伊藤信吉(読み)いとうしんきち

日本大百科全書(ニッポニカ) 「伊藤信吉」の意味・わかりやすい解説

伊藤信吉
いとうしんきち
(1906―2002)

評論家、詩人。群馬県生まれ。高等小学校卒業。同郷の詩人萩原朔太郎(はぎわらさくたろう)の知遇を得て生涯の師とする。初めアナキズムの影響を強く受けたが、のちマルクス主義に移りナップ系の代表詩人となった。階級意識を叙情的に歌い上げた詩集故郷(こきょう)』(1933)を刊行。1932年(昭和7)の検挙後、長く詩作から遠ざかり、文芸評論、詩論、詩研究など多方面に活躍。1976年、70歳で第2詩集『上州』を刊行。評論集『島崎藤村(とうそん)の文学』(1936)、『現代詩の鑑賞』上下(1952、1954)、『高村光太郎』(1958)、『ユートピア紀行』(1974)、『天下末年』(1977)、『風や天』(1979)、『監獄裏の詩人たち』(1996)、『老世紀界隈で』(2001)ほか多数の著書がある。萩原朔太郎の研究でも知られ、全集の編集に数度携わった。

[大塚 博]

『『島崎藤村の文学』(初版、1936・第一書房。複製、1985・日本図書センター)』『『高村光太郎 その詩と生涯』(1958・新潮社)』『『萩原朔太郎』1・2(1976・北洋社)』『『天下末年 伊藤信吉詩集』(1977・新日本出版社)』『『風や天 望郷蛮歌』(1979・集英社)』『『伊藤信吉詩集』(1989・思潮社)』『『監獄裏の詩人たち』(1996・新潮社)』『『老世紀界隈で 詩集』(2001・集英社)』『『ユートピア紀行 有島武郎 宮沢賢治 武者小路実篤』(講談社文芸文庫)』『『現代詩の鑑賞』(新潮文庫)』『伊藤信吉他編『萩原朔太郎全集』全15巻・補巻(1986~89・筑摩書房)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「伊藤信吉」の意味・わかりやすい解説

伊藤信吉
いとうしんきち

[生]1906.11.30. 群馬,前橋
[没]2002.8.3. 東京
詩人。萩原朔太郎研究の第一人者。高等小学校卒業後,県庁に勤め,同郷の詩人萩原の詩に感動し,詩作を始めた。萩原と室生犀星師事。上京してプロレタリア文学運動に加わったが,1932年警視庁に検挙され,運動から退いた。この時代の詩集に『故郷』(1933)がある。第2次世界大戦後は近現代詩論など文学評論を手がけ,『現代詩の鑑賞』(2巻,1952),『高村光太郎――その詩と生涯』(1958),『逆流の中の歌』(1963)などの優れた仕事を残す。萩原,室生の全集を編集したほか,『現代日本詩人全集』(全 16巻,1953~55)を編集し,全巻の解説を担当した。『ユートピア紀行』(1973)で平林たい子賞,『萩原朔太郎』(2巻,1976)で読売文学賞,詩集『風や天――望郷蛮歌』(1979)で芸術選奨文部大臣賞を受賞。1997年『監獄裏の詩人たち』で 2度目の読売文学賞を受け,2001年に詩集『老世紀界隈で』(詩歌文学館賞)を出版した。1967~69年日本現代詩人会会長,1996年から群馬県立土屋文明記念文学館の初代館長を務めた(→土屋文明)。1999年日本芸術院賞恩賜賞を受賞。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

百科事典マイペディア 「伊藤信吉」の意味・わかりやすい解説

伊藤信吉【いとうしんきち】

詩人,評論家。群馬県生れ。萩原朔太郎室生犀星に師事。アナーキズム系の詩人と交わり,のちナップ加盟,プロレタリア詩人として多くの作品を発表したが,運動から離脱,詩の筆を折って,批評,近代文学研究の道に進む。1939年,吉田健一らと《批評》創刊。はじめ自然主義文学,その後近現代詩の批評・研究に主力を注ぎ,戦前では《島崎藤村の文学》《現代詩人論》などがある。戦後は1952年《現代詩の鑑賞》など多数の著書・編著があり,朔太郎,犀星などの全集を編集。ほかに,《萩原朔太郎》(読売文学賞),《高村光太郎》など。

出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報

デジタル版 日本人名大辞典+Plus 「伊藤信吉」の解説

伊藤信吉 いとう-しんきち

1906-2002 昭和-平成時代の詩人,文芸評論家。
明治39年11月30日生まれ。萩原朔太郎に師事。昭和3年草野心平の詩誌「学校」に参加。プロレタリア詩人として活動するが,7年検挙されて運動からはなれる。49年「ユートピア紀行」で平林たい子賞,52年「萩原朔太郎」で読売文学賞,55年詩集「望郷蛮歌―風や天」で芸術選奨,平成11年芸術院恩賜賞。平成14年8月3日死去。95歳。群馬県出身。

出典 講談社デジタル版 日本人名大辞典+Plusについて 情報 | 凡例

今日のキーワード

黄砂

中国のゴビ砂漠などの砂がジェット気流に乗って日本へ飛来したとみられる黄色の砂。西日本に多く,九州西岸では年間 10日ぐらい,東岸では2日ぐらい降る。大陸砂漠の砂嵐の盛んな春に多いが,まれに冬にも起る。...

黄砂の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android