兄弟話(読み)きょうだいばなし

日本大百科全書(ニッポニカ) 「兄弟話」の意味・わかりやすい解説

兄弟話
きょうだいばなし

昔話兄弟葛藤(かっとう)を主題にする一群の昔話の総称。継子(ままこ)話が義理の関係の肉親反目と協力を描いているのに比べ、兄弟話は並列の兄弟関係であるところに特色がある。「二人兄弟」と「三人兄弟」とに大別できる。2人は単純な兄弟関係の人間の葛藤を描き、3人は多数の兄弟の葛藤を表す。「二人兄弟」の典型的な例は、日本では、『古事記』(712)、『日本書紀』(720)にある神話の「海幸(うみさち)・山幸(やまさち)」の物語にみることができる。兄から無理に借りた釣り針をなくした弟が、どうしても返せという兄の求めに従って、海の国まで捜しに行き、最後は兄を懲らしめるという話で、本来情愛で結ばれているはずの兄弟の反目をみごとに表している。兄弟の対抗意識は、殺人事件の加害者と被害者にもなる。平安初期の『日本霊異記(りょういき)』や中国の『捜神記』にある「うたい骸骨(がいこつ)」の類話は、ともに兄弟話である。しかし、ヨーロッパを中心に世界的に数多く分布する「二人兄弟」の昔話は、むしろ兄弟の協力を主題にしており、日本にも類話がある。兄弟が継母に家を追い出される。ともに長者の聟(むこ)になることを誓い合って別れる。弓の弦が切れるのは、兄弟が死んだしるしとする。弟はある家で奉公した謝礼に、切らずに殺せる刀をもらい、鬼を退治して死人を生き返らせる鞭(むち)を手に入れる。弟の弓の弦が切れる。弟は兄のところへ行き、鞭で兄を生き返らせる。2人とも長者の聟になる。

 隣の爺(じじ)型の昔話も2人の爺を並べているが、他人同士という関係から、対立した両極として、善悪、正負のように、二項対立的に描かれるのが普通である。兄弟話は、むしろ並列による競争の形をとることが多い。隣の爺型では、先の爺が成功し、後の爺が失敗するという形で、愚かな物まねによるしくじりという意味があるが、「三人兄弟」の場合は、年齢順に、同じ目的の行動を3回反復し、長兄も次兄も失敗し、末弟だけが成功する形をとり、末弟の能力が優れているという意味づけになる。いわゆる末子(ばっし)成功譚(たん)で、世界的に類例が多い。日本の「三人兄弟」もこの系統である。『古事記』の神話のオオナムチの神の物語が末弟の成功譚であるが、大ぜいの兄たちと末弟の対立という「二人兄弟」的表現をとり、兄と弟の競争になっている。兄弟話という物語の外枠は、物語の内容と有機的に一体化し、他の継子話や隣の爺型と同様、兄弟話は兄弟話として世界的に分布していることが多いが、「三人兄弟」から「二人兄弟」に転化して、まねし損ないの話になっていると推定される話が、日本では隣の爺型に変わっているなど、昔話の内容の変化が外枠の変化を生み出していることもある。

[小島瓔

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「兄弟話」の意味・わかりやすい解説

兄弟話
きょうだいばなし

民俗学用語。兄弟の禍福を主題とした昔話。日本はもとより世界各国に類話が多いが,同じ血を分けた兄弟であれ,善悪の性格あるいは生得の運勢は異なるという考え方を基底として発生したもので,善良な弟を兄が悪計をもって陥れようとするが,結局は兄が身を滅ぼし弟は成功するといったものが多い。兄弟が2人だけではなく3人とするものも多く,末子成功譚と呼ばれるものもこれである。また小鳥前生譚の『時鳥兄弟』も兄弟話の一つ。

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