,透析患者では補充療法が必要である.

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

栄養・生化学辞典 「人工透析」の解説

人工透析

 腎不全の際,老廃物が血漿中に蓄積するので,それを人工的に透析で除去する治療法.

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