光周性(読み)コウシュウセイ(英語表記)photoperiodism

デジタル大辞泉 「光周性」の意味・読み・例文・類語

こうしゅう‐せい〔クワウシウ‐〕【光周性】

生物が日照時間の変化に対して反応する性質。植物では花芽の形成や開花にみられ、この反応の違いによって長日植物短日植物などに区別される。動物では、特に鳥・昆虫などの生殖や発育に関与する。ひかりしゅうせい。

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精選版 日本国語大辞典 「光周性」の意味・読み・例文・類語

こうしゅう‐せい クヮウシウ‥【光周性】

〘名〙 生物が明期または暗期の長さの変化に対して反応する性質。植物の花芽の形成や開花で顕著にみられる。長日植物、短日植物などの区別はこの差異に基づく。動物では特に鳥、昆虫などの生活や発育に重要な役割をもつ。

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改訂新版 世界大百科事典 「光周性」の意味・わかりやすい解説

光周性 (こうしゅうせい)
photoperiodism

1日の明暗サイクルを光周期と呼び,生物が光周期の季節的な変化に反応して物質代謝・発育・生殖・行動などを調節する性質を光周性という。生物界に広く見られ,環境の季節的な変化にたいする重要な適応機構である。

昼夜の長短は,直接に動物の活動を阻害したり生存をおびやかしたりしない。しかしその規則正しい年周期は,動物たちにとって好適な季節から不適な季節への移変りを示す情報,いわばカレンダーとして用いられるのである。このカレンダーの指示によって発育・生殖・休眠・移動・換羽・毛変りなど,まもなくやってくる季節への準備をし,環境の変化に生活の営みを調和させていくのである。発情・生殖の周期が日長に左右されることは,ヒツジハムスターイタチウズラスズメトカゲ類メダカなど,哺乳類から魚類におよぶいろんな脊椎動物で知られている。昆虫,ハダニ類では,光周期に応じてどの時期に休眠するかがきめられる。夏に活動して冬に休眠する多くの種は日長が短いと休眠し,長いと発育を続けるので長日型と呼ぶ。夏に休眠する種には,しばしばこれとは逆の短日型の反応がある。ナミアゲハ(さなぎ),キタテハ(成虫),ベニシジミ(幼虫)などの休眠は長日型,ユウマダラエダシャク(さなぎ)やマツノキハバチ(前蛹(ぜんよう))の休眠は短日型の例。カイコ(卵)も短日型だが,これは夏の休眠ではなく,親世代の卵が光周期の影響を受けてから1世代後の卵が休眠するためである。光周期によって休眠からめざめる時期を調節する種もある。チョウの季節型,ウンカコオロギの羽の多型現象なども光周期の支配を受ける。どのような光周反応でも,光周情報→測時機能→神経分泌機構→反応の表現,という経路があるはずで,それには1日の明暗の時間を測る時計機構の存在が前提となるはずである。そこで現在,生物時計との関連が追求されているが,脊椎動物でも昆虫でも,光周期を測る生物時計の実体はまだ完全には解明されていない。
執筆者:

光周性に依存する植物の現象としては花芽形成,茎の伸長,休眠,落葉などが知られているが,とりわけ花芽形成についてよく研究されている。植物には日長が短くなると花芽形成をし,花成に至る短日植物,日長が長くなると花成する長日植物,日長とは無関係に花成する中性植物などがある。短日植物のオナモミでは8.5時間以上の連続した暗期が与えられたときに花成が誘導されるので,暗期中に花成促進物質ができると考えられている。葉をしゃ光したり除去すると短日処理は無効になることから,光受容器は葉であることがわかる。ヒヨスなどの長日植物では,連続した長い暗期さえ与えられなければ,明期が短くても花成はおこる。このように明期の長さにかかわらず暗期が一定時間(限界暗期)以上継続する場合にのみ,短日植物は花成し,長日植物は花成できない。このことから,暗期における生体内での反応が光周性にとって重要であるといえる。暗期中に短時間でも光照射があると暗期の効果が失われることは広く知られており,この現象は光中断light-breakと呼ばれる。光中断現象を説明するために,ビュニングE.Bünning(1936)は生体内に24時間周期のリズムが内在すると想定し,それは一定の位相をもって振動するとした。このリズムは親明相および親暗相という二つの相からなり,前者の時期に与えられた光は花成を促進し,後者に与えられた光は抑制すると考えられている。内在リズムの実体はまだわかっていないが,実際に存在することはダイズの例などで知られている。ダイズに8時間の明期と種々の長さの暗期を与えると,明暗周期が24時間の倍数であるときには花成されるが,36,60時間周期では花成はみられない。8時間の明期に続く64時間の暗期中のいろいろな時期に光中断を入れると,その効果は時期により異なり,親暗相に光照射された場合には花成が阻害される。この際,内在リズムの位相そのものも光中断によって変化すると考えられる。光中断に有効な光は赤色光であり,この効果は近赤外光の照射によって打ち消されることから,光中断に関与する物質はフィトクロムであると推定されている。フィトクロムは赤色光あるいは近赤外光の照射によって,

の可逆的変化を示すことがわかっているからである。暗所ではPfrからPrへの転換(暗反転)がおこるので,一定時間以上の暗期が継続した場合にPfrが限界濃度以下になって短日植物の花成を誘導すると解釈できる。しかし,Pfrの減少速度は温度に依存するのに対して光周性の限界暗期は温度に影響されないので,Pfrの減少のみで花成を説明することは困難である。また,光中断効果は近赤外光によって消去されない場合も多く,フィトクロム以外の色素も光周性反応に関与している可能性が強い。光周性は環境変化への適応形質の一つとして生物学的に重要であると同時に,この性質は農業・園芸上において花成の促進・抑制に広く利用されている。
執筆者:

光周性 (ひかりしゅうせい)

光周性(こうしゅうせい)

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百科事典マイペディア 「光周性」の意味・わかりやすい解説

光周性【こうしゅうせい】

昼夜など明暗の周期に応じて,生物が行動や生理などを適合させる性質。植物の花芽の形成は最も有名。多くの春咲植物のように,昼の時間(日長,明期)が一定の長さ以上になると花芽をつけるものを長日植物,多くの秋咲植物のように,逆に短くなると花芽をつけるものを短日植物という。また日長に無関係に花芽を形成できるものを中日植物という。明期と暗期の長さは,花芽形成ホルモンであるフロリゲンの生成などに影響を与えると考えられるが,フロリゲンそのものについての詳細は不明。花芽形成以外にも,茎の伸長,落葉などは光周性に依存している。動物では,脊椎動物の渡り・回遊などの移動運動,発情,換羽,毛変りのほか,昆虫の休眠・羽化も光周期の支配を受けている。動物の場合,生物時計が存在し,それによって1日の明暗時間の変化を感知すると考えられる。
→関連項目短日植物長日植物

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「光周性」の意味・わかりやすい解説

光周性
こうしゅうせい
photoperiodism

適当な周期 (昼と夜のような) で生物に光を与えたときに,生物に起る反応をいう。ある品種のタバコは自然状態では夏には開花しないが,毎日の日照時間を 12時間以下に制御すると夏でも夏以外にも花芽を形成させることができる。これはタバコのもつ光周性のためである。催花に必要な明期対暗期の比率 (実際には暗期の長短が制限因子である) は植物の種類によって異なる。厳密にはいえないが,一定時間以上の暗期 (多くは約9時間以上) をもつ光周性を与えなければ催花しない植物を短日植物 (オナモミ,ダイズなど) という。また一定時間以上の明期もしくは以下の暗期をもつ光周性が催花に必要な植物を長日植物 (ビートでは 11時間以上の明期,ホウレンソウでは 13~14時間以上の明期,ヒヨスでは 10~11時間以上の明期) という。明期 (日長) の時間には関係なく催花する植物を中性植物 (トマト,ソバ,トウモロコシ,キュウリ,トウガラシなど) という。花以外の栄養器官 (塊茎,落葉など) の生長や形態形成にも光周性がある。また昆虫,鳥などの発育,性的成熟と生活環展開にも光周性がある。

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知恵蔵 「光周性」の解説

光周性

生物が日長変化、つまり昼(明期)と夜(暗期)の光の明暗周期に反応すること。キクやイネなどの短日植物は暗期のほうが明期より長い光周期(短日条件)に一定時間さらされると花芽を形成し、ホウレンソウやコムギなどの長日(ちょうじつ)植物は逆に明期が比較的長い長日条件下で花芽を形成する。昆虫や鳥類などの動物でも、休眠や繁殖などの生理的反応が光の明暗周期に支配されており、チョウなどでは、幼虫期の日長時間や温度によって成虫の表現型が異なり、春型と夏型が生じる。

(垂水雄二 科学ジャーナリスト / 2007年)

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世界大百科事典(旧版)内の光周性の言及

【光周性】より

…1日の明暗サイクルを光周期と呼び,生物が光周期の季節的な変化に反応して物質代謝・発育・生殖・行動などを調節する性質を光周性という。生物界に広く見られ,環境の季節的な変化にたいする重要な適応機構である。…

※「光周性」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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