冷熱利用(読み)れいねつりよう

改訂新版 世界大百科事典 「冷熱利用」の意味・わかりやすい解説

冷熱利用 (れいねつりよう)

ここでは天然ガスを液化する際に生ずる冷熱の利用について述べる。液化天然ガスLNG略称)は,液化基地で産出する天然ガスの約10%を費やして生産され,常圧で沸点(約-160℃)を保ちながら輸送貯蔵される。すなわち,LNGは液化時に加えられたエネルギーを内部に保有しているわけで,常温の天然ガスに戻るに際して,大量の熱を周囲から奪って冷やす能力をもっている。この能力をLNGの冷熱といっているが,LNG1kg当り約200 kcalの熱を他のものから奪うことができる。

受入基地ではLNGを海水などで温めてもとの天然ガスに戻し使用しているが,LNGの冷熱の大半は利用されずに捨てられていることになる。このようなエネルギーをもったLNGの超低温をできるだけ有効に回収する,これがLNGの冷熱利用の基本的な発想である。

 ふつう,低温を得るには,冷凍機でフロンなどの冷媒を圧縮して冷却液化した後,圧力を下げることにより冷媒が蒸発するときの潜熱(物質が気化するときに吸収する熱)を用いるが,冷やそうとする温度が低ければ低いほどエネルギーを多量に要する。同じ1 kcal分の冷熱をつくるといっても,液体窒素(沸点-196℃)レベルでは0℃の氷をつくる場合の35倍ものエネルギーが必要となる。したがって,LNGのもつ-160℃という超低温を冷凍源として使う場合,できるだけ低温を要するものへ利用するほうがLNGの冷熱価値を有効にひきだすことができる。

LNGの冷熱利用が最も有効に行われているのが液体酸素および液体窒素の製造である。通常これらは-190℃の低温において液化した空気を分留して製造されるが,この際に膨大な動力が費やされる。ここにLNGの冷熱を利用すると,ふつう大型プラントで製品1 m3当り1.2 kWhの電力を消費するが,最新のLNG冷熱利用方式では0.6 kWh以下に半減され,きわめて有利となる。LNGの冷熱利用の液体酸素・液体窒素製造プラントは根岸(神奈川),袖ヶ浦(千葉),知多(愛知),泉北(2基,大阪),北九州,新潟の7ヵ所で稼働している。

 同様に液化炭酸ガスの製造にも有効利用され,泉北,知多,根岸の3ヵ所で稼働している。ドライアイスの製造にも利用される。根岸では-50℃の超低温倉庫にもLNGの冷熱が利用され,マグロなどの品質保持に役立っている。

 また,冷熱をエネルギーとして利用する発電は多くのLNG受入基地で実用機が稼働している。空気分離などに比べて省エネルギー性や経済的優位性は高くないが,立地条件などの制約を受けることなく冷熱利用が可能である。今後の新しい利用面としては,食品の貯蔵,加工,流通などを一体化した冷凍食品コンビナートへの利用や,廃棄物の再資源化への応用などが提案され,検討が進められている。
液化天然ガス
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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