其人(読み)そのひと

精選版 日本国語大辞典 「其人」の意味・読み・例文・類語

その‐ひと【其人】

[1] 〘連語
① すぐ前に述べた話題の人物をさしていう。
万葉(8C後)一一・二五六九「思ふらむ其人(そのひと)なれやぬば玉の夜毎に君が夢(いめ)にし見ゆる」
② わざと名を伏せて漠然とその人物をさし示す。また、氏・素姓などの不明な人物をさして用いる。だれそれという人。
※伊勢物語(10C前)九「京に、その人の御もとにとて、文書きてつく」
③ その任に適している人物。また、その身分に相当する人物。しかるべき身分の人。
※能因本枕(10C終)五七「その人のさぶらふなど言ひゆづれど」
[2] 〘名〙
① 名前の下につけて、強めていう。まさに当人。その人自身。
※思出の記(1900‐01)〈徳富蘆花〉三「新五其人は相かはらず暇々に読書筆算を勉強して」
支考の説いた連句付合の法八体のうちの一つ。前句の趣向によって人物を想像し、その人物の動静をつけるもの。〔俳諧去来抄(1702‐04)〕
[3] 〘代名〙 他称。相手側の、またはすぐ前に話題になった人物をさし示す(中称)。「そのかた」より待遇度は低い。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「其人」の意味・わかりやすい解説

其人
きじん
Kiin

朝鮮,統一新羅時代から朝鮮王朝 (李朝) 中期までの身分制。新羅時代は地方の有力者ないしはその子弟が王都に集り,地方政治の顧問役となった。高麗成宗6 (987) 年,郷吏制定以後,郷吏の子弟が其人として都に人質となり,文宗 31 (1077) 年以後,中央官庁雑役従事。 13世紀以後は賤民と同様の役職となり,17世紀に入って大同法が実施されると,炭木納入人に変った。

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世界大百科事典(旧版)内の其人の言及

【事審官】より

…高麗王朝の成立後,地方豪族は郷吏(胥吏(しより))になって力を温存した。それを抑えるために,郷吏の子弟を其人と名付けて上京させ,また中央官僚に出身地の事審官を兼任させ,出身地の郷吏の推薦と監督に当たらせた。高麗後期には事審官が郷吏を使って土地と農民を支配し大きな弊害を起こしたので,1318年に廃止したが,やがて復活し高麗末まで存続した。…

※「其人」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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