保温折衷苗代(読み)ほおんせっちゅうなわしろ

改訂新版 世界大百科事典 「保温折衷苗代」の意味・わかりやすい解説

保温折衷苗代 (ほおんせっちゅうなわしろ)

油紙またはポリエチレン・フィルムで床面をおおい保温する折衷苗代。溝のみに湛水(たんすい)することで水苗代畑苗代の利点を取り合わせ,さらに生長に好適な温度を与えるものである。1932年ごろ長野県軽井沢町の荻原豊次が考案し,長野県農業試験場の岡村勝政らが改良を加えた。油紙保温折衷苗代として第2次大戦後,寒地の育苗法に広く採り入れられ,この地域の稲作発展に大きな役割を果たした。後に,油紙はポリエチレン・フィルムに代わり,暖地早期栽培にも採用されるようになった。この方法では,短冊形苗代に播種(はしゆ)後,まいたもみが隠れる程度に覆土し,さらにその上に焼きもみがらをまく。苗床をポリエチレン・フィルムでおおい,端を土でおさえ,さらに縄でおさえる。苗が3~5cmぐらいに伸びて,おおいを押し上げるころ,おおいを外す。保温折衷苗代の利点は,適湿で酸素の供給が十分な条件で苗が育つため,根の発育がよく,諸障害が少ないこと,育苗の失敗が少ないことなどである。ポリエチレン・フィルムは保温の効率を高めるうえで有効であったが,反面,しばしば過剰高温(38℃以上)により葉焼けの害をもたらすことになった。この害を回避するのに,ビニルトンネル苗代のように,苗とおおいの間に広く空間を設ける方向に改良がすすめられている。
苗代
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百科事典マイペディア 「保温折衷苗代」の意味・わかりやすい解説

保温折衷苗代【ほおんせっちゅうなわしろ】

乾田に保温資材を用いて育苗する苗代。代掻(しろか)きした田に揚床を作り播種する。種子が隠れるくらいに覆土した後,焼もみがらをかけ,さらにその上を油紙やポリエチレンフィルム被覆する。水は溝にだけ入れ,床面には入れない。本葉2枚くらいのときに被覆を取り除き,床面まで水を張る。乾田苗代と水苗代を折衷したもので,以後水苗代と同様の管理をする。苗腐敗病や立枯病などが発生しにくく,いもち病にも強い苗ができる。これにより早期栽培が可能になり稲作は著しく安定したが,近年では人工的な育苗施設の普及にともないほとんど行われなくなった。
→関連項目苗代

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「保温折衷苗代」の意味・わかりやすい解説

保温折衷苗代
ほおんせっちゅうなわしろ

保温のために発熱資材や電熱などを用いず,温床紙,ビニルなどを使って,太陽熱を十分に取入れて保温育苗する折衷苗代。資材,設備費が節約されるだけでなく,育苗の規模を大きくし,大量の苗をつくることができる。水苗代を浅水にして苗床を揚げ床とし,その上に温床紙を被覆すると,初期生育が促され,健苗を早期に育成できることから,寒冷地の稲作の安定と西南暖地の早期栽培に役立っている。

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世界大百科事典(旧版)内の保温折衷苗代の言及

【苗代】より


[種類]
 苗代の様式は,水田苗代と畑苗代に大別される。水田苗代には普通水苗代,通し苗代,折衷苗代,簡易折衷苗代,保温折衷苗代などがあり,畑苗代には,普通畑苗代,温床苗代,冷床苗代,ビニル保温苗代などがある。このほか,各種資材による保護の有無によって,普通苗代,保護苗代といった分類がなされることもある。…

※「保温折衷苗代」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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