兵役制度(読み)へいえきせいど

精選版 日本国語大辞典 「兵役制度」の意味・読み・例文・類語

へいえき‐せいど【兵役制度】

〘名〙 国家の兵員充足に関する制度。特に、平時、兵員徴集の制度をいう。自由兵制度(志願兵制度・義勇兵制度・傭兵制度)と強制兵制度(徴兵制度)に大分される。

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デジタル大辞泉 「兵役制度」の意味・読み・例文・類語

へいえき‐せいど【兵役制度】

国家の兵員充足に関する制度。徴兵制志願兵制・義勇兵制などがある。

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改訂新版 世界大百科事典 「兵役制度」の意味・わかりやすい解説

兵役制度 (へいえきせいど)

軍隊を編成し,維持し,戦時増勢するために,兵員を集める方法,および軍務に服務させる兵役の種類,服役期間等を定める制度を兵役制度といい,時代により各種の変遷があった。以下に兵役制度の変遷について述べるが,近代以前の中国および日本の兵役制度については〈軍制〉の項目を参照されたい。

 古代から中世にかけて,ギリシア等の都市国家では戦争には全市民が兵士となる武装市民軍が見られるが,しだいに職業的軍隊となり,やがて傭兵制へと変化した。ローマの軍隊も初めは市民軍であったが,志願兵から成る常備軍となり,末期には支配者が特権を支給した外国諸民族の傭兵軍へと変化した。次いで出現したフランク族等の諸民族の軍隊は,男子はすべて軍隊服務義務を有する武装民族的国民軍隊であった。7世紀から9世紀にかけて,蹄鉄(ていてつ)と馬具の発明により戦場におけるおもな役割は徒歩兵から騎兵に移り,軍馬を保有するためには多額の費用を要するため,富裕な土地の領主が騎士として領民の家臣を率い戦闘を行う封建的軍隊に移行した。13世紀ころから領主のうちの豪族が国王となり,戦争の際召集する封建的軍隊と外国人傭兵隊が君主制軍隊となった。15世紀には百年戦争で戦闘が長期戦化し,領民の封建的役務期間を過ぎても軍隊に勤務させるために兵士に俸給を支給する慣習が生まれ,常備軍が設けられるようになった。16世紀には火縄銃の採用により小銃歩兵が出現し,国王は多数の歩兵を地方知事を通じて徴集し常備軍を編成したのが徴兵制の始まりである。18世紀のフランス革命は軍隊の歴史に重大な時期を画し,近代的軍隊として国民的軍隊と職業的軍隊が誕生した。

 フランス革命軍の兵士は国民のために戦い,国王に対する忠誠心は国に対する愛国心に変わった。この感情はヨーロッパ諸国に影響を及ぼし,国民主義が生まれ,新生フランス共和国は,対仏大同盟諸国との戦争のため兵員の大徴集を行い,国民的な大陸軍を編成した。1889年の徴兵法の改正によりすべての男子は3年間の現役兵に徴集され,平等主義に立つ国民皆兵の徴兵制が採用された。ヨーロッパ諸国もフランスの兵役制度をまねて徴兵制を採用し,国民的軍隊を編成した。当時のドイツ帝国の国民は,陸軍において常備兵役(現役2年,予備役5年),後備兵役12年,45歳まで国民兵役に服役する兵役義務を有していた。

 これらの国民的軍隊と対照的なのがアングロ・サクソン系諸国の職業的軍隊であった。イギリスの軍隊は,兵器の発達により専門家としての兵士が必要となるため長期間勤務する少数精鋭の常備軍である正規軍と,過去に国王の常備軍に対し不信の念を有した議会が国民の自由に対する侵害の防衛手段として設けた民兵がその後性格を変更して陸軍の予備軍となった地方義勇軍とで構成した。正規軍は自由志願制で服役期間は現役7年,予備役5年の職業制軍隊であり,地方義勇軍は平時民間の職業に従事している志願者から募集し,年間短期間軍事訓練を受け,戦時召集して国土防衛軍を編成した。アメリカでは,国民はすべて民兵たる義務を有するが,国家の統制をもって軍隊を編成することなく,建国の精神である自由平等主義に基づき市民の自覚による趣旨により志願兵制度を採用し,平時は職業的軍隊として最小限の正規軍を常備し,他方,建国当時自由国家の防衛手段として設けられた民兵が正規軍の予備として州護国軍となり,平時志願者を募集して短期間軍事訓練し,戦時召集して正規軍を拡大した。しかし,イギリス,アメリカ両国とも,第1次大戦および第2次大戦には,大陸進攻のため大規模な陸軍を動員編成する必要が生じ,徴兵制度を採用したが,戦後いずれも徴兵制度を廃止し,自由志願兵制にもどった。

現代における各国の兵役制度は,国の歴史,政治体制,地理的環境,人口数,国民の性情,国防方針,財政等の国家情勢により相違があるが,大別すると強制義務兵制度と自由志願兵制度に区分される。

 強制義務兵制度は,国法により国民を兵役に服させる義務を定め,国民皆兵制度である。大陸諸国は陸地の国境を接しているため陸軍を重視し,戦時膨大な兵員を必要とするためこの制度を採用し,人民民主主義の共産圏諸国は,体制維持のため陸軍以外に准軍隊である治安部隊を保有し多くの兵員を必要とするためこの制度を採用していた。この制度は徴兵制と民兵制に区分される。徴兵制は,大陸諸国のうち多数の人口を有し精強な陸軍を保有し攻勢作戦を国防方針とする国が採用する制度で,平時常備軍として1~3年間多数の現役兵を徴集して在営させて教育訓練し,現役終了後予備役に服務させ戦時召集して大規模な陸軍を動員編成する。ソ連,中国その他の共産圏諸国,フランス,西ドイツ,韓国,スウェーデンオーストリア等は徴兵制を採用していたが,ソ連解体後のロシアでは,1993年に〈ロシア連邦軍事ドクトリンの主要規定〉を示し,この中で1994年までに徴兵制から徴兵・志願混合制に移行するとした。またフランスは,東西冷戦終了による欧州安保体制の変革を受けて,1996年,フランス革命以来の伝統である義務徴兵制度を廃止し,自由志願兵制度を採用した。なお,ドイツ,スウェーデン等の自由民主主義国家では,宗教的理由から武器をとらないことを信条としている良心的兵役拒否を認め,兵役に代わり非軍事的勤務に服役させる制度がある(徴兵制下のフランスにもあった)。民兵制は,人口僅少で守勢作戦を国防方針とし,国民のすべてを民兵として養成する国で採用する制度で,平時は長期間勤務する志願兵から成る少数の基幹部隊を常備軍とし,すべての男子は平時職業の余暇に短期間軍事訓練を受け,戦時人口の大部を短時間に召集して基幹部隊を拡大編成し国土防衛に当たらしめる。スイスはこの制度を採用している。

 自由志願兵制度は,国と国民の合意により自発的に兵役に服せしめる制度であり,職業兵制の常備軍と義勇兵制の予備軍の両制度から成り,英米系の自由民主主義の海洋国,島嶼(とうしよ)国がこの制度を採用している。職業兵制常備軍は,一定の給与と服務期間を契約して職業として勤務する制度で,イギリス,アメリカ,オーストラリアカナダ,インド等の正規軍がこれに当たる。義勇兵制予備軍は,報酬は意とせずみずから進んで兵役に服し,平時短期間軍事訓練を受け,戦時召集を受け軍務に服する制度で,アメリカの州兵,イギリス,オーストラリア,インドの地方軍,カナダの民兵がこれに当たる。
軍隊 →志願兵 →徴兵制
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「兵役制度」の意味・わかりやすい解説

兵役制度
へいえきせいど
military service

軍隊において兵士として軍務につく際のさまざまな形態。国防に必要な兵員を徴集する方法、軍務につく期間、軍隊での勤務を終えた後の予備役としての資格や義務などについて定められている。国の制度として憲法や法令によって規定されるのが一般的である。自由兵役制度と強制兵役制度に大別されるが、現代においては、それぞれ志願兵制と徴兵制が主流である。

 自由兵役制度は、強制によることなく国民が自由意志に基づき軍務につく制度であり、志願兵制、義勇兵制および傭兵(ようへい)制が含まれる。志願兵制は、近代以降もっとも一般的な兵役制度で、自由意志に基づいて志願する者のなかから兵役適格者を採用する制度である。兵役を勤める意志が明確であり、兵士達の士気を高く維持できる反面、兵役が職業として選択される必要があり高コストであること、有事に際して急速な兵力拡張がむずかしいといった欠点がある。義勇兵制は、戦時などの際に国民あるいは共鳴する意志をもつ外国人が、その職業を捨て、自ら進んで軍務に服するもので、志願兵制の一種である。傭兵制は、おもに金銭契約に基づいて自国民または外国人を雇用し、兵役につかせるもので、起源は古代エジプトといわれ、中世においても広く行われたが、現在、正規の軍隊ではフランス軍の外人部隊、イギリス軍のグルカ兵などにその姿をとどめるにすぎない。しかし、21世紀に入り、アフガニスタン戦争、イラク戦争をきっかけに、民間軍事会社(PMSC:private military and security company)とよばれる、軍事サービスを会社組織で請け負う企業が多く生まれた。これは傭兵制の一種とみなすことができる。

 強制兵役制度は、一般国民に兵役義務を強制する意味から一般兵役義務制(日本では必任義務制とよばれた)とも称される。特権による免除や金銭による代人制を認めない制度で、徴兵制と民兵制とに分けられる。徴兵制は、憲法や法律によって国民に兵役の義務を課し、その意志によらずに兵役に適する者を強制的に徴集して軍務に服せしめる制度である。大規模な兵力を低コストで維持するには最適の制度であるが、若者を一定期間軍隊に拘束するため、経済、社会に与える負担が大きいという難点がある。民兵制は、日常はおのおのの職業についている国民を招集して短期間軍隊に入隊させ、訓練を行い有事に備えるもので、常備軍が小規模ですみ、また経済社会にあまり悪影響を及ぼさないという長所があるが、部隊の練度の維持や即応性という点では不十分である。現在、民兵制を採用している代表例はスイスであり、アメリカ合衆国の州兵もその源をたどれば民兵に行き着く。また、中国の民兵は、正規の軍種に位置づけられ、正規軍の補助兵力として運用されている。フランスでは、2016年、テロへの対応を強化するため、1872年に廃止されて以来145年ぶりに民兵の一種である国民衛兵Garde nationaleが、有事に軍や憲兵隊、警察を補助する組織として再建された。

 世界各国では、その軍事環境、国防政策および国内事情の違いにより、採用する兵役制度はそれぞれの特徴をもっている。歴史的に国民の自由を尊重するイギリス、アメリカ合衆国、憲法で徴兵制が禁止されている日本などは、志願兵制を採用し、旧ソ連をはじめとする社会主義諸国は徴兵制を採用していた。フランス、ドイツなど西ヨーロッパの主要国、中立国および第三世界の多くの国々も冷戦時代は徴兵制が一般的であった。しかし、ヨーロッパにおいては、冷戦が終結し、軍事的緊張が一気に解けた1990年代以降、徴兵制を廃止し志願兵制に移行する国々が相次いだ。多くの北大西洋条約機構(NATO(ナトー))諸国と中立国のスウェーデンが徴兵制を廃止した。しかし、2010年以降、再度、徴兵制を復活させる国が出てきている。スウェーデン、リトアニア、ウクライナは「ロシアの脅威」を、フランスは「テロとの戦い」を理由として徴兵制の復活を決めるか検討している。徴兵制を主体に志願兵制を併用しているロシアは、徐々に志願兵の割合を増やす意向である。

[亀野邁夫・山本一寛 2019年2月18日]

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