[1] 〘他ラ五(四)〙
① 力を加えて、二つまたはいくつかの部分に分離させ、全体の完結性を失わせる。
(イ) 岩・氷・瓶・椀・皿・瓦・板・
煎餅など、
卵殻・木の実・薬玉・
風船・
電球などの外被部分などの
原形をこわす。また、竹の茎、薪、
割り箸などをさらに細い両部にする。
※
万葉(8C後)三・四一九「石戸破
(わる)手力もがも手弱き女にしあればすべの知らなく」
※大鏡(12C前)二「もちひのいと大なるをば一、ちひさきをば二をやきて〈略〉おほきなるをばなかよりわりて」
(ロ) 建物、城などをとりこわす。破壊する。
※伊達家文書‐天正一九年(1591)七月一五日・浅野長政書状「所々城々之儀は、何も御わらせ候て可然存候」
(ハ) 突き当たったり切ったりして表面に傷をつける。「額をわる」
②
事柄の全体を二つまたはいくつかの部分に分ける。
(イ) 区分する。分割する。また、区分したそれぞれに
事物を分配し分担させる。わりあてる。わりつける。わりふる。
※宇津保(970‐999頃)藤原の君「女房の曹司には、廊のめぐりにしたるをなん、わりつつたまへりける」
※青年(1910‐11)〈森鴎外〉二二「縦にペエジを二つに割って印刷して、
挿画がしてある」
(ロ) 組織などを分裂させる。また、人の間柄を裂いて不和にする。「党を割る」「二人の仲を割る」
(ハ) 集まっているものを左右に押し分ける。また、行列などの中ほどに分け入って進行をさまたげる。→
割って入る。
※
平家(13C前)九「熊谷おや子は、中をわられじと立ならんで」
(ニ) 衣服の裾などに、活動しやすいように
切れ目を入れる。
(ホ) 座った両膝の間をひらく。
※
潮風(1920‐21)〈
里見弴〉一「白足袋の草履ばきで、大きく跨を割り」
③
割り算を行なう。除する。ある数がほかのある数の何倍にあたるかを知る。数式で、記号「÷」を「わる」と読む。
※書言字考節用集(1717)八「帰除 ワル 筭法減レ筭曰レ除」
④ 事柄を分けてすじみちを立てる。
※浄瑠璃・冥途の飛脚(1711頃)中「エエ性根のすはらぬきちがひ者と、わっつくだいつしかれ共」
(ロ) すっかり打ち明ける。秘密や内情を明らかにする。
※人情本・花筐(1841)初「日頃慎み深き身も、恋には弱るならひかや、いっそ内々この事を母御に割って咄したら、他人ではなき従弟同志」
(ハ) すじみちを立ててつきとめる。捜し出す。「ほし(犯人)をわる」
⑤ ある液体に他の液体をまぜる。多く食品で、もとの液体の味を薄めたり和らげたりすることをいう。古くは、加えるものを「水を割る」のように言ったが、現在では「水で割る」が普通。
※金貨(1909)〈森鴎外〉「コニャックを一口飲む〈略〉湯沸かしの湯を割(ワ)って、又一口飲んで見る」
⑥ ある範囲の外に出る。
(イ) 数量の変動する事物で、数値がある目安以下になる。切る。底を割る。〔新時代用語辞典(1930)〕
(ロ) 相撲で足が土俵の外、フットボールで球がタッチラインの外に出る。
※相撲講話(1919)〈日本青年教育会〉常陸山、梅ケ谷時代の壮観「常陸は満身の力を籠めて、突をくれれば大砲は脆くも土俵を割って」
⑦ (「新鉢(あらばち)を割る」から) 処女を犯す。
※咄本・豆談語(1772‐81)弐分五厘「去る男、弐分五りんと仇名を付られしを、どふした訳だと、知った若者に聞けば、胡粉屋の娘を割(ワッ)たから」
⑧ (相撲で「腰をわる」の形で) 足を開き膝を曲げ、体をまっすぐにした姿勢で腰を低くする。→
腰(こし)を割る。
⑨ 手形を割り引く。「手形を割る」
⑩ (自動詞的に用いて) 潮が引く。干る。
※日葡辞書(1603‐04)「シヲガ varu(ワル)」