刺子(読み)さしこ

精選版 日本国語大辞典 「刺子」の意味・読み・例文・類語

さし‐こ【刺子】

〘名〙 厚手の綿布を重ね合わせて、一面に細かく刺し縫いをしたもの。消防服や柔道剣道稽古着などに用いる。さしっこ。
狂歌徳和歌後万載集(1785)三「水鳥のすがもに植しひとかまへ菊のさしこと見ゆるませ垣」
破戒(1906)〈島崎藤村二三「刺子(サシコ)手袋、盲目縞(めくらじま)股引といふ風俗で」

さしっ‐こ【刺子】

〘名〙 「さしこ(刺子)」の変化した語。
※雑俳・柳多留‐二五(1794)「さしっこの弓がけをかけて舟をこぎ」

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デジタル大辞泉 「刺子」の意味・読み・例文・類語

さし‐こ【刺(し)子】

綿布を重ね合わせて一針抜きに細かく刺し縫いにすること。また、そのように縫ったもの。丈夫なので柔道着・剣道着などに用いる。

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改訂新版 世界大百科事典 「刺子」の意味・わかりやすい解説

刺子 (さしこ)

表裏2枚の布を重ねて刺し縫いをしたもので,綴り縫いあるいは綴れ刺しともいわれる。本来は衣類の傷んだ個所をつくろい,補強して保温効果を高め,長もちさせるための技法であり,木綿生産に適しない東北各地,あるいは交通不便な山間地,労働条件のきびしい漁村などで,さかんに行われた。由来は明らかではないが,糞掃衣(ふんぞうえ),刺衲袈裟(しのうげさ)と呼ばれる袈裟には刺子が応用されており,また《信貴山縁起絵巻》に,主人公の聖が姉の尼公から渡された〈たい(袛)〉という衣類が〈太き糸などして厚々と細かに強げにしたれば〉と説明されていて,刺子に類するものといわれている。江戸時代の菅江真澄の遊覧記には,〈いろいろ綾をつけてぬった短い衣を着ていた。さしこぎのというものである(青森県)〉〈あるいは,はなだ色の布を厚くさした清らかな女が……(秋田県)〉などとあり,刺子が古くから行われていたことがわかる。青森県の津軽地方では,紺麻の衣類の背中から胸一面に,太い白木綿糸で麻布の目地を一針ずつ拾いながら,幾何学的な文様を刺したものが,刺しこぎん津軽こぎんなどと呼ばれて親しまれている。文様は身近な動植物からヒントを得たものが多い。また同県の南部菱刺しは,すべての文様を菱形に造型し,多彩な色毛糸を用いて刺されているのが特徴である。このほか,秋田,山形県に現存する刺子は,単純なぐし縫いの技法が多く,紺木綿の日常着あるいは野良着に,ちりめん刺し,枡刺し,山刺し,麻の葉刺し,さや刺し,かっこ刺しなどと呼ばれる刺子がなされている。とくに,ちりめん刺しは,縦横の間隔はもとより,刺子のぐし縫いもまた2mm弱という細かさで,でき上がりがあたかもちりめんのように見えるところからこの名称がついたといわれる。布の保温,強度を高めることはもちろん,紺木綿一色の単調さに美を与えた衣服であった。最近まで上,下半衣はもとより,前掛け,手拭,手甲,甲掛けに至るまで刺子がほどこされていた。農民の衣服以外にも,消防の刺子はんてん,あるいは柔・剣道着に刺子技法が用いられてきた。また近年,刺子を模して織った刺子織もつくられている。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「刺子」の意味・わかりやすい解説

刺子
さしこ

布地に重ね合わせて、細かく刺し縫いにした衣服、または刺子織(刺子のように外観を似せ、浮織としたもの)でつくった衣服。もと布地を部分的にかがったり、繕ったりして補修することから始まったが、やがて破損の激しい肩・胸などの部分を初めから装飾的に補修しておくようになった。東北地方の刺しこぎんがそれで、装飾的傾向が強く押し出されたものに遠山袈裟(けさ)などがある。一般的な刺し方は、布地と同色か、あるいは反対色の刺し糸で、織物組織に沿って刺すか、斜め方角、襷(たすき)方向に刺すことが多い。刺す密度が高くなると外観上はほとんど縫取綾(あや)と変わらないようになる。現在では仕事着、剣道着、消防着などに用いられている。

[角山幸洋]

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百科事典マイペディア 「刺子」の意味・わかりやすい解説

刺子【さしこ】

布地を補強するために細かく刺し縫いしたもの,またその衣服をいう。綿布を2枚以上重ねて綿糸で縫うことが多く,丈夫なので江戸時代以後主として火事装束,胴着,武道のけいこ着,作業服などにされた。刺子の縫い方が模様化されたものは刺繍(ししゅう)の趣があり,津軽の小衣(こぎん)や南部の菱(ひし)刺などが知られる。なお刺子織は二重織の一種で地組織の上に刺し縫いしたように織る。堅牢で装飾的なので,作業服,帯,袋物などにする。

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