内分泌療法(読み)ないぶんぴつりょうほう

日本大百科全書(ニッポニカ) 「内分泌療法」の意味・わかりやすい解説

内分泌療法
ないぶんぴつりょうほう

ホルモン療法ともよばれ、一つの内分泌臓器の機能不全あるいは欠損に対して、その臓器のホルモンを補充する療法と、一つの内分泌機能亢進(こうしん)に対して、そのホルモンと拮抗(きっこう)する他のホルモンを投与して調節する療法との二つの方法がある。後者はたとえば、過剰女性ホルモンに対する男性ホルモンの投与や、糖尿病に対する拮抗性ホルモンの投与などであり、これらの内科的療法のほか、外科的療法、すなわち末期あるいは再発乳癌(にゅうがん)に対する卵巣副腎(ふくじん)摘出という治療法などもある。

 補充療法としては、甲状腺(せん)機能不全に対する甲状腺ホルモンのように、下垂体機能不全のほか、卵巣機能不全など種々の婦人科疾患に適応がある。これらは不足分のホルモンを投与するわけで、副作用としてのホルモン過剰症状はみられない。一方、アレルギーやリウマチなどに対する副腎皮質ホルモンの投与や乳癌末期の男性ホルモン投与、前立腺癌の女性ホルモン(エストロゲン)療法は、補充領域を超える投与を行うため、副作用を伴うことが多い。最近では、副作用改善に非ステロイド剤で、ホルモンでないのにホルモン作用を示す薬物が開拓されている。たとえば、女性ホルモン作用をおこさせる機序の一つである、エストロゲンの結合するエストロゲン受容体を遮断してエストロゲン作用を抑制する遮断剤(タモキシフェン)もその一つである。これは長期投与による副作用のホルモン過剰症状を伴わない点で優れ、ホルモン剤にかわってホルモン療法の地位を築きつつある。純粋のホルモン剤による拮抗作用療法では、多量を使用するため副作用が多いが、外科的内分泌療法は逆にホルモン産生臓器の摘出法(前述のほか、下垂体切除、異所性ホルモン産生腫瘍(しゅよう)の摘出など)であり、副作用は少ないが、副腎や下垂体の摘出では術後にホルモン不足がおこり、欠損ホルモンの補充療法、すなわち維持療法が別に必要となることが欠点である。

[妹尾亘明]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

知恵蔵 「内分泌療法」の解説

内分泌療法

内分泌物質(ホルモン)や、ホルモンの分泌量をコントロールする薬剤を投与することによって、ホルモンが関与する病気の発生や進行を抑える治療法のこと。
ホルモンは血液などに含まれ、非常に微量ながら身体の恒常性を保つために大きな働きをしている。例えば、インスリンの分泌量が減ると血糖値が上がり糖尿病になるが、その場合にインスリンを投与して血糖値を下げるのも内分泌療法の一種である。あるいはインスリンそのものではなく、インスリンの分泌量を増やすための薬が投与される場合もあり、これもまた内分泌療法の一種とされている。
ホルモンの補充を目的に行われる治療法で代表的なものには他に、更年期期障害を軽減し骨粗鬆症(こつそしょうしょう)を治療するためにエストロゲンやプロゲステロンなどを投与するものがある。これを婦人科では、ホルモン補充療法(HRT)と呼んでいる。
近年特に広く普及してきているのが、前立腺がん、乳がん、子宮体がんといった、ホルモンが関与するがんに対する治療である。これらのがんのうち一部は、特定のホルモンの分泌量が多いと進行が早くなることが知られており、細胞診などによってホルモンへの感受性が高いことが分かった場合に選択される。中でも前立腺がんにおいて男性ホルモンの分泌量を抑制する目的でLH-RH(黄体ホルモン放出ホルモン)を投与する治療は、手術や放射線療法と並ぶ基本の治療法となっている。また乳がんでも、がん細胞の増殖を抑えるためにLH-RHが術後の再発予防などで用いられることが多い。
なお、一つのホルモンにいくつもの働きがあるため、内分泌療法の副作用も補充または抑制したホルモンによる働きに応じて現れる。例えば、LH-RHの場合には、女性なら閉経となり骨粗鬆症や高血圧などの更年期障害が起こることが知られている。

(石川れい子  ライター / 2014年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

今日のキーワード

脂質異常症治療薬

血液中の脂質(トリグリセリド、コレステロールなど)濃度が基準値の範囲内にない状態(脂質異常症)に対し用いられる薬剤。スタチン(HMG-CoA還元酵素阻害薬)、PCSK9阻害薬、MTP阻害薬、レジン(陰...

脂質異常症治療薬の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android