公表制度(読み)こうひょうせいど

改訂新版 世界大百科事典 「公表制度」の意味・わかりやすい解説

公表制度 (こうひょうせいど)

国・地方公共団体の機関等の公の機関が一定事柄を発表し,これを一般公衆の知りうる状態におく制度をいう。(1)一般的な意味における公表の制度は公示の制度とほとんど異ならない。地方自治法上の直接請求の要旨の公表(74条以下)等はその例である(そのほか,国家公務員法24条2項,公認会計士法1条2項)。ただ国家行政組織法による公示は告示の形式で行われるものとされ(14条1項),それ以外の公示の場合にも告示をもってすることを例としているが,公表の場合には,その形式について特別な法的制約はない。(2)公表制度が行政機関による一種の制裁的制度を意味することがある。とくに単なる〈公表〉ではなく〈公表制度〉という場合には,この趣旨で用いられることが少なくない。法律が明示的に制裁的措置としての公表を予定している場合には,これを行政処分の効果の間接的強制手段として定めている場合(たとえば,不況カルテルの申請に対して認可却下処分をした場合におけるその旨の公表。独占禁止法24条の3-5項)と,勧告指示等の行政指導に応じなかったときの措置として定めている場合(たとえば,〈標準価格〉表示の指示に従わない小売業者名の公表--国民生活安定緊急措置法6条3項。ほかに下請代金支払遅延等防止法7条4項等)とがある。また,法律の根拠によらない行政指導についても,これに応じなかった事実を公表されることがある。この意味での公表は,一定の行為を法的強制手段によって実現することが法的に妥当でないと考えられているか,法制度が不備で強制措置をとることができない場合に,行政の判断として一定の事柄が法的に許容しえないこと,もしくは法的または社会的に妥当でないと考えられるという事実を公にし,これらの事実についての判断を公衆の世論にゆだね,それによって間接的に法的・社会的に望ましい状態をつくり出すことを目的とする。公表をうける側は,世論の動向を考慮して自己の行動を決定することになり,社会的信用声望を重視すれば,処分・行政指導に服従せざるをえないことがある。今日の情報化社会においては,このような効果は容易に生じうる。公表は法的強制力を伴わないので必ずしも法律の根拠は必要でないとされているが,その内容いかんによっては〈プライバシーの権利〉が侵害されるおそれがある。このような制度は行政の任務が多様化したことに由来しており,その法的統制について種々の問題を生じている。行政手続法は行政指導に従わなかったことを理由として不利益な取扱いをしてはならないと規定しているが(32条2項),公表が当然にこれに該当するかどうかは明確でない。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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