精選版 日本国語大辞典 「再生」の意味・読み・例文・類語
さい‐せい【再生】
さい‐しょう ‥シャウ【再生】
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生物が体の一部をなんらかの理由によって損壊されたときに、失った部分を修復し1個体としての生活を可能にする現象をいう。しかし、ヒトの皮膚の切り傷のように体のごく小さな部分が修復される場合は、損傷治癒または癒傷とよび、体の大きな部分の修復を意味する再生と区別することが多い。また、海綿の解離細胞による個体の新生は再構築といい、再生とはいちおう区別されている。
[竹内重夫]
シカの角(つの)の脱落のように、体の部分の損壊がその個体の生理的事情に基づく場合の再生を生理的再生とよぶ。鳥の換羽、ヒトの毛髪の抜け替わりなどもこの類に属する。これに対し、偶発的原因による損傷の補修を外傷的再生(病理的再生)とよぶ。外傷的再生はさらに、損傷部分の形態修復が周辺の細胞だけの再編成によって行われる形態調整と、傷周辺で分裂増殖した未分化な細胞群によって行われる真再生とに分けて考えられることがある。ヒドラの再生は前者の、プラナリアの再生、イモリの肢(あし)の再生は後者の典型的な例とされる。
[竹内重夫]
傷が加えられたとき、その大小にかかわらず、まず血液あるいは体液の凝固による一時的な傷口の閉鎖に続いて、傷周辺からの上皮細胞の移動(脊椎(せきつい)動物一般)と、傷周辺での細胞分裂の増加、あるいは未分化な細胞の傷口への移動(プラナリアその他)などにより永続的に傷口が閉鎖される。これにより、水の逸失など内部環境の乱れ、あるいは外からの細菌など異物の侵襲による組織のそれ以上の破壊を防ぐ。傷口の閉鎖と同時に損傷の修復が進められる。傷周辺の毛細血管が拡充して透過性が高まり養分が与えられるとともに、食細胞によって、壊された組織の清掃が続けられ、繊維芽細胞が傷の部分へ移動する。小さい傷ならば、この傷の部分で細胞の分化を含む組織形成が行われ、周囲とつり合いのとれた組織が修復される。この意味で小さい傷の再生の研究は胚(はい)発生時の組織分化の仕組みをも明らかにすると考えられている。一方、イモリの肢の切断など大きな傷の場合、傷口の閉鎖ののち、ここに未分化な細胞が集まり増殖して再生芽をつくる。再生芽の細胞集団は周囲の組織の影響のもとに、形をつくる場合、基準となる頭~尾、背~腹、内~外という三つの軸に沿って成長し、骨や筋肉などを形成して、体全体とつり合いのとれた肢を再生することになる。したがって、大きな傷の再生の研究は、胚発生をも含めて形態形成の仕組みの理解を助けるとも考えられている。しかし再生芽は既存の体とのつり合いを保った形態形成を行うこと、またイモリの水晶体を除去すると虹彩(こうさい)から水晶体が再生してくる(化生)ことなど、再生に特有な問題も多い。
[竹内重夫]
ヒドラやプラナリアの体には、なにかある物質の濃度や細胞の活動が頭から尾に向かって徐々に減少するという勾配(こうばい)があり、再生はこの勾配が元どおりになるように行われ、その結果、つり合いのとれた体を取り戻すと考えられている。また勾配は、細胞が場所に応じて適切に分化し、調和のとれた再生が行われるための位置情報として利用されるという考え方もある。傷の場所(場)が再生の仕方を決めている例も多い。イモリの前肢の再生芽は、その場では前肢になるが、後肢の場に移植されれば後肢になる。エビの目を深く切り取ると、目のかわりに触角が再生する(異型再生)が、これは目を深く傷つけたため目の再生の場が失われ、再生芽は触角再生の場の指示に従ったものと考えられる。最近、イモリや昆虫の肢が再生するとき、細胞は肢を中心とした極座標によって示される位置情報に従うという主張もなされている。
[竹内重夫]
なんらかの理由で失われた生物体の部分が,生物自身によって復元される現象。一般に組織化の程度の低いものほど再生能が高い。たとえばアメーバやカサノリなどの単細胞生物の細胞個体は,核を含んでいるかぎり,かなり小さな断片からでも完全な個体を再生する。同様に,海綿動物,腔腸動物,扁形動物,環形動物の仲間には,小さすぎない任意の小片から,その小片の大きさに見合ったサイズの個体を再生するものがみられる。
再生現象は無性生殖とも深いかかわりをもつと考えられ,一般に再生能のすぐれて高い生物は無性生殖能も高い。現に個体を再生できる最も高等な動物である原索動物のホヤにおいても,再生のできる種は自然状態において無性生殖をすることが知られている。また,プラナリアやゴカイの仲間には,自分の体を任意にいくつかの断片に自切し,それぞれの断片から個体を再生させることをもって正常な無性生殖の方法としているものがある。
体の一部から個体全体を修復的に再生する能力は脊椎動物からは失われ,最も再生能の高い両生類でも,四肢や尾,目のレンズなどの器官を再生しうるのみである。もちろん脊椎動物に無性生殖をするものはない。鳥類以上では器官の再生もみられなくなるが,哺乳類に至るまで,筋肉と神経を除くほぼすべての組織において,損傷からの復元が可能である。
以上のような失われた部分を復元する修復再生に対し,生理的再生といわれ,表皮や消化管の粘膜上皮や血球などのように,個体の維持のためにつねに行われている再生の過程がある。この再生様式をとることで知られる最も下等な動物ヒドラでは,口部直下の部域より,内外2層のみの体壁にそって細胞が上下に流れ続けており,上方では触角の先端部,下方では基部の中心に達したものから順に脱落していく。同様の現象が,脊椎動物に至るまで,内外両胚葉の上皮組織に広くみられるということは,生理的再生の過程が多細胞体制の本質に深くかかわるものであることを物語っている。
執筆者:団 まりな
病的理由により失われた細胞や組織が,残存する同一の細胞や組織の増殖によって,元に復することを再生という。再生には細胞の分裂増殖が不可欠であるから,非分裂細胞である神経細胞からなる脳や横紋筋細胞からできている骨格筋,心臓には,組織損傷が起こっても再生は起こらない。一方,絶えず細胞分裂をして細胞交代を行っている表皮や粘膜あるいは骨髄などの組織では,組織損傷を受けると速やかな再生がみられる。哺乳類では,毛細血管よりも上位の血管にまで及ぶような大きな組織損傷が起こると,機能,形態ともに完全な再生は起こらない。完全な再生は,ごく小さな上皮のみの傷や,壊死(えし)に陥った個所が完全に吸収されて,肉芽組織ができないような小さな結合組織の傷の場合のみ起こる。肝臓の部分切除後の再生といっても,肉眼的形態上の完全な回復は起こらない。
執筆者:山口 和克
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[外傷の病理]
(1)局所反応 局所における反応とは損傷部の生体反応のことで,特殊な阻害因子がないかぎり,受傷直後から修復が始まる。表皮,粘膜,末梢神経,骨,肝臓などの限られた臓器組織では,損傷された部分と同じ働きをもつ組織によって修復され(再生),その他の臓器組織では,損傷された部分の働きより劣った働きしかできない組織によって修復される(瘢痕(はんこん)治癒)。修復過程を遅らせる因子には,損傷部自体の問題と全身的な問題とがある。…
…変性に伴いタンパク質が凝固・沈殿することもまれではない。また,変性したタンパク質を元の環境に戻したときに高次構造と活性が回復することをタンパク質の再生という。塩酸グアニジンなどの強い変性剤中では,二次構造は完全に消失し,合成高分子などに見られるランダムコイルの状態になる。…
※「再生」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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