位置特異性(読み)いちとくいせい(英語表記)position specificity

改訂新版 世界大百科事典 「位置特異性」の意味・わかりやすい解説

位置特異性 (いちとくいせい)
position specificity

有機化学反応において,一つの構造異性体(位置異性体)だけが生成し,他の異性体が生成しない場合をいう。一つの異性体の生成が他の異性体の生成より有利である場合を位置選択性position selectivityがあるという。実際には位置特異性を位置選択性と同義に用いる場合も多い。以下,例をあげて説明する。

(1)脱離反応

C6H5SO3Hが脱離してシクロヘキセン環が生成する際,(A)(B)二つの可能な生成物のうち,二重結合がベンゼン環と共役して共鳴安定化したものが特異(選択)的に生じる。

(2)付加反応

非対称アルケンに非対称な求電子試薬HXが付加する求電子付加反応において,試薬のプロトンH⁺はアルケン炭素のうち水素を多くもつものに,陰イオンX⁻はもう一方の炭素(より置換された炭素)に付加し,特異(選択)的に(C)を与える。この型の位置特異性をもつ付加の様式を,最初にこの現象に注目し報告(1868)したロシア人化学者マルコフニコフVladimir Vasil'evich Markovnikovにちなんで,マルコフニコフ付加という。マルコフニコフ付加は,プロトンがアルケンに付加して生じるカルボカチオン中間体の安定性の差によって説明される。



(C′)は第三(級)カチオンであり,第二(級)カチオンである(D′)より安定であり,このため(C)が優先的に生成する。

(3)ディールス=アルダー反応(ジエン合成)2-メチル-1,3-ブタジエン(イソプレン)とメチルビニルケトンとの反応から,頭-尾付加物(E)と頭-頭付加物(F)が生じうるが,一般には頭-尾付加物のほうがより多く生じる。

 近年有機合成化学では,単に目的物を合成するだけが目標ではなく,それをどの程度位置特異的かつ立体特異的に合成できるかに関心が集中している。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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