低温用鋼(読み)ていおんようこう

改訂新版 世界大百科事典 「低温用鋼」の意味・わかりやすい解説

低温用鋼 (ていおんようこう)

JISでは-10℃以下の温度域での使用に適した鋼材と規定している。構造用材料に要求される最も重要な性質である靱性(じんせい)は材料の結晶構造に大きく依存する。アルミニウムオーステナイト鋼のような面心立方構造の金属は低温でも靱性を損なわないが,普通鋼や低合金鋼などの体心立方構造の材料はある温度域(脆性ぜいせい遷移温度)以下では急激に靱性が低下する性質(低温脆性)があるために,低温用鋼の指定が必要となる。

 低温用鋼は大別すると,低炭素アルミキルド鋼,低温用ニッケル鋼,オーステナイト系ステンレス鋼の三つに分けられる。(1)低炭素アルミキルド鋼 低炭素鋼であるが,低温靱性を害する硫黄,リンの含有量を極力下げ,アルミニウムを添加して結晶粒の微細化および窒素の固定を行った材料で,寒冷地における構造物,冷凍機器などに用いられる。(2)低温用ニッケル鋼 ニッケルは鋼の低温靱性の向上に最も有効な元素であり,使用温度範囲に応じて2.5%Ni鋼(-60℃以上),3.5%Ni鋼(-100℃以上),9%Ni鋼(液体窒素沸点(-195.8℃)以上)などが用いられる。天然ガス液化空気の液化などの機器に用いられる。(3)オーステナイト系ステンレス鋼 低温での脆性遷移を示さないので液体窒素の沸点以下での極低温での使用が可能である。極低温領域は超伝導応用機器,MHD発電,磁気ポンプ,ロケット推進剤液体水素貯蔵など,新しい技術的応用が開けている分野である。
高張力鋼
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「低温用鋼」の意味・わかりやすい解説

低温用鋼
ていおんようこう
cryogenic steel

宇宙開発や超伝導応用などの先端技術分野では,極低温域 (-250℃以下) で十分な機械的性質を有する構造用鋼 (低温用鋼) が要求される。鉄は常温では粘りのある壊れ方 (延性破壊) をするが,低温になると粘さ (靭〈じん〉性) が急激に低下し岩石のようにもろくなる。鉄がこのような性質を示すのは,鉄の結晶がサイコロの角と体心に原子がある構造 (体心立方構造) をとることに関係している。低温でも延性が期待される原子配列は,サイコロの角とそれぞれの面の中央に原子がある面心立方構造である。鉄に添加元素を加えて面心立方構造をとるようにしたのがオーステナイト系ステンレス鋼 (304など) である。天然ガス,石油ガスなど低温液化ガス用タンクなどには,極低温でももろくならず,しかも熱を伝えにくい9%ニッケル鋼が用いられている。これは,ステンレス鋼の約3倍もの耐力がある。ニッケルの一部をマンガンで置換したもの,ニッケルのほか,モリブデン,チタンを添加して高強度で靭 (じん) 性が優れ,溶接性のよいステンレス鋼が,日本で開発されている。

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世界大百科事典(旧版)内の低温用鋼の言及

【高張力鋼】より

…70キロ級以上のものはほとんど調質されており,ケイ素,ニッケル,マンガンなどが添加されている。
[低温用鋼]
 液体窒素温度以下の極低温でも靱性を有する鋼。鋼の組織の主体であるフェライトは温度が低くなると,へき開面に沿ってほとんど塑性変形することなく破壊する低温脆性(ぜいせい)を有している。…

※「低温用鋼」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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