冬の日(読み)フユノヒ

デジタル大辞泉 「冬の日」の意味・読み・例文・類語

ふゆのひ【冬の日】

江戸前期の連句集。1冊。山本荷兮やまもとかけい編。貞享2年(1685)刊。芭蕉指導もと尾張蕉門が催した歌仙5巻と追加6句からなる。俳諧七部集の一。

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

精選版 日本国語大辞典 「冬の日」の意味・読み・例文・類語

ふゆ【冬】 の 日(ひ)

① 早く暮れる短い冬の一日。《季・冬》
※兼輔集(933頃)「冬の日は詠むるままにもくれ竹のよるぞわびしきながき思ひは」
② 冬の、鈍く弱々しくさす太陽。《季・冬》
俳諧・笈の小文(1690‐91頃)「冬の日や馬上に氷る影法師〈芭蕉〉」

ふゆのひ【冬の日】

江戸前期の連句集。一冊。荷兮(かけい)編。貞享元年(一六八四成立。同二年刊松尾芭蕉の指導のもとに尾張(名古屋)蕉門が催した歌仙五巻と追加六句からなる。蕉風の成立を示す記念碑的な集で俳諧七部集の一つ。中興期の俳諧に大きな影響を与えた。

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

改訂新版 世界大百科事典 「冬の日」の意味・わかりやすい解説

冬の日 (ふゆのひ)

俳諧撰集。荷兮かけい)編。1684年(貞享1)冬成立。刊行は翌年春か。1冊。野ざらし紀行(《甲子吟行》)の旅の途中の芭蕉が,名古屋でその地の俳人とともに成した作品。荷兮編だが,芭蕉の強い指導の下に成ったと思われる。〈狂句こがらしの身は竹斎(ちくさい)に似たる哉〉(芭蕉),〈はつ雪のことしも袴(はかま)きてかへる〉(野水),〈つつみかねて月とり落す霽(しぐれ)かな〉(杜国),〈炭売のをのがつまこそ黒からめ〉(重五),〈霜月や鸛(こう)の彳々(つくづく)ならびゐて〉(荷兮)をそれぞれ発句とする歌仙5巻と,〈いかに見よと難面(つれなく)うしをうつ霰(あられ)〉(羽笠)を発句とする表六句を収める。はじめの3歌仙は芭蕉,野水,荷兮,重五,杜国,正平と巻き,あとの2歌仙と表六句は,正平が羽笠と入れかわっている。芭蕉以外はいずれも名古屋の富裕な旦那衆であったと思われる。芭蕉はそれまでの《次韻(じいん)》(1681),《虚栗(みなしぐり)》(1683)で漢詩文調を借りて新しい詩趣を表現したが,野ざらし紀行の旅を通じて自然な詩情に眼を開かれ,その一つの成果がこの《冬の日》であった。ただし,技巧的で誇張的な傾向はなお強く,のちの《猿蓑》(1691),《炭俵》(1694)とはへだたりのあるものであった。だが,蕉風俳諧出発点として評価されるもので,《俳諧七部集》の第1集とされている。
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「冬の日」の意味・わかりやすい解説

冬の日
ふゆのひ

俳諧撰集(はいかいせんしゅう)。一冊。荷兮(かけい)編。題簽(だいせん)「冬の日 尾張五哥仙(おわりごかせん) 全」。1685年(貞享2)刊。「俳諧七部集」の第一集。84年10月から11月にかけて、「野ざらし紀行」の途次、名古屋に立ち寄った芭蕉(ばしょう)と尾張の連衆野水(やすい)、荷兮、重五(じゅうご)、杜国(とこく)、正平(しょうへい)、羽笠(うりゅう)らによって興行された歌仙五巻、および追加の表六句よりなる。書名は、各連句の発句(ほっく)がいずれも冬の季であるところより由来。各発句とも詞書(ことばがき)を有し、とくに巻頭の芭蕉発句「狂句こがらしの身は竹斎に似たる哉(かな)」は、風狂のポーズの著しいもので、それに応じ連句全体も詩的緊張に満ちた表現をとっている。本書は漢詩文調から脱して新しい俳諧の世界を開拓したもので、そこに蕉風の第一歩が確立されたといえよう。

[雲英末雄]

『中村俊定校注『芭蕉七部集』(岩波文庫)』『同校注『日本古典文学大系45 芭蕉句集』(1962・岩波書店)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「冬の日」の意味・わかりやすい解説

冬の日
ふゆのひ

江戸時代中期の俳諧集。山本荷兮 (かけい) 編。1冊。貞享1 (1684) 年刊。『俳諧七部集』の一編。松尾芭蕉が『野ざらし紀行』の旅のとき,名古屋で,荷兮,杜国,野水,重五,正平らとつくった歌仙 5巻と表句6句を収める。荷兮は名古屋の医者で,このとき蕉門に入り,ほかに『春の日』『阿羅野』も編んでいる。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内の冬の日の言及

【春の日】より

…発句数の多い作者は越人(9句),荷兮(8句),重五・杜国(各5句)らであり,芭蕉の句は〈古池や蛙飛び込む水の音〉をはじめ,3句収められている。1684年(貞享1)冬に成立し,翌年春に刊行され,蕉風俳諧出発の書とされる《冬の日》(荷兮編)の後編または姉妹編と考えられている。《冬の日》にみられた技巧的,誇張的な傾向が薄らぎ,比較的平易でおだやかなものとなっている。…

※「冬の日」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

今日のキーワード

焦土作戦

敵対的買収に対する防衛策のひとつ。買収対象となった企業が、重要な資産や事業部門を手放し、買収者にとっての成果を事前に減じ、魅力を失わせる方法である。侵入してきた外敵に武器や食料を与えないように、事前に...

焦土作戦の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android