日本大百科全書(ニッポニカ) 「仁田勇」の意味・わかりやすい解説
仁田勇
にったいさむ
(1899―1984)
化学者。仁田直(にったすなお)(1874―1936)(東京帝国大学農学部教授)の長男として東京に生まれる。第一高等学校を経て東京帝国大学理学部化学科卒業(1922)、同年理化学研究所物理部西川正治(しょうじ)研究室に入り、X線による有機化合物結晶の構造解析を開始、ペンタエリスリトール結晶の中心炭素原子は四面体をなすと発表(1926)、ピラミッド型とするワイセンベルクらの説と対立したが、1928年(昭和3)に仁田説が認められた。さらに、二次元的フーリエ級数法による結晶解析を行い、中心炭素原子が正四面体をなすことを確証、このとき分子間水素結合の形成を発見(1937~1938)。新設の大阪帝国大学理学部教授(1933~1960)、関西(かんせい)学院大学教授(1960~1968)を務め、構造化学、分子間力、固体の転移現象の研究など新分野を開拓し多数の研究者を育てた。化学の分野にX線解析法を導入した功績は大きい。著書に『分子構造論』(1936)、『X線結晶学』(1959~1961)、自伝『流れの中に』(1973)がある。1943年帝国学士院賞、1966年(昭和41)文化勲章を受章した。
[道家達將]