何ぞ(読み)なんぞ

精選版 日本国語大辞典 「何ぞ」の意味・読み・例文・類語

なん‐ぞ【何ぞ】

(「なにぞ」の変化したもの)
[1] 〘連語
① =なにぞ(何━)(一)①
※宇津保(970‐999頃)俊蔭「『汝はなむぞの人ぞ』と問ひ給ふ時に」
② 尋ねている物事がそれと特定しえない時、仮に不明のままに指示する。なにか。
※虎明本狂言・八幡の前(室町末‐近世初)「こなたに申たらは、何ぞをしへて下されうほどに」
[2] 〘副〙
原因動機の納得しがたいさまを表わす。反語に用いる。どうして(…なものか)。なぜ(…したりするのか)。
※不空羂索神呪心経寛徳二年点(1045)「何(ナン)そ斯の道に由るもの莫けむ」
当面の疑問や要求に叶うものを探し求め思案する気持を表わす。なにか。
狂言記脛薑(1660)「みちすがら、さびしう御座るが、なんぞなぐさみ事して」
[3] 〘感動〙 相手の言語・行動をたしなめ、とがめることば。どうしたのだ。
浄瑠璃・丹波与作待夜の小室節(1707頃)中「是なんぞ、語る事がたんと有、こなたもいふ事有筈じゃ」

なに‐ぞ【何ぞ】

〘連語〙
[一] (代名詞「なに」に助詞「ぞ」が付いたもの)
① (「ぞ」は係助詞)
(イ) 実体の不明な事物を指示する。どういうものか。何というものか。なにか。なんぞ。
伊勢物語(10C前)六「草の上におきたりける露を、かれはなにぞ、となんをとこに問ひける」
(ロ) 「…かなにぞ」の形で、「…かそれとも別の何か」の意を表わす。
源氏(1001‐14頃)明石「道かひにてだに、人かなにそとだに御覧じわくべくもあらず」
② (「ぞ」は副助詞) =なんぞ(何━)(一)②
[二] (副詞「なに」に係助詞「ぞ」が付いたもの) 原因・理由を不明・不当のものとして指示する。どうして(…なのか)。なぜ(…するのか)。
万葉(8C後)一四・三三七三「多摩川にさらす手作りさらさらに奈仁曾(ナニソ)この児のここだ愛しき」

どれ【何】 ぞ

(「ぞ」は不定の意を表わす副助詞) =どれか
※玉塵抄(1563)三「三都のとれそのみやこの宮の」

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

デジタル大辞泉 「何ぞ」の意味・読み・例文・類語

なん‐ぞ【何ぞ】

[連語]
《代名詞「なに」に副助詞「ぞ」の付いた「なにぞ」の音変化》
㋐漠然と物事をさす。なにか。「何ぞおもしろいことはないか」「何ぞ用でもあるのか」
㋑(下に助詞「の」を伴って)どんな。どういう。
「汝は―の人ぞ」〈宇津保・俊蔭〉
《代名詞「なに」に係助詞「ぞ」の付いた「なにぞ」の音変化》どういうものか。何物か。何事か。なにか。「人生とは何ぞや」
「上たち聞きつけさせ給ひて、―と問はせ給ふ」〈宇津保・楼上下〉
[副]
なぜ。どうして。
「―今一人はゐて来たらぬぞ」〈今昔・七・四六〉
反語の意を表す。どうして…か、いや、そうではない。
「この経―必ず法華経の序たるべき」〈今昔・七・一三〉

なに‐ぞ【何ぞ】

[連語]なんぞ」に同じ。
「草の上におきたりける露を、かれは―、となむ男に問ひける」〈伊勢・六〉
[副]なんぞ」に同じ。
「かへる山―はありてあるかひは来てもとまらぬ名にこそありけれ」〈古今・離別〉

な‐ぞ【何ぞ】

《「なにぞ」の音変化》
[副]《古くは「なそ」》どうして。なぜ。
「―かう暑きにこの格子はおろされたる」〈・空蝉〉
[連語]
何であるか。なにごとか。
「こは―。あなもの狂ほしの物怖ぢや」〈・夕顔〉
なんという。どんな。
「―の犬のかく久しう鳴くにかあらむ」〈・九〉

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

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