仮道管(読み)カドウカン(英語表記)tracheid

デジタル大辞泉 「仮道管」の意味・読み・例文・類語

か‐どうかん〔‐ダウクワン〕【仮道管/仮導管】

維管束植物、特にシダ植物裸子植物木部もくぶにあり、細胞壁の木化した細長い細胞が接した組織水分通路で、体を支持する役割ももつ。1本の管をなさない点で道管と区別される。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「仮道管」の意味・わかりやすい解説

仮道管
かどうかん
tracheid

維管束植物の木部にあって水分の通路となる細胞の一種で、シダ類と裸子植物の主要な通道要素である。細胞の成熟につれて細長くなり、細胞壁はセルロースリグニン堆積(たいせき)により厚く木化し、完成と同時に原形質を失って死細胞となる。細胞壁にはところどころ壁が細胞間層だけからなる薄い部分があり壁孔(へきこう)とよぶが、仮道管では壁孔の縁(へり)の細胞壁が厚くなり壁孔側にせり出しているのでとくに有縁壁孔という。有縁壁孔の輪郭は細長い楕円(だえん)から円形で、とくに針葉樹では円形のみがみられる。この有縁壁孔が水分の通路で、仮道管は厚い細胞壁による機械的支持機能と水分流通の二つの働きをもっている。シダ類などの仮道管は上下に連なっており、各細胞が上下に接する壁の部分に有縁壁孔が集まって道管の穿孔板(せんこうばん)に似た状態になり、これをとくに道管状仮道管とよんでいる。ワラビなど一部のシダ類ではこの部分の細胞間層が消失して穿孔となっており、仮道管ではなくて道管である。このように仮道管と道管の違いは、有縁壁孔の部分の細胞間層があるか、それが消失して完全な孔(あな)となっているかであり、水分の流通のしやすさは後者が勝っており、通道組織としては仮道管のほうが原始的形態といえる。また双子葉植物にも仮道管はあるが、水分の流通は道管がもっぱらにし、機械的支持機能は木部繊維が行い、仮道管はこの両者の中間的形態を示す。これをとくに繊維状仮道管とよぶ。

[鈴木三男]

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改訂新版 世界大百科事典 「仮道管」の意味・わかりやすい解説

仮道管 (かどうかん)
tracheid

維管束植物の木部を構成する細胞の一つで,道管を欠く原始的なシダ植物と裸子植物では木部の主要素である。両端がとがった細長い紡錘形で,細胞壁には肥厚した二次壁が分化して,成熟すれば細胞質を失って管状の死細胞となる。せん孔はなく,二次壁には環紋・らせん紋・階紋・網紋・孔紋といった肥厚型があり,一般に前2者は原生木部仮道管に,後3者はその他の木部にみられる。中を水が通り,機械的支持機能も果たす。
維管束
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百科事典マイペディア 「仮道管」の意味・わかりやすい解説

仮道管【かどうかん】

仮導管とも。維管束をもつ植物の木部にある通道組織で,シダ植物,裸子植物および少数の双子葉植物では木部の主要素。水分の通路であり,体を支持する機械組織の一種でもある。細胞壁がリグニンを蓄積し,横断面が多角形で,成熟すると原形質を失う細胞からなる点で道管に似るが,連なる細胞どうしの間に穿孔(せんこう)が貫通しない点で異なる。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「仮道管」の意味・わかりやすい解説

仮道管
かどうかん
tracheid

維管束のあるすべての植物の茎幹にみられる組織。構成細胞は長形で,細胞膜は肥厚し木化しており,側膜にはいろいろの模様がみられる。その形状によって道管状仮道管,繊維状仮道管に分けられ,前者はシダ植物に,後者は裸子植物および被子植物にみられる。水分の通路であり,体の支持の役割ももつ。道管に比べ,細胞同士が縦につながる末端部が斜めに交わっていて,系統的には仮道管のほうが原型とされる。

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世界大百科事典(旧版)内の仮道管の言及

【維管束】より

… 維管束は木部と師部からなり,内皮によって囲まれる場合もあればそうでない場合もある。木部は道管仮道管・木部柔組織・木部繊維から,師部は師管・師部柔組織・師部繊維などからできている。木部は水分が,師部は養分が移動する通路であるが,その運搬機構については詳しくはわかっていない。…

【木材】より

…針葉樹材を構成する主体となる大部分の細胞は,樹種や生長状態によっても差があるが,長さ1~7mm程度,幅0.005~0.07mm程度の縦長の細胞で構成されている。この細胞は仮道管と呼ばれ,樹体を支える役割を果たすと同時に,生育時には水分や養分を流動させる役割をも果たしている。広葉樹の場合には,水分や養分を流動させるのは道管と呼ばれる縦につながった管状の細胞であり,樹体を支えるのは主として木部繊維と呼ばれる長さ0.5~2.5mm,幅0.01~0.06mm程度で仮道管よりは短いがやはり縦長の細胞によっている。…

※「仮道管」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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