光触媒(読み)ヒカリショクバイ

デジタル大辞泉 「光触媒」の意味・読み・例文・類語

ひかり‐しょくばい【光触媒】

太陽や蛍光灯などの光が当たることで触媒として働く物質。酸化チタンなど。光が当たると水や酸素と反応して活性酸素や水酸ラジカルが生成される。これらの物質は酸化力が強く、有害物質二酸化炭素や水に分解する。また、ガラスや壁などに塗布して光を当てると超親水作用(水が水滴にならず薄く広がる働き)が生じる。これらの作用を抗菌、脱臭、大気浄化、防塵、花粉症対策、曇り止めなどに利用する。→酸化分解力超親水性

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「光触媒」の意味・わかりやすい解説

光触媒
ひかりしょくばい

光を吸収すると、他の物質に化学反応を引き起こさせる触媒機能をもつ物質。日本で発見・開発された技術で、代表的な光触媒は酸化チタン。有害物質の除去、空気浄化、脱臭、殺菌、抗菌、防汚、防曇などの働きがあり、外壁材、タイル、鏡などの建築用内外装材、空気清浄機や化粧品、家庭用品などに幅広く活用されている。水素を発生する新エネルギー源としても期待されており、将来、光触媒市場は約3兆円まで拡大するとの見方もある。

 1967年(昭和42)、当時、東京大学工学部助教授(現同大学名誉教授)であった本多健一(1925―2011)と大学院生(現同大学特別栄誉教授)の藤嶋昭(1942― )は、電解液に酸化チタンと白金をつなげて浸し、紫外線を照射するという実験を行った。すると、水の分解が起こり、酸化チタンからは酸素、白金からは水素が発生することを発見。本多・藤嶋効果と名づけられた。その後、光を吸収すると活性酸素を発生させ、これが悪臭や汚れなどの原因となる有機物に対して分解機能をもつことを発見。また、空気中の水素を引き寄せて触媒表面に親水基を生成し、ガラスの曇りを防ぎ、汚れなどを洗い流す親水性能も見つかった。

 政府は光触媒の開発・実用化を促すため、2007年(平成19)から5か年計画で、循環社会構築型光触媒産業創出プロジェクトを立ち上げ、開発を後押ししている。最近では、紫外線などの強い光ではなく、可視光でも触媒機能を発揮するタングステンなどの材料が開発され、シックハウス対策素材として有望視されている。窒化ガリウムと酸化亜鉛混合物など、より効率よく水素を発生させる光触媒も発見されており、将来的には人工光合成に道を開く技術として期待されている。

[編集部]

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知恵蔵 「光触媒」の解説

光触媒

光を照射すると化学反応を促す触媒作用を示す物質。二酸化チタンを使った水の光分解触媒が最も有名で、1971年に本多健一と藤嶋昭の両博士によって発表された。単結晶の二酸化チタン電極と白金電極で電池を構成して、二酸化チタン表面にキセノン灯を照射すると酸素が、他方の白金表面からは水素が発生する(本多‐藤嶋効果)ことを明らかにした。その後、紫外線のなかで、二酸化チタンが電気分解を起こすことができるエネルギー以上の光(波長が390nm、n〈ナノ〉は10億分の1)を当てると、その表面に強い酸化力のある電荷(電子)とホール(正孔)が発生し、酸素の気泡が出て、電子は導線を通じて陽極に達して電解質のプロトン(陽子)を気体の水素に変えることがわかった。光触媒反応は電子の授受という観点から見れば、植物の光合成に似た反応で、人工光合成のシステムを構築し、水素を作り出す。ただし、変換効率は植物には及ばない。二酸化チタン2微粒子が紫外光照射時に発生する電子は強い酸化力があり、環境汚染物質や細菌類の微生物を、水と二酸化炭素に分解する。また、二酸化チタン微粒子を含む薄膜上では紫外光を当てると水滴にならずになじみ、水の薄膜ができる超親水性がある。太陽光や蛍光灯で照らすと、汚染物質と汚れを分解するセルフクリーニングの機能を持つので、二酸化チタンを塗布したガラスやタイル、自動車の窓やミラー、建物の外壁、トンネル内照明用の蛍光灯のカバー、テント、病院の抗菌タイルや壁として利用されている。建物の屋外に塗布して水を流せば、いわゆる「打ち水効果」があり、屋内の温度上昇を低減できる。今後、太陽光にわずかに含まれる紫外線ではなく、可視光で働く光触媒の開発が期待される。

(市村禎二郎 東京工業大学教授 / 2007年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

化学辞典 第2版 「光触媒」の解説

光触媒
ヒカリショクバイ
photocatalyst

光を吸収することで触媒作用を示すものを光触媒という.

C + hν → C*,A + C* → P + C

で示される光化学反応において,Cは光を吸収し,励起状態 C* を経て反応物Aから生成物Pを与える反応を促進して,Cへと戻る.C自身は反応の前後で変化しておらず,触媒と同様の役割をしたことになる.光を吸収して励起状態になり,そのエネルギーをほかに与えることができる物質は光触媒になり得る.光触媒のもっとも典型的な例である半導体は,バンドギャップエネルギー以上の光を吸収すると,価電子帯の電子が伝導帯に励起され,価電子帯には正孔が生じる.この電子と正孔により反応を促進する.とくに金属酸化物半導体のTiO2は,紫外線を吸収して強い酸化分解力を示す光触媒となり,抗菌,脱臭,防汚など種々の分野で実用化されている.このほかにも分子,原子,イオン,あるいは着色した金属錯体なども光触媒となる.

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

リフォーム用語集 「光触媒」の解説

光触媒

光化学反応の一種と定義される、光を照射することにより触媒作用を示す物質の総称。代表的な光触媒活性物質として、酸化チタン (TiO2) が知られている。

出典 リフォーム ホームプロリフォーム用語集について 情報

世界大百科事典(旧版)内の光触媒の言及

【触媒】より

…移動発生源に対しては,供給酸素量を調節しつつ一酸化炭素と炭化水素を窒素酸化物と空気中の酸素でちょうど酸化しきるように白金‐パラジウム‐ロジウムを含む触媒で処理している。 エネルギー問題との関連では,石炭の液化・ガス化,燃焼効率を高める酸化触媒,化学蓄熱・熱パイプ・熱ポンプに利用する触媒,燃料電池電極,太陽エネルギー利用を指向する光触媒などが注目を集めている。一方,白金懐炉をはじめ,調理器の脱臭装置,ガス漏れセンサーのように,触媒を利用したさまざまのくふうが身のまわりにも見いだされる。…

※「光触媒」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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