入定(読み)にゅうじょう

精選版 日本国語大辞典 「入定」の意味・読み・例文・類語

にゅう‐じょう ニフヂャウ【入定】

〘名〙 仏語禅定(ぜんじょう)境地にはいること。心を統一集中させて、無我の境地にはいること。また、高僧の死をいう。⇔出定(しゅつじょう)
法華義疏(7C前)一「第二須入定者。将欲一因一果之理
※栄花(1028‐92頃)うたがひ「大師の御入定の様を覗き見奉らせ給へば」

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デジタル大辞泉 「入定」の意味・読み・例文・類語

にゅう‐じょう〔ニフヂヤウ〕【入定】

[名](スル)仏語。
禅定ぜんじょうにはいること。精神を統一して煩悩を去り、無我の境地にはいること。⇔出定
高僧が死ぬこと。入滅
[類語]寂滅遷化涅槃示寂入寂入滅死ぬじゃくする円寂する大往生お陀仏辞世帰寂

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改訂新版 世界大百科事典 「入定」の意味・わかりやすい解説

入定 (にゅうじょう)

本来の意味は禅定(ぜんじよう)に入ることで,仏教では悟りを開くことである。禅定は悟りを開く手段として,思慮を止めて無念無想になることであるから,入定はそのような精神状態に入ることを意味する。ところが日本では,これがいろいろ異なった意味に用いられるようになった。一つは修行者が山林修行をすることで,空海は山林修行する人を〈入定之賓〉といっている。一般に奈良・平安時代初期には禅定も山林修行を意味しており,山林修行者を禅師と呼んだ。このようなところから山林修行者の死を入定と呼ぶことがあり,これは特別な意味をもつようになった。空海の死を入定と呼ぶように,死んでも永遠の生命をもって,今も生きているという信仰が生じたのである。このような入定信仰では,肉体もそのまま残ると信じられ,これを即身仏といった。すなわち密教では入定を即身成仏というからである。空海の入定にならったといわれる出羽三山の湯殿山即身仏(ミイラ)も入定によって肉体を残し,同時に永遠の生命をもって衆生済度しようとしたものである。しかし実際には死後も肉体を残すことは困難なので,これは神聖な山を死によって穢さないように葬ることと解釈されるようになった。すなわち,まだ生きている体(てい)に葬るために,洞窟に棺を納めて礫を積んで閉じるのである。こうすれば空気が通うので生きていることになる。入定窟または入定塚といわれるものには,竪穴に棺を納めて礫を積んだ石子詰形式の墓もある。高野山の空海廟とその弟子実慧(じちえ)(道興大師)の河内観心寺廟,あるいは室生赤埴の仏隆寺堅恵(けんね)廟などは,このような形式の入定墓である。ただ空海は入定に加えて高野山の開祖という特別の信仰から,いまだに生きていて諸願をかなえると信じられている。空海の入定については古来真言宗内にも論議があり,一応金剛定というものであろうといわれるが,民間信仰としては,現に弘法大師は生きているというのが入定信仰である。
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普及版 字通 「入定」の読み・字形・画数・意味

【入定】にゆうじよう

禅定。

字通「入」の項目を見る

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世界大百科事典(旧版)内の入定の言及

【行人塚】より

…行人塚は供養塚に属するものと行者・修験者の自埋入定(にゆうじよう)を伝える塚とに大別でき,供養塚でありながらも後に入定伝説が付着したものもある。入定伝説をもつ塚は行人塚のほか,入定塚,山伏塚,法印塚,念仏塚などとも呼ばれ,関東地方を中心として東日本に多く分布している。…

【即身仏】より

…仏が憑依すれば即身成仏なので,修験道では山伏が巫覡(ふげき)として予言,託宣,祈禱に仏力をあらわすのが即身成仏である。これを死後にも及ぼそうというのが入定(にゆうじよう)信仰で,入定した行者は死後も霊魂は永遠に生きていて,種々の奇跡をおこすと信じられた。入定信仰をいっそう確実に認識しようとして,空海の入定後も肉体は生けるがごとく,廟中に現存して,鬢髪や爪も伸びていたと語られ,これを入定留身(るしん)という。…

※「入定」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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