(読み)すさまじい

精選版 日本国語大辞典 「凄」の意味・読み・例文・類語

すさまじ・い【凄】

〘形口〙 すさまじ 〘形シク〙 (四段動詞「すさむ(荒)」の形容詞化したもの。古くは「すさまし」)
① 風などが寒い。白々とした冷たさである。身が寒くなるほどである。「冷まじ」の表記で秋の季語とされる。
書紀(720)舒明四年一〇月(寛文版訓)「風寒之(スサマシキ)(ころ)に船艘(ふね)を餝整(よそ)ひて迎へ賜ふこと歓(よろこ)ひ愧(かしこ)まる」
※九位(1428頃)「宝剣光寒(すさまじ)きは、冷えたる曲風なり」
② 色が白い。冷たさが感じられるほど白い。
※白氏文集天永四年点(1113)四「仙人琪樹は白(スサマシく)して色無し」
③ 不調和から起こる荒涼とした感じを表わす。興がさめるようだ。情趣がない。面白くない。
古今(905‐914)仮名序葛城の大君を、みちのおくへつかはしたりけるに、国の司事おろそかなりとてまうけなどしたりけれど、すさまじかりければ」
※枕(10C終)二五「すさまじきもの 昼ほゆる犬、春の網代(あじろ)。〈略〉まいて節分などはいとすさまじ」
恐怖を感じさせるほどだ。恐ろしい。ものすごい。
平家(13C前)二「滝の音ことにすさまじく松風神さびたるすまひ」
※自由学校(1950)〈獅子文六〉悪い日「あのすさまじい腕力が潜んでいると思うと」
気持や興味が薄く顧みられない。冷淡である。
今昔(1120頃か)一九「我は此の年来(としごろ)被弃(すてられ)て有つる其(それ)の神也。而るに、此の守の思ひ不懸ず、冷(すさまじ)くて有つるを」
生活などが苦しい
※今昔(1120頃か)二四「世の中冷(すさまじ)き時には、和(やは)ら宋に渡なましと思けれども」
程度がはなはだしい。
※仮名草子・伊曾保物語(1639頃)上「わがすさまじき癖あらはしぬれば」
⑧ あきれかえるほどである。とんでもないことである。もってのほかである。
洒落本・傾城買四十八手(1790)やすひ手「茶やづきもすさましい。おほかた大をん寺めへか田町だらう」
[語誌](1)古くは温度感覚を表わす語として「寒」「冷」の訓に当てられることが多く、特に、現代のような「寒い」と「冷たい」の対立がなかった上代、中古では、「冷」は専ら「すさまじ」の訓が当てられる。
(2)中古以降、「(生活などが)苦しい」「(程度が)はなはだしい」などの意で用いられるようになる。
すさまじ‐が・る
〘他ラ四〙
すさまじ‐げ
〘形動〙
すさまじげ‐さ
〘名〙
すさまじ‐さ
〘名〙

すご・い【凄】

〘形口〙 すご・し 〘形ク〙 (心に強烈な戦慄(せんりつ)や衝撃を感じさせるような、物事のさまをいう)
① ぞっとするほど恐ろしい。気味が悪い。鬼気迫るようである。
源氏(1001‐14頃)末摘花「かの物におそはれし折思し出でられて、荒れたる様は劣らざめるを、程のせばう、人気のすこしあるなどになぐさめたれど、すこう、うたていざとき心地する夜の様なり」
読本・英草紙(1749)二「山下(ふもと)を行く道の傍一所の墓地あり。化人場頭樹木自ら木も殺気(スゴ)くて」
② ぞっとするほどさびしい。荒涼とした感じで背筋が寒くなるほどである。
※赤人集(11C初か)「なつなればすごくなくなるほととぎすほとほといもにあはできにける」
③ ぞっとするほど美しい。戦慄を感じさせるようなすばらしい風情である。
※宇津保(970‐999頃)楼上下「横笛を声のいづるかぎりふき給ふ。おもしろき折にあひて、あはれにすごう、これもよになくきこゆ」
④ あまりにその程度がはなはだしくて、人に舌をまかせるほどである。
※土(1910)〈長塚節〉一〇「次の日には空は些(いささか)の微粒物も止めないといったやうに凄(スゴ)い程晴れて」
⑤ (連用形を副詞的に使うことが多い) 程度のはなはだしいことを表わす。たいへん。たいそう。とても。ふつう、口頭語として使われる。
※人情本・英対暖語(1838)五「杜若(やまとや)の女清玄のすごく美麗(うつくしい)のを視様だらふと、それが楽しみだヨ」
※森と湖のまつり(1955‐58)〈武田泰淳〉一六「ともかく、すごく苦しそうにうなっていたからね」
[語誌](1)「平家物語」には、「幽」(四部本‐灌頂)、「孤」(百二十句本‐三)、「苦」(熱田本‐灌頂)を、それぞれ「スゴシ」と訓む例が見られる。しかし、「凄」を「スゴシ」と訓む例は、中世の作品には見出し難い。むしろ、「凄」は中世後期には「冷」等の漢字とともに「すさまじ」と訓まれている〔文明本節用集・温故知新書・和玉篇〕。
(2)中世には、「すごし」の意義が「すさまじ」に接近していたところから、近世の辞書類になると、その「すさまじ」を媒介として、「凄」を「物スゴシ」〔希雅〕としたり「すごし」に「凄々の意也」〔和訓栞〕としたりするものが現われてくる。
すご‐げ
〘形動〙
すご‐さ
〘名〙

すご・む【凄】

〘自マ五(四)〙 すごみのある様子をする。相手に恐怖を感じさせるような言動をしてみせる。
※古川ロッパ日記‐昭和一二年(1937)八月三一日「ヤクザ気分を一切清算せよ、スゴんだり尻まくるのは一切通用しないと意見する」

すさまじ【凄】

〘形シク〙 ⇒すさまじい(凄)

すご・し【凄】

〘形ク〙 ⇒すごい(凄)

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

デジタル大辞泉 「凄」の意味・読み・例文・類語

せい【凄】[漢字項目]

常用漢字] [音]セイ(漢) [訓]すさまじい すごい
肌寒い。「凄凄凄然
すさまじい。すごい。「凄絶

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

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