会計制度(読み)かいけいせいど

改訂新版 世界大百科事典 「会計制度」の意味・わかりやすい解説

会計制度 (かいけいせいど)

現代国家の経済活動はきわめて複雑多岐であり,かつその活動の結果が国民の利害に重大な影響を及ぼすため,これに伴って生ずる財産等の変化を逐一記録し,かつ整理しておくことが必要である。すなわち,国家の経済活動に伴って生じた財産の増減異動を一定の秩序のもとに組織的に出納,記録,計算,整理をしておき,国家財政経理状態をつねに明確にするとともに,その発生の原因と結果の検討,分析を通じて,将来の国家の経済活動の合理化に資することができるように管理を行っていくことが要請されている。会計制度は,このような国家の経済活動に関する経理面での管理手続を規定,整理するための制度であり,具体的には,財政法会計法国有財産法等の法的規範のもとに行われている会計年度,会計区分,会計機関,国庫出納手続,会計検査等の諸制度をいう。

日本の会計制度は,近代国家におけるさまざまな制度と同じく,明治維新以後その基礎が築かれ,資本主義発達と相まって進展を遂げてきた。その創始は,1869年(明治2)に金穀出納の手続を定めた出納司規則である。その後徐々に金穀出納順序,院省庁現金納払規則,大蔵省出納条例等の諸規定が整備され,81年にこれらの規定を集大成して初めて会計法が制定された。この会計法は会計年度,科目の分類,予算の作成方法,金銭の出納,収支の決算等会計の全般にわたるものであり,日本に統一的な会計制度が誕生したということができる。しかし,これもその後の国勢の進展と相まって問題となる点が多くなり,とくに大日本帝国憲法制定の気運のなかで一大改正の必要が認識されるようになってきたため,政府は欧米,とくにフランス,ベルギー,ドイツ,イギリスなどの会計制度を参考にして,89年新たな会計法(いわゆる明治会計法)を中心とした会計制度を策定したのである。これは近代国家にふさわしい内容を備え,かつ現行会計制度の基礎ともなったものであり,その後若干の修正が加えられたほかは,そのまま大正期まで施行された。この明治会計法もその後の時代の変遷に伴い運用上問題となる部分が多く生じてきたため,政府は1921年会計制度の大改正を行い,これによって生まれたのがいわゆる大正会計法を中心とする諸規定である。これらはなんら改正されることなく昭和期まで維持されたが,37年からの日中・太平洋戦争にかけて,戦時体制に対応するため,いわゆる戦時特例法が制定されるようになり,従来の会計制度の原則を大幅に緩和した戦時会計制度が出現した。しかし45年太平洋戦争の終結に伴い戦時特例法も逐次整理され,翌年には全廃された。次いで日本国憲法の公布,施行に伴い,47年憲法の民主的財政処理の原則のもと,従来の会計法のうち予算・決算に関する部分を中心にして新たに財政法が制定され,その他の会計手続に関する部分を中心にして現行会計法が制定された。この2法を中心に国有財産法,物品管理法等さまざまな規定が逐次整備され,現行の会計制度が完成するに至った。

国家経済の会計管理を行うためには,ある一定の期間を一単位として,その間についての出納,記録,整理を行わなければならない。これが会計年度であり,日本においては毎年4月1日から翌年3月31日までの1ヵ年間とされている。日本において会計年度が初めて採り入れられたのは1869年のことであるが,当時は会計年度の始期は10月1日であった。73年に1月1日,75年に7月1日とされ,86年にさらに4月1日とされて現在に至っている。また,会計年度の区分は各国の事情や歴史的背景によって異なり,イギリス,カナダなどは日本と同じく4月から3月までであるが,フランス,ドイツ,オランダ,ソ連などは暦年と同じ1月から12月まで,アメリカやオーストラリアなどは10月から9月までとなっている。なお,各会計年度における経費は原則としてその年度の歳入をもって充てられなければならず,他の年度に影響を及ぼさない形で完結,整理をされなければならない。これを会計年度独立の原則というが,若干の例外として歳出予算の繰越しと過年度支出とが認められている。

会計年度が定められ,会計年度独立の原則が存在する以上,国家の歳入および歳出はどの年度に所属すべきかについても一定の原則を定めておく必要がある。これを会計年度所属区分というが,これには,歳入および歳出の原因となる事実の発生があった時点の属する年度を用いる発生主義的年度所属区分と,実際に現金の授受が行われた時点の属する年度を用いる現金主義的年度所属区分とがある(発生主義,現金主義については〈発生主義〉の項参照)。日本の会計制度は年度所属区分については原則として発生主義を採用しているが,反面,予算・決算については多くの場合現金主義が採用されているため,会計年度が終了しても実際の現金の授受が終了しておらず帳簿を閉めることができない場合が存在する。これを調整するために設けられているのが出納整理期限であって,この間における現金の授受については発生主義の原則のもとに前年度に帰属するものとして計算する。また,この期限を超えて現金の授受が行われたものについては例外的に現金主義を採用し,その時点の年度に帰属するものとして計算する。これが過年度収入あるいは過年度支出である。

国の収入支出は,その状態の理解を容易にするため,また財政紊乱(びんらん)を防止するため,単一の会計において経理することが求められる。これを会計単一の原則といい,この原則のもとに経理を行う会計が一般会計である。しかし現在国家の行政は広範かつ複雑であるため,それに伴う収支をすべて一般会計において経理した場合には,かえって財政の能率性や明確性を欠くことがある。このようなときには,会計単一の原則の例外として,一般会計とは別に特別会計を設けることができる。

会計機関とは国の会計処理に関係する諸国家機関の総称であり,具体的には,会計の実施機関である内閣,大蔵大臣,各省庁の長,歳入徴収官,支出官等と会計の統制監督機関である国会,会計検査院を指す。会計は国家行政の運営に密接に結びついており,かつ国民生活に重大な影響をもたらすものであるため,会計法規による一定の秩序のもとに実施機関により運営され,さらに会計検査院による検査監督を通じてその民主性,公平性が確保されている。また,会計事務の不正行為を防止するため,歳入徴収や歳出支出の職務と現金出納の職務との兼職が禁じられている。これを会計機関分立の原則という。
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