八窓席(読み)はっそうのせき

改訂新版 世界大百科事典 「八窓席」の意味・わかりやすい解説

八窓席 (はっそうのせき)

京都南禅寺塔頭(たつちゆう)金地(こんち)院にある茶室。金地院崇伝(こんちいんすうでん)の依頼をうけた小堀遠州指図で,1628年(寛永5)ころには完成していたことが《本光国師日記》の記事から推測される。内部は3畳台目。床と点前座が並んで配置され,これと向かい合って躙口(にじりぐち)が正面にあけられ,外に縁を付し,縁から躙口を入る形式がとられている。2方の壁面に大きい窓をとり,墨跡窓のほか,中柱袖壁にも下地したじ)窓をあけているが,これらを合わせて窓は6窓しかない。遠州は,金地院に以前からあった3畳半台目の茶室に改造を加えてこの茶室をつくりあげた。遠州らしい作風随所にあらわれているが,その実力が十分に発揮されず,意匠構成が調和やまとまりに欠けるところがあるのはそのためであろう。

 茶室における窓は,採光通風,換気というその本来の役割を負うだけでなく,大きさや配置による表情が視覚的な意匠となり,心理的,美的な演出をすることも多い。景趣をつくるという視覚的な効果を意図し,一つの壁面に集中的にあけるなどして窓を多くとり入れる態度は千利休の茶室にはみられなかったが,古田織部や遠州たちの作風に顕著な特色であり,この傾向金森宗和の作風においてさらに強調され,また茶室の新しい時代的傾向に発展した。八つの窓をもつ茶室は八窓軒とか八窓庵と称され,織部や遠州の好みと伝えられるものが多いが,金地院八窓席のように八窓に満たないものも含まれる。代表的な遺構として,札幌市中島公園内の八窓庵(伝遠州好),奈良国立博物館苑内の八窓庵(伝織部好),曼殊院八窓軒(伝不詳),桂離宮松琴亭茶室(伝遠州好)などがある。
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百科事典マイペディア 「八窓席」の意味・わかりやすい解説

八窓席【はっそうのせき】

京都市南禅寺の塔頭金地院にある茶室。小堀遠州作といわれる三畳台目の席で,躙口(にじりぐち)は隣の小書院縁側に開き,客は露地から縁側に上がり,茶室に入る。八窓の名があるが,窓は六つ。八窓の茶室には他に遠州好みと伝える八窓庵(現在札幌),八窓軒(曼殊院)等がある。

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