修学旅行(読み)しゅうがくりょこう

精選版 日本国語大辞典 「修学旅行」の意味・読み・例文・類語

しゅうがく‐りょこう シウガクリョカウ【修学旅行】

〘名〙 学習活動の一環として、教師の引率のもとに学校学年または級単位で行なう旅行。学校行事の重要なもので、現地での見聞による学習集団行動人間関係育成目的とする。
風俗画報‐九七号(1895)人事門「職員生徒相携ひて修学旅行を為す」

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デジタル大辞泉 「修学旅行」の意味・読み・例文・類語

しゅうがく‐りょこう〔シウガクリヨカウ〕【修学旅行】

児童・生徒が文化・産業などの重要地を実地に見聞して知識や情操を深めるため、教師が引率して行う旅行。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「修学旅行」の意味・わかりやすい解説

修学旅行
しゅうがくりょこう

教師の引率のもとに、児童・生徒が団体をつくって遠隔地に出かけ、平素の学校生活では望めない、さまざまな経験や見聞をすること。通常は宿泊を伴う点で遠足と区別される。諸外国にはあまり類例をみない、きわめて日本的な教育活動で、現在は、学校の教育課程のうえでは、特別活動のうちの学校行事に位置づけて計画され、実施されている。

[井上治郎]

歴史

修学旅行は、1886年(明治19)2月に、東京師範学校(後の東京高等師範学校、東京教育大学)が11泊12日の日程で実施した、東京と千葉県銚子(ちょうし)の間を徒歩で往復する長途遠足に始まるとされている。これは、心身の鍛錬と規律正しい集団行動を目ざす兵式訓練的要素と、そのころの流行であった直観教授の主張、すなわち、実物に触れることを重視する教育理論に基づく校外学習の要素と、古くからの物見遊山(ゆさん)の系譜を引く慰安(いあん)、親睦(しんぼく)の要素の三者を、あわせ目的とする形で実施されたもので、その点でも今日の修学旅行の原型をなすものである。

 修学旅行という用語が、初めて教育法規に用いられたのは1888年の「尋常師範学校設備準則」においてであるが、やがてそれは、1900年代に入ると、小学校の高学年にもあまねく普及するに至った。これには、1899年に、当時の日本鉄道会社が、50人以上の団体に対して割引料金制度を導入したことによる促進効果も無視できないであろう。

 修学旅行の歴史をたどると、そこにはそのおりおりの時代の風潮が敏感に反映していることがわかる。たとえば、大正デモクラシー期には、慰安、親睦の要素が強調されているのに反し、1931年(昭和6)の満州事変以降は、伊勢(いせ)神宮参拝や皇居遙拝(ようはい)を通しての国民精神の作興や心身の鍛錬に主眼が置かれるようになるのがその例である。

[井上治郎]

現状

現在の小・中・高等学校における修学旅行は、毎月一定の金額を積み立てたうえで、最高学年ないしそれに準じる学年で実施するのが一般で、その際、学校では、事前指導や下見にも念を入れて、その教育効果をいっそう高めることに努めている。また、とくに中・高等学校段階では、修学旅行先に農・山・漁村を組み入れて、そこで勤労・生産的な体験学習をさせたり、集団的なサイクリングやレクリエーション活動を行わせたりするなど、その実施形態もとみに多様化しつつある。

 一方、交通機関の発達につれて、修学旅行の目的地はますます遠隔化し、それに伴って旅費もとかくかさむ傾向が認められる。さらに1987年(昭和62)の臨時教育審議会による「教育の国際化」提言を受け、文部省(現文部科学省)が国外修学旅行を積極的に奨励してからは、海外への修学旅行も急増した。公立高校の海外修学旅行の実施状況は445校、訪問国は中国・韓国が60%を占める(2000)。各都道府県の教育委員会では、修学旅行の実施基準を定めて、学校種別ごとに、宿泊日数や旅行先に一定の制限を設けているが、服装その他の支度や小遣いまで含めて考えると、その際の保護者の負担はけっして軽いものとはいえない。各学校の適切な対応が期待されることの一つである。

[井上治郎]

『家本芳郎著『遠足・修学旅行』(1981・あゆみ出版)』『鈴木健一著『修学旅行の理論と実際』(1983・ぎょうせい)』『全国修学旅行研究協会編・刊『修学旅行総覧』(1990)』『高橋哲夫編『特別活動の新研究9 中学校学校行事・体験的活動の新展開』(1991・明治図書出版)』『中野光・吉村敏之編『日本の教師10 学校行事の創造』(1995・ぎょうせい)』『高文研編・刊『修学旅行企画読本』(1995)』『筑波大学附属中学校著『生きる力を育む修学旅行と校外学習』(1997・図書文化社)』『速水栄著『うれしなつかし修学旅行――国民的行事に若者はどう参加したか』(1999・ネスコ)』『全国修学旅行研究協会編・刊『全国、国・公・私立高等学校修学旅行実態調査報告書』各年版』『全国修学旅行研究協会編・刊『全国公立高等学校海外修学旅行実施状況調査報告』各年版』

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改訂新版 世界大百科事典 「修学旅行」の意味・わかりやすい解説

修学旅行 (しゅうがくりょこう)

学校の公式行事として教職員の引率のもと,校外教育・学習の目的をもって学生,生徒,児童が集団で行う旅行。共同宿泊をともなう点で遠足と,また学習目的が複合的であり複数の目的地を周遊する点で臨海学校林間学校,合宿などと区別される。C.G.ザルツマン,シュトイKarl Volkmar Stoy,ラインWilhelm Reinらドイツの教育者により,18世紀後半から19世紀にかけて自然学習および身体訓練の目的をもって唱道され組織された徒歩旅行Wanderungen,教育旅行pädagogische Reisenなどの影響を受けつつも,日本独特の性格をもつ学校行事として展開された。初代文相森有礼による兵式体操重視方策の一環として,1886年2月高等師範学校男子部が千葉県銚子へ実施した行軍旅行が端緒とされる。同校では行軍旅行に自然観察,標本採集,史跡見学など研究・学習目的を加味して〈修学旅行〉と名づけた。翌87年からは,各地の師範学校,中学校などで実行されるようになり,88年尋常師範学校では恒例行事として文部省令中に規定されるようになった。当初は徒歩によることを通例としたが,国内鉄道網の普及とともに鉄道を利用して短日程で遠隔の諸地域を訪ねることができるようになった。99年日本鉄道会社,翌1900年鉄道院が学生の集団運賃割引を開始し修学旅行の便を図った(〈学割〉のはじめ)。普及とともに,伊勢,奈良,京都など〈国のふるさと〉や東京,横須賀など首都,軍港の見学などが一般化する一方,師範学校での県内小学校めぐり,実業学校での関連産業地帯の見学など,その教育に即した数々の工夫もみられるようになった。第2次大戦中から終戦直後にかけて,勤労動員,輸送難,食料不足などにより一時中絶されたが,50年代に復活,59年には国鉄(現JR)に修学旅行専用列車(ひので号,きぼう号など)が運転される(1971廃止)などの隆盛をみている。多くの生徒,児童にとって修学旅行の最大の魅力は,旅のもつ解放感と集団宿泊の経験にあり,盛りだくさんで平板に流れるきらいがある〈修学〉の内容は,しだいに二次的になっているといわれる。子どもたちの旅行機会が増加した現在,学校行事としての修学旅行は,方法や内容において検討を迫られている。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「修学旅行」の意味・わかりやすい解説

修学旅行
しゅうがくりょこう

教職員の引率のもとに,児童,生徒が日常経験しない土地の自然や文化を見学し学習するために行う旅行。明治 10年代頃から始り,慣行的に実施されていたが,現在は教育課程のなかに,特別活動に属する「遠足的学校行事」として位置づけられている。

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世界大百科事典(旧版)内の修学旅行の言及

【遠足】より

…レクリエーション,自然環境とのふれあい,および身体の鍛練や集団規律の訓練などを目的として,教師の主導のもとに,ほぼ1日行程で行われる子どもたちの集団的な校外活動。見学や観察など学習目的が限定された半日以内の行程のものを〈校外学習〉,宿泊をともなうものを〈修学旅行〉と呼んで区別する場合がある。欧米では19世紀にヘルバルト派教授論の影響下で校外学習と一体に行われ,20世紀には新教育思想の下で自然とのふれあいを強調して,英米ではschool excursion,ドイツではSchulausflugなどの名で行われた。…

【学校】より

…この勅語は,日本教育の根本方針は〈皇祖皇宗ノ遺訓〉にあるとし,そこから徳目を引き出し,国民はこの徳目を実践し,国家有事のさいには一身を国にささげ,天皇の治世がいつまでも盛んに続くよう助けるべきだ,と説いていた。教育勅語発布とともに,学校では,この精神にもとづく教科の授業とともに,儀式,修学旅行運動会などの学校行事により日本精神を体得させることが重視されるようになった。修学旅行という外国には例のない日本の学校独自の行事は,20世紀に入り,伊勢神宮参拝を中心とした敬神崇祖の念を強める教育活動の一つとして,また紅白にわかれて得点を争う運動会は,日清戦争のころから戦意高揚のための行事として重視された。…

※「修学旅行」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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