公害健康被害補償(読み)こうがいけんこうひがいほしょう

日本大百科全書(ニッポニカ) 「公害健康被害補償」の意味・わかりやすい解説

公害健康被害補償
こうがいけんこうひがいほしょう

大気汚染によるぜん息とか水俣(みなまた)病やイタイイタイ病など公害によって引き起こされた健康被害に対して支払われる医療費や生活費などの金銭補償をいう。

淡路剛久

法律の制定

公害健康被害の救済については、かつて、医療救済を定める特別措置法(「公害に係る健康被害の救済に関する特別措置法」、略称「公害健康被害特別措置法」1969)があったが、これは救済措置の内容が医療面に限られていたため被害者救済としてまったく不十分であった。そこで、1973年(昭和48)に、救済措置の内容を、医療関係費のみならず障害補償費や遺族補償費など生活補償的給付に拡充した「公害健康被害補償法」(昭和48年法律111号)が制定された(同法は1987年の改正とともに公害健康被害の補償等に関する法律=公健法と改称)。同法に基づく公害被害者の救済制度を公害健康被害救済制度とか公害健康被害補償制度などとよんでいる。

[淡路剛久]

救済の仕組み

同制度による救済の仕組みは次のようになっている。すなわち、まず、公害による健康被害(「疾病」)が多発している地域が「指定地域」として指定される。この指定地域には、「第一種地域」と「第二種地域」の2種類がある。「第一種地域」は、事業活動その他の人の活動に伴って相当範囲にわたる著しい大気の汚染が生じ、その影響による疾病が多発している地域として政令で定める地域をいい、四日市市など41地域が指定されたが、硫黄酸化物による大気汚染が改善されたことから、1988年(昭和63)3月1日に全地域が指定解除された(なお、認定患者は疾病が継続する限り補償を受ける)。これら指定地域内に住所を有し一定期間(疾病ごとに定められる)以上居住した者が、あらかじめ指定されている疾病(「指定疾病」)にかかったときには、その者の申請に基づき、都道府県知事が公害健康被害認定審査会の意見を聞いて、認定を行う。指定疾病としては、慢性気管支炎、気管支ぜん息、ぜん息性気管支炎、肺気しゅ、およびそれらの続発症が指定され、第一種地域に係る健康被害者として認定されると、補償給付がなされるが、その内容は、療養の給付および療養費、障害補償費、遺族補償費、遺族補償一時金、児童補償手当、療養手当、および葬祭料となっている。

 他方、「第二種地域」は、事業活動その他の人の活動に伴って相当範囲にわたる著しい大気の汚染または水質汚濁が生じ、その影響により、当該大気の汚染または水質の汚濁の原因である物質との関係が一般的に明らかであり、かつ、当該物質によらなければかかることがない疾病が多発している地域として政令で定める地域をいう。簡単にいえば、原因者が明らかになっている場合であり、水俣病につき、新潟県の一部区域、熊本県および鹿児島県の一部区域、イタイイタイ病につき、富山県の一部区域、慢性ヒ素中毒症につき、島根県の一部区域(笹ヶ谷(ささがたに)鉱山周辺)、宮崎県の一部区域(土呂久(とろく)鉱山周辺)の5地域が指定されている。第二種地域に係る公害健康被害者の認定は、都道府県知事が、指定疾病にかかっていると認められる者の申請に基づき、公害健康被害認定審査会の意見を聞いて行う。

[淡路剛久]

補償の給付

認定がなされると補償給付が支払われるが、実際には、ほとんどの場合に、公害の原因者と被害者との協定に基づき、公害原因者から直接、補償が被害者に支払われている。その内容は、おおむね、判決によって命じられた一時金と補償制度による給付とを合わせたものを基礎としている。なお、水俣病については認定審査会で認定が棄却された未認定患者が多数発生し、多くの訴訟が提起されるなど大きな社会問題となったが、1996年(平成8)までに和解が成立し、一時金が支払われるなどしてほとんどの被害者について決着をみた。

[淡路剛久]

『環境庁公害健康被害補償制度研究会編『公害健康被害補償・予防関係法令集(平成10年版)』(1998・中央法規出版)』

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