保護鳥(読み)ほごちょう

精選版 日本国語大辞典 「保護鳥」の意味・読み・例文・類語

ほご‐ちょう ‥テウ【保護鳥】

〘名〙 法律によって捕獲を禁止されている鳥。明治時代に制定された旧狩猟法で用いた語。現行法では、捕獲してよい鳥(狩猟鳥)を規定しているので、このことばは用いられていない。〔狩猟法(明治三四年)(1901)〕

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デジタル大辞泉 「保護鳥」の意味・読み・例文・類語

ほご‐ちょう〔‐テウ〕【保護鳥】

法律によって捕獲を禁止されている鳥。現行法(鳥獣保護法)では猟鳥のほうを指定している。禁鳥。
[類語]野鳥水鳥水禽海鳥家禽飼い鳥渡り鳥候鳥夏鳥冬鳥漂鳥留鳥旅鳥迷鳥禁鳥益鳥害鳥雄鶏雌鳥小鳥猛禽鳴禽珍鳥始祖鳥

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「保護鳥」の意味・わかりやすい解説

保護鳥
ほごちょう

一般的には「狩猟鳥」に対して、その国の法律によって狩猟を禁止されている鳥「非狩猟鳥」をさしていることが多い。現在の日本の法律「鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律」に使われていることばではない。種類の選択などはそれぞれの国により異なっている。

 日本では、1873年(明治6)公布の「鳥獣猟規則」では、鳥はすべて狩猟対象であった。1892年公布の「狩猟規則」によって、ツル各種、ツバメ各種、ヒバリなど捕獲を禁ずる種を定めたことで、保護鳥の概念が生まれ、「保護鳥」という言い方が一般に使用されることが多くなった。1918年(大正7)に改正された「狩猟法」(1892年公布の「狩猟規則」が1895年に「狩猟法」と改められた)では、この考え方が逆転し、アイサアトリアホウドリなどを狩猟鳥と決め、それ以外の種の捕獲を禁止する方向となった。この「狩猟法」の考え方は現在も継承されており、2002年(平成14)に制定された現行の「鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律」においても、日本に生息する野生の鳥はすべて保護の対象であり、一部を狩猟鳥と定め、狩猟させている。そして、試験を受けて合格した人に狩猟免許を与え、定められた猟具と猟法・期間・場所の範囲で、一部の定められた種(カルガモやキジなど28種の狩猟鳥)を狩猟できることとしている。しかも狩猟鳥であっても、その卵や雛(ひな)をとることは禁止されている。これには狩猟資源保護の意味もあるが、日本の自然にとっては狩猟鳥であってもたいせつな生態系の構成員とみているからである。

 しかし、現在では「鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律」以外に「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律」(種の保存法)が1992年(平成4)に制定され、日本としては個体数も少なく、重点的に保護・保全を考えていかなくてはいけない種として、リスト・アップされている鳥がいる。また、かつては環境庁によって、そして2001年以降は環境省によって編纂(へんさん)されている日本の『Red Data Book』(レッド・データ・ブック)に記載されている鳥もいる。これらは、新しい概念の「保護鳥」といえる。さらに「絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約」(ワシントン条約)や「特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地に関する条約」(ラムサール条約)「渡り鳥及び絶滅のおそれのある鳥類並びにその環境の保護に関する日本国政府とアメリカ合衆国政府との間の条約」(日米渡り鳥条約)「日豪渡り鳥条約」「日中渡り鳥条約」、などの対象種も「保護鳥」であろう。

 また、国際自然保護連合IUCN)が発表している「世界で絶滅のおそれのある鳥」(絶滅危惧種)なども当然新しい概念の「保護鳥」である(1958年に、IUCNが発表した「世界で絶滅のおそれのある鳥」をリスト・アップして13種を「国際保護鳥」とした。しかし、いまでは絶滅危惧種は300種にも及ぶ。これらが現在の「世界の保護鳥」といえるだろう)。

[柳澤紀夫]

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改訂新版 世界大百科事典 「保護鳥」の意味・わかりやすい解説

保護鳥 (ほごちょう)

法律により捕獲が禁止され,保護されている鳥。明治維新に伴い,徳川時代の野生鳥獣に関する諸制度は廃止され,加えて銃器の自由所持,殺生禁断の戒律のゆるみなどもあって,野生鳥獣の乱獲がすすみ,そのため,大型の鳥獣類は急激に減少した。政府は1872年(明治5),〈鉄砲取締規則〉を,73年には〈鳥獣猟規則〉を公布したが,これらはいずれも鉄砲による公安上の危険防止が主眼であった。しかしやがて,野生鳥類の中で,有益なものを保護し,その繁殖をはかり,有害なものを駆除することは農務上の要点であるという認識が高まり,92年公布された狩猟規則では,捕獲を禁止する鳥類すなわち保護鳥を定め,ツル(各種),ツバメ(各種),ヒバリ,セキレイ,シジュウカラ,ヒガラ,ゴジュウカラ,ミソサザイ,ホトトギス,キツツキ,ムクドリおよびタヒバリの12種を指定した。この考え方の基本は,野生鳥獣は,原則として捕ってもよいが,そのうちの有益性の高いものについては,これを指定して保護しようというものである。この狩猟規則はまた保護鳥の指定とは別に,捕獲を禁止する保護期間を定め,保護鳥および保護期間のある鳥類の卵と雛の採捕と売買を禁止した。95年,〈狩猟規則〉が〈狩猟法〉に改正されたとき,保護鳥には先の12種にコガラ,エナガ,カッコウおよびサンコウチョウの4種が加えられ,別にツバメ類の中からイワツバメが除外された。さらに1910年の狩猟法改正では保護鳥の指定は60種に達し,こうして,保護鳥の概念は,行政や教育を通じて一般国民の間に広まっていったのである。

 1918年,狩猟法に対して画期的な改正が行われた(63年〈鳥獣保護及狩猟ニ関スル法律〉と改称)。この改正では,野生鳥獣は原則として捕獲を禁止し,とくに指定された狩猟鳥獣に限って捕獲を許可するといった,野生動物に対する考え方の180度の大転換が行われたのである。ここで,従来の保護鳥という概念は消失したはずであった。しかし,戦前の学校教育,とりわけ理科教育(それも中等博物と呼ばれた旧制中学の理科学習)の中では,保護鳥の概念が広く教えこまれ,旧制高等学校や高等専門学校の入試には必ず出題されるほど重要な事項として扱われてきた。そのため現在でも,戦前の教育を受けた年輩者の間には,保護鳥の概念が根強く残っている。

 現在,日本の鳥は約550種,そのうち厳重な規制の下に捕獲可能な種類は29種,飼育可能な種類はわずか4種,それ以外はすべて保護を原則とする禁鳥(無断捕獲禁止の鳥類)である。またタンチョウなど特定の地域の特定の種については,〈文化財保護法〉によって天然記念物または特別天然記念物に指定されて,捕獲を禁止されている。世界的には,バードライフインターナショナル(旧称国際鳥類保護会議;ICBP)が絶滅の危険にある鳥13種を国際保護鳥に指定し,保護を呼びかけている。日本ではアホウドリとトキがこれにあげられている。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「保護鳥」の意味・わかりやすい解説

保護鳥
ほごちょう
protected bird

法律や条令によって捕獲が禁止されている鳥類。また条約などにより輸出入などが禁止ないし規制されている鳥も保護鳥である。さらに,絶滅の危機に瀕し,その保護のためには国際的な協力が必要であるとして国際鳥類保護会議 ICBPが指定したものを国際保護鳥といい,これには 13種が指定されている。現在,日本ではすべての野鳥が保護鳥となり,ごく一部の鳥が一年のうちのある期間だけ狩猟の対象にされる。また,日本関係の国際保護鳥にはアホウドリやトキなどがある。

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