人相(読み)にんそう

精選版 日本国語大辞典 「人相」の意味・読み・例文・類語

にん‐そう ‥サウ【人相】

〘名〙
① 人の顔つき。特に、心の内面を表わした顔付。相好(そうごう)容貌
※妙一本仮名書き法華経(鎌倉中)六「まゆたかくしてなかく、ひたい、ひろく平正にして、人相(ニンサウ)具足せらん」 〔皮日休‐相解〕
② (━する) 人の顔つきを見て、その人の未来の運命、吉凶などをうらなうこと。また、その相。
愚管抄(1220)五「相人にてよく人相するおぼえありき」
③ (━する) 特に、江戸時代、遊里で相手の容姿態度から、ふところ具合をうらなって、あいそよくしたり、すげなくしたりすること。
※雑俳・川柳評万句合‐明和五(1768)仁四「出る迄はがってんづくでにんそうし」

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デジタル大辞泉 「人相」の意味・読み・例文・類語

にん‐そう〔‐サウ〕【人相】

人の顔つき。容貌ようぼう。「人相が変わる」「人相のよくない男」
人の顔だちを見て、その人の運命・吉凶などを占うこと。「人相を見る」
[類語]顔付き顔立ち容貌面構え面差し面立ち面影面相容色相好血相形相剣幕面魂表情

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「人相」の意味・わかりやすい解説

人相
にんそう

骨相、面相、手相などを含む総称。身体の外見、形、動作および特徴から人間の性格、運命、未来の予見を行うのが人相学で、観相学ともいう。相とは「すがた」で、外面のみでなく内面的のものもさす。したがって人相学あるいは観相学は、人体の全体を対象とするが、一般には顔面の鑑定をいう場合が多い。手の場合は手相学となり、独立の研究として発展した。

 人相学の発生は古く、すでにインドのアーリア文化のなかにみいだされる。ギリシアにおいてもピタゴラスやプラトンらによって研究され、なかでもアリストテレスは古代西洋人相学の基礎を築いたとされ、その著述のなかで、顔面と性格の関係、つまり各種動物の外見と各民族の外見などの類似、精神の反映としての表情などから性格を論じている。18世紀スイスのラベーターは、先人の観察記録と、自身の研究成果を集録した『人相学断章』を刊行して現代人相学の基礎をつくった。18世紀中葉にはオーストリアの生理学者ガルガ、19世紀なかば、イギリスにウォルカー、アメリカにレッドフィールなどの学者が出て、20世紀に入るとドイツにクレッチマーが現れ、その著『体格と性格』(1921)は現代科学としての人相学の確立を示すものである。

 中国では上古の医書『霊枢経(れいすうけい)』にその起源が求められる。当時は病気診断の方法として身体の観察が行われたが、それから進んで、やがてそれは運命の判断にも応用されるようになったのである。宋(そう)の陳摶(ちんたん)の著作といわれ、のちに明(みん)の袁忠徹(えんちゅうてつ)増訂の『神相全編』は東洋観相学の古典として名高い。日本の観相学も、江戸時代初期にこの書の影響を受けて面目を一新し、18世紀中葉、水野南北が著した『南北相法』とともに日本における近代観相学研究の基本となっている。水野南北以後の観相家としては、山口千枝(ちえだ)、画相法(がそうほう)の創始者、林文嶺(ぶんれい)、それに続く目黒玄龍子(げんりゅうし)、中村文聰(ぶんそう)らがあげられる。

 東洋と西洋の人相学はともに類型の問題に始まり、出発点においては相似であるが、時の推移につれて両者は方向を異にし、前者の的(まと)は主として吉凶禍福、運命の消長、子孫栄枯などに向かって絞られ、より運命的であるのに対し、後者のそれは人の性格、気質、才能に向けられている。

 観相の実際において、まず問題は「形質による分類」ということである。これには諸説があり、十字面法、二十面法、五行相法などが伝えられているが、現在は、(1)栄養質(丸型)、(2)筋骨質(四角型)、(3)心性質(逆三角型)の3種基本型に人の顔を分類するのが一般的である。(1)は肉づきがよく柔和な感じ。性格は円満快活、細かいことにこだわらず人当たりもよい。欠点は決断力に欠け、飽きやすい。(2)は顔、体つきともに筋肉がしまり、闘士型。積極的で行動力に優れ、実直で粘り強い。負けず嫌いで、頑固なところから対人関係に難がある。(3)は頭部が発達し、頬(ほお)がこけ頤(あご)がとがっている。体も骨細で華奢(きゃしゃ)、知的で思考力に優れ、神経もデリケートで美的感覚が発達している。学者、思想家、芸術家タイプで、社交性に欠けるのが欠点である。

 次は「顔面の区分」である。(1)額の頂点から眉(まゆ)までが上停(じょうてい)、(2)眉の下から鼻までが中停、(3)鼻底から頤までが下停で、三停といい、これを天・地・人の三才に配することもある。(1)が表すものは初年の運、および祖先、父母、知力、官禄(かんろく)などで、上停が良好であれば初年運がよく、知能も優秀。欠陥があれば父母の縁が薄く、目上の引き立ても少、とする。(2)の表すものは中年の運勢、および自己の力量、意志、財運など。この相が良好であれば積極的で気力充実し、中年期の運勢の堅実さを示す。欠陥があれば消極的で意志薄弱、目的達成ができない。(3)は晩年の運勢、および子孫、部下、住所、愛情面などを表す。ここが良好であれば中年以降の衣食住に不自由なく、家庭的に恵まれる。貧弱であると寂しい晩年になる。

 次は「五官」。人相学上の五官とは、眉(まゆ)、目、鼻、口、耳をいう。眉は親・兄弟・朋友(ほうゆう)などの関係、寿命、健康、および文章・美術・芸能などの才能を示す。狭い眉間(みけん)は神経質、開きすぎは解放的で大まかな傾向を示すとみる。目は人相のなかでもっとも重要な部位とされ、精神力の強弱、喜怒哀楽など、あらゆる人間の心の状態を表す。とりわけ重視されるのは眼光で、目に活力があれば健康体で信念強く気力旺盛(おうせい)な人とされる。『南北相法』にも「目鋭ければ心鋭し。目柔和なれば心柔和なり」と説かれている。鼻は中年の運気、人格、自尊心、金銭の問題、肺臓の強弱などを示す。高い鼻は自尊心の強さを、低い鼻は消極的性格を表し、丸い鼻は人がよく、物質的に恵まれる相で、鼻が赤いのは散財の相という。口は下停のなかでもっとも重要視され、健康状態、生活意欲、結婚運の良否、金銭の問題、愛情の厚薄などを表す。「口は思想の器(うつわ)」といい、大きな口は積極的で意志が強く、考え方も大きいことを示し、小さな口は反対に意志薄弱、消極的性格を表すという。耳は遺伝と運命、祖先、父母、金運などを示すが、とりわけ「耳は腎(じん)の苗(なえ)」といって腎臓と密接な関係があり、腎臓、精力の強弱は耳に表れる。たとえば、耳の色の黒ずんでいる人は腎臓が悪いと判断され、また、耳が小さく貧弱な女性は子供に縁がないともいわれる。

 次は「色による病気の判断」。人相学と病気の判断は深くかかわりあい、前述のように耳が黒ずんでくるのは腎臓疾患の象とみ、さらに病気が進むと顔全体が暗色を帯びる、とする。目の下が黄色を帯びるのは肝臓の病、眉間のあたりが赤くなるのは心臓の病気、進行すると顔全体が赤らみ、怒りやすくなる。顔色が白く、頬が桃色になるのは肺の病い、額・顔全体が黄色を呈するのは消化器系の病気で動作も緩慢になる、とする。

 以上この人相学に照らして健康福徳に恵まれる人相の条件をあげれば、まず額は広く、髪際は高く、眉が秀で、耳は頭について肉が厚くよい色を呈し、鼻の先は豊大で、目には光があって黒目白目がはっきりしており、頤は肉が豊厚で潤いのあるよい色を呈している、ということなどである。

 今日では、人間の顔の数字化、記号化が図られ、その結果、コンピュータによる現代人相学も新しく開発されることになった。

[吉野裕子]


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改訂新版 世界大百科事典 「人相」の意味・わかりやすい解説

人相 (にんそう)

人の顔つきを見て,その人の運命や吉凶を占うこと。人相見はその占いをする人で,古くは相工(そうこう),相人(そうにん),相者(そうしや)などと呼んだ。職業的な相人は奈良時代からいたようで,《日本霊異記》には奈良率川(いさがわ)神社のほとりに卜筮(ぼくぜい)をかねた相八卦見(そうはつけみ)のいたことが記されている。
人相学
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占い用語集 「人相」の解説

人相

顔の形状から、その人の性質や運命を判断し、占う学問。人の外形(顔や目、鼻、口などといった各部分の形、広くは身体も含む)から、内面(心、性格、行動)を読み取り判断するもので、「面相学」・「人相術」・「観相学」などとも呼ばれる。

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普及版 字通 「人相」の読み・字形・画数・意味

【人相】にんそう

人の相。

字通「人」の項目を見る

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世界大百科事典(旧版)内の人相の言及

【占い】より

…自然に生起する現象を用いる占いとしては,天体の運行や配置によるもの(星占い),生物の行動によるもの(鳥占いなど),犠牲獣の内臓の形状によるもの(内臓占い)などがある。人間現象を用いる占いとしては,夢,憑霊状態,幻覚,人体の特徴(手相,人相など),生まれた年月日・時刻,姓名によるものなどがある。人為的につくり出した現象を用いる占いとしては,杖占い,くじ,亀甲や肩甲骨を焼いて割れ目を解釈するもの,毒占い,勝負占いなどがある。…

※「人相」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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