共時言語学(読み)きょうじげんごがく(英語表記)synchronic linguistics

精選版 日本国語大辞典 「共時言語学」の意味・読み・例文・類語

きょうじ‐げんごがく【共時言語学】

〘名〙 (linguistique synchronique の訳語) 研究法から分けた言語学の一部門言語の一状態から次の状態への移行生起時間変化)を研究する通時言語学に対し、一時期における要素間の関係体系的に研究する部門。ソシュール提唱による。静態言語学。

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デジタル大辞泉 「共時言語学」の意味・読み・例文・類語

きょうじ‐げんごがく【共時言語学】

《〈フランスlinguistique synchronique》言語学の一部門。ある言語の一定時期における姿・構造を体系的に研究するもの。ソシュールの提唱による。→通時言語学

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「共時言語学」の意味・わかりやすい解説

共時言語学
きょうじげんごがく
synchronic linguistics

一言語の一時期における状態(共時態)を記述し研究する言語学の一部門。言語を時間の流れにそって変遷する相として把握する通時言語学史的言語学に対する。すでに共時言語学を唱え,記述を実行していた学者もあったが,これを明確に述べ,後世に大きな影響を与えたのはソシュールである。彼により,話し手にとり意識されるのは現在の状態のみであり,過去は関係のないこと,特定共時態をみると,もろもろの言語単位が互いに他と張合って一つのまとまった体系・構造をなしていることが明らかにされ,19世紀までの史的言語学のみが科学であるという考えが打ち破られて,記述言語学構造言語学への道が切り開かれた。しかし,史的言語学と対峙するのではなく,観点を明確にし,方法上の誤った混同を避けることによって,歴史をも含む言語の諸相全体への理解が深められるといえる。たとえば,dという音は一方において b-d-gという有声閉鎖音の系列一員であり,他方 t-d-nという歯音の系列の一員であるという構造的・機能的観点から,dを記述するのは共時的言語学の仕事である。これに対して,dという音は印欧祖語 *d(*dek「10」=サンスクリット語 daśa,ギリシア語 déka,ラテン語 decem)からゲルマン祖語 *t(ゴート語 taíhun,古ノルド語 tíu,英語 ten)を経て,ドイツ語で z(zehn[tse:n])となることを記述するのは史的言語学の仕事である。

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百科事典マイペディア 「共時言語学」の意味・わかりやすい解説

共時言語学【きょうじげんごがく】

記述言語学とほぼ同じ概念で,空間的広がりを考慮した一時期における,ある言語の体系を研究する言語学の一部門。時間とともにその変化を追求する通時・歴史言語学に対立する。F.ソシュールが提唱し,米国はじめ各学派で大きく発展した。→構造言語学
→関連項目言語学

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世界大百科事典(旧版)内の共時言語学の言及

【言語学】より

…また,一般に言語学と呼ばれている分野には,主として言語そのものを研究する分野(狭義の言語学)と,言語とその他の事象との関係を研究する分野がある。
【共時言語学】
 言語そのものをおもに研究する分野は,そのアプローチのしかたからいって二つに大別しうる。まず第1に,ある一定の時期(多くの場合は現代)のある一つの言語に関してその構造などを研究するものがある。…

【ソシュール】より

…人びとの間にコミュニケーションが成立するためには〈間主観的沈殿物〉としてのラングが前提となるが,歴史的には常にパロールが先行し,ラングに規制されながらもこれを変革するからである。ソシュールはついで,言語の動態面の研究を〈通時言語学〉,静態面の研究を〈共時言語学〉とよび,この二つの方法論上の混同をいましめた。彼はまた,プラトンや聖書以来の伝統的言語観である〈言語命名論〉や〈言語衣装観〉を否定し,言語以前にはそれが指し示すべき判然と識別可能な事物も観念も存在しないことを明らかにする。…

※「共時言語学」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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