今物語(読み)いまものがたり

精選版 日本国語大辞典 「今物語」の意味・読み・例文・類語

いま‐ものがたり【今物語】

[1] 〘名〙 現世の様子を素材として書かれた物語
小説神髄(1885‐86)〈坪内逍遙〉上「現世物語(イマモノガタリ)は現世(いまのよ)情態材料として」
[2] 鎌倉時代説話集。一巻。「本朝書籍目録」によると藤原信実の著とされているが、未詳。延応元年(一二三九以後成立。擬古的な和文体で、宮廷にかかわる説話を収める。

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

デジタル大辞泉 「今物語」の意味・読み・例文・類語

いまものがたり【今物語】

鎌倉時代の説話集。1巻。藤原信実ふじわらののぶざねの作といわれる。延応元年(1239)以後の成立か。和歌連歌恋愛など上流男女の話題を中心に和文体で記す。

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

改訂新版 世界大百科事典 「今物語」の意味・わかりやすい解説

今物語 (いまものがたり)

鎌倉時代の説話集。1冊。藤原信実(1176?-1266ころ)編。成立年時は未詳であるが,作中に延応1年(1239)の年紀が見えることから,それ以後,信実の晩年にかけての著述であろう。書名の由来は,言い古された昔物語に対して,当世の新しい話題を集めたことからの称。ひらがな本位の和文体で記した読物的説話集で,和歌・連歌説話を主体に53話の短編説話を集録。雑纂形式でとくに部類分けはしないが,説話の配列には連想による類集性が認められる。内容は多彩で,王朝的情趣や風雅への憧憬に根ざす歌話を基調に,広く恋愛譚,霊験譚,怪異譚,滑稽譚などを含み,登場人物も僧俗男女を問わず,帝王,貴族から武家,庶民にいたる広範な階層にわたっている。書名にふさわしく,平安末期から鎌倉前期にかけての,編者の周辺の時代の話題がほとんどで,先行文献よりの取材と思われるものは見当たらない。編者年来の見聞の中から,その趣向にかなった話題を採録したものらしく,話末に随時〈あはれ〉〈やさし〉〈をかし〉〈めでたし〉などの評語を添えている。当時の伝聞を記した説話集として貴重で,とくに西行,定家,寂蓮,平忠度(ただのり),小侍従などの高名な歌人にまつわる逸話や,藤原頼長慈円,文覚(もんがく)などの歴史的人物の行状を伝えた話は興味深く,また説経僧の生態をうかがわせる笑話なども捨てがたいものがある。総じて当時人口に膾炙(かいしや)した話が多かったようで,同話またはその異伝が,同時代的作品である《宇治拾遺物語》《古今著聞集》《十訓抄》《平家物語》《源平盛衰記》などにも散見する。
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「今物語」の意味・わかりやすい解説

今物語
いまものがたり

鎌倉時代の説話集。1巻。藤原信実(のぶざね)著。1239年(延応1)~41年(仁治2)の間の成立。平安後期以後の比較的新しい説話53編を集める。和歌、連歌や恋愛に関する上流男女の話題が多く、彼らの風雅さを「やさし」と評する章段が中心をなすが、滑稽譚(こっけいたん)の類も目だち、とくに後半は卑俗に流れる傾向がある。平家の時代、『千載集(せんざいしゅう)』『新古今集』歌壇の人々などの知られざる一面を伝える興味深い説話集で、『平家物語』などに影響を与えているが、ややじみな印象があり、広く読まれるに至っていない。

[三木紀人]

『久保田淳他校注『今物語・隆房集・東斎随筆』(1979・三弥井書店)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「今物語」の意味・わかりやすい解説

今物語
いまものがたり

鎌倉時代中期の説話集。編者は藤原信実 (のぶざね) と伝えられる。1冊。延応1 (1239) 年以後まもなくの成立か。長短とりまぜ 53話から成る。宮廷や寺院の挿話が主で,多く和歌や連歌にまつわる文学説話だが,神仏の霊験談,僧侶の失敗談などもある。「今」は「当代の」の意。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

今日のキーワード

脂質異常症治療薬

血液中の脂質(トリグリセリド、コレステロールなど)濃度が基準値の範囲内にない状態(脂質異常症)に対し用いられる薬剤。スタチン(HMG-CoA還元酵素阻害薬)、PCSK9阻害薬、MTP阻害薬、レジン(陰...

脂質異常症治療薬の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android