再吸収(読み)さいきゅうしゅう(英語表記)reabsorption

改訂新版 世界大百科事典 「再吸収」の意味・わかりやすい解説

再吸収 (さいきゅうしゅう)
reabsorption

血液あるいは間質液に含まれている物質が,いちど特殊な空間に出されたのち,再び血液あるいは間質液に吸収されることをいう。典型的な例は,腎臓の糸球体で血漿がろ(濾)過されてできた液(糸球体濾液という)が,尿細管の内腔を流れる間に,生体にとって必要な物質および水の大部分が吸収されて,間質液,次いで血液に戻される尿細管再吸収tubular reabsorptionである。このほか各種の分泌腺では,腺胞で血漿成分が分泌され,それが腺の導管を通る間に電解質の再吸収がみられる。

尿細管での再吸収は,量的にも,物質の種類の多い点でも特別で,かつ腎臓での尿生成の重要な過程になっている。糸球体濾過量は1日量に換算すると170lに及ぶが,尿細管でその99.5%を再吸収する。とくに血漿に含まれる体液の正常成分の再吸収率は高く,他方,代謝産物や異物(尿素,尿酸塩,リン酸塩,硫酸塩,クレアチニンなど)の再吸収率は低いため,後者に属する諸物質が少量の水に濃縮されて尿として排出される。生体にとって必要な物質に対しては,尿細管の細胞の管腔に面した側の細胞膜にそれらの物質を細胞内にとりこむ特殊な担体carrierが備わっており,そのような特定物質の輸送に働く機構は輸送系transport systemと呼ばれている。腸管吸収の場合と同様,糖やアミノ酸はナトリウムイオンNa⁺と共輸送co-transportされる。このため,はなはだしい濃度勾配に逆らっても管腔内から細胞内にとりこまれ,糸球体濾液が管内を流れる間にほとんど完全に再吸収される。

(1)栄養物の再吸収 腎臓でのブドウ糖,アミノ酸などの再吸収はほとんど近位尿細管で行われ,再吸収の程度も100%近いため,これらの物質は健康人では尿中にはほとんど出ない。しかし,これらの物質も,血中濃度がある濃度をこえて高くなると尿中に排出されるようになる。たとえば糖尿病の場合には,糖尿として排出される。これは,ろ過によって尿細管管腔内に流入してくる糖の量が,尿細管上皮細胞の輸送系の再吸収能力の限界をこえ,再吸収しきれなくなって起こる現象で,オーバーフロー性糖尿という。アミノ酸についてもオーバーフロー性のアミノ酸尿は起こりうるが,糖尿のようにそれを主徴とする病気はまれである。一方,血中の濃度が正常範囲であっても,尿細管の輸送系の発達が先天的に悪かったり,輸送系がなんらかの原因で障害されて働く輸送系が少なくなっている人では,再吸収が不十分となるため,尿中に糖やアミノ酸が排出されるようになる。そのような場合を腎性糖尿腎性アミノ酸尿という。先天的な腎性アミノ酸尿の場合は,中性アミノ酸のみの再吸収不良,塩基性アミノ酸のみの輸送欠損,グリシンやイミノ酸の再吸収不良の三つのタイプがみられる。糸球体濾液には血漿タンパク質のうちでも比較的低分子のアルブミンがわずかながら存在するが,これは近位尿細管の上皮細胞にまるごと飲作用の様式で吸収され,細胞内で分解されてアミノ酸として血中に戻される。

(2)電解質の再吸収 尿細管でのNa⁺,カリウムイオンK⁺,塩素イオンCl⁻,炭酸イオンHCO3⁻などのイオンの再吸収には多彩で複雑な機構が働いている。近位尿細管では,Na⁺は糖,アミノ酸,リン酸などと共輸送で細胞内に入り,細胞の血液側に面した膜(側底膜という)に存在するナトリウムポンプでくみ出されている。この部分でろ過量の8割程度が再吸収され,残りの約2割程度がそれより遠位で再吸収される。Cl⁻はNa⁺の吸収に伴って,またK⁺は溶質の吸収に伴う水の移動で管腔内で濃縮され,細胞間を通って拡散で再吸収される。HCO3⁻は,細胞から管腔内に分泌された水素イオンH⁺と反応し,CO2として速やかに吸収される。Na⁺,Cl⁻の遠位での再吸収にも二つの異なった機構がある。遠位尿細管の前半部またはヘンレ係蹄上行脚の太い部分ではNa⁺/Cl⁻/K⁺の共輸送で再吸収されており,遠位尿細管の後半部以降では低濃度の管内液中のNa⁺をも捕捉して細胞内にとりこむ特殊なNa⁺チャンネルが働いている。このNa⁺チャンネルはアルドステロンというホルモンの影響をうけて数が増減するため,体内のNa⁺の保有量や細胞外液量の増減に応じてその数が変化する。K⁺は遠位尿細管では再吸収と分泌の二つの機構で処理される。すなわち,体内にK⁺が欠乏すると再吸収が促進され分泌が抑えられるが,K⁺が多く蓄積すると分泌が優勢となる。

(3)水の再吸収 栄養物や電解質の再吸収によって形成される管腔内液と間質液の間の浸透圧勾配が水再吸収の駆動力になる。近位尿細管では,水の透過性が高いため,溶質の再吸収の割合に一致して水も約8割が再吸収される。遠位尿細管,集合管では,水の透過性は抗利尿ホルモンが作用しないと著しく低く,電解質が再吸収されるために血漿より薄い尿ができる。一方,体液の浸透圧が高くなり抗利尿ホルモンが分泌されると,この部分の水の透過性は高まり,とくに集合管が腎髄質を通る間に,髄質に形成されている高い浸透圧によって水は強力に再吸収され,尿は血漿より濃い状態になる。
腎臓 →浸透圧調節 →尿 →能動輸送
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

栄養・生化学辞典 「再吸収」の解説

再吸収

 排泄されたり,ろ過されたり,分泌されたりした物質を再び体内に取り入れること.

出典 朝倉書店栄養・生化学辞典について 情報

世界大百科事典(旧版)内の再吸収の言及

【尿】より

…哺乳類では腎臓でつくられた尿は輸尿管を通って膀胱に集められ,間欠的に尿管を通って体外に出される。再吸収や分泌される物質の種類と量は,体液の浸透圧やイオン調節と関連して,おもにホルモン(アルドステロン,バソプレシンなど)によって調節され,適当な濃度の尿ができる。海水魚のように体液より高張な環境にすむ動物は比較的濃い尿を,淡水の動物は体液より淡い尿を出す。…

【排出】より

…この過程が排出である。脊椎動物には排出器官として発達した腎臓があるが,無脊椎動物にも系統群によってそれぞれ特有の排出器官があり,排出器官では,原理的にはろ過,再吸収,分泌の三つの過程を経て尿が作られる。脊椎動物の腎臓を例にとると,まず第1段階として腎小体(マルピーギ小体)で,小動脈よりなる糸球体からそれを包むボーマン囊へ体液がろ過されるが,これは小動脈内血圧と外側の圧の差によって起こる限外ろ過であって,血球と大部分のタンパク質を除く血液成分がこし出される。…

※「再吸収」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

今日のキーワード

脂質異常症治療薬

血液中の脂質(トリグリセリド、コレステロールなど)濃度が基準値の範囲内にない状態(脂質異常症)に対し用いられる薬剤。スタチン(HMG-CoA還元酵素阻害薬)、PCSK9阻害薬、MTP阻害薬、レジン(陰...

脂質異常症治療薬の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android