労働分配率(読み)ロウドウブンパイリツ

デジタル大辞泉 「労働分配率」の意味・読み・例文・類語

ろうどうぶんぱい‐りつ〔ラウドウブンパイ‐〕【労働分配率】

企業が生み出した付加価値のうち、人件費として労働者に支払われた割合。企業が生み出した付加価値は労働者・資本租税に分配されるが、このうち労働者の取り分を示す。

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精選版 日本国語大辞典 「労働分配率」の意味・読み・例文・類語

ろうどう‐ぶんぱいりつ ラウドウ‥【労働分配率】

〘名〙 一国の経済、特定産業などが作り出した所得または付加価値の中に占める賃金・俸給の割合。

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改訂新版 世界大百科事典 「労働分配率」の意味・わかりやすい解説

労働分配率 (ろうどうぶんぱいりつ)

労働分配率(たんに分配率と呼ぶこともある)とは付加価値額のうち人件費の占める割合のことで,労使間での付加価値の分配の指標として広く使われている。付加価値額は経常利益,人件費,金融費用,賃借料租税公課減価償却費の合計額とするのが通例であるが,ときには減価償却費控除後の純付加価値をとるものもある。純付加価値に対しては粗付加価値という。人件費は役員給料手当,従業員賃金給料手当,雑給,福利厚生費,退職金,退職給与引当金および賞与引当金繰入額などの合計額である。日本の主要企業における労働分配率の推移をみると,昭和30年代の初期には46%もの高い水準にあったが,その後経済成長率の上昇に伴って低下し,高度経済成長期の1960-73年度には40%前後の水準をほぼ安定して保っていた。しかし,73年秋の石油危機を境に経済成長率が大幅に低下すると,労働分配率は上昇して再び46%前後の水準にもどってしまった。そして,80年代初めには40~45%の間を上下している。この経験によれば,労働分配率は経済成長率が高く労働市場が引きしまって失業率の低下した時期に低く,逆に経済成長率が低く労働市場がゆるんで失業率の上昇した時期に高いということができる。

 石油危機後,利潤低下に苦しんだ経営者団体は,生産性基準原理と称して春闘賃上げ目安を労働分配率一定におくべきことを主張してきた。経済成長率が高いにせよ低いにせよ安定しているときには労働分配率もまた安定する傾向が認められるから,経済成長が安定しているという条件もとでは生産性基準原理も賃上げの一つの目安として有効であろう。しかし,経済成長が安定を欠く場合にはその有効な目安とはなりえないだろう。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「労働分配率」の意味・わかりやすい解説

労働分配率
ろうどうぶんぱいりつ
distributive share of labour

国民所得のうち労働に分配される比率をいう。Yを国民所得、Wを賃金総額、wを1人当りの賃金、Lを雇用労働量とすれば、この分配率αは、

で表される。αは技術進歩の分類やインフレーションの説明などによく使用される。たとえば、価格pが労働コストに一定率のマージンmを上のせして決められるとすれば、
  p=(1+m
となる。もしmが一定だとすれば、pの上昇率G(p)は、
  G(p)=G(α)=G(w)-G(y)
である。ここでyは労働生産性(Y/L)であり、G(y)は技術進歩率を表す。この式は、賃金率が労働生産性よりも上昇率が高ければ、物価が上昇し、逆の場合には物価が下がることを意味する。

[大塚勇一郎]

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知恵蔵 「労働分配率」の解説

労働分配率

企業が新たに生産した付加価値全体のうちそのための労働の提供者に分配された比率を表す。それは、人件費÷付加価値で%表示される。1950年代には労働分配率のレベルを春闘の賃上げ要求の根拠にしていたこともあった。しかし、ここでの人件費には従業員給料手当や福利厚生費の他に役員報酬も含むことから、必ずしも「労働者への報い」の程度を示すものではないし、分母の付加価値が経常利益・人件費・減価償却費などからなり、その大きさとの兼ね合いで変化するため単純に大小を議論することは難しい。ただし、労働分配率には企業経営の基本方針が反映されるといえる。すなわち、たとえばトヨタと日産を比べると、2005年度の労働分配率はトヨタが37.1%、日産が43.9%である。売上高人件費負担率についても1980年代からトヨタは低く、要するに低い労働分配率で付加価値の内部蓄積を続けて今日に至っているといえる。ちなみに10年前、1998年の労働分配率は、日産の75.8%に対してトヨタは43.4%である。これは、トヨタには景気低迷の今日でも高度成長期と変わらない従来の雇用対策を維持することが難しくないことの、大きな要因の1つと言えよう。

(小山明宏 学習院大学教授 / 2008年)

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百科事典マイペディア 「労働分配率」の意味・わかりやすい解説

労働分配率【ろうどうぶんぱいりつ】

所得の分配のうち労働者の取り分の割合。賃金分配率ともいう。企業が創出した付加価値のうち人件費の占める割合を指す場合と,国民所得に占める労働者所得の割合をいう場合がある。後者の場合,日本では就業者の30%が個人事業者および家族従業者であるため,様々な定義が可能である。労働分配率は不況期に上昇し,好況期に下落する傾向がある。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「労働分配率」の意味・わかりやすい解説

労働分配率
ろうどうぶんぱいりつ
labour's relative share

生産された付加価値のうち,労働者が賃金,俸給として受取る比率をいい,単に分配率ともいわれる。付加価値額を Y ,賃金,俸給総額を W とすれば,分配率は W/Y となり,(YW)/Y は資本分配率となる。指標としては分配国民所得に占める雇用者所得の比率や,企業,産業段階における付加価値に占める賃金,人件費の割合などが用いられる。

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人事労務用語辞典 「労働分配率」の解説

労働分配率

労働分配率とは、経済活動によって生み出された富が、家計サイド(労働者)にどれだけ配分されているかを表す指標です。算出方法にはさまざまな定義がありますが、通常は家計が受け取る『雇用者報酬』を、『国民所得』、あるいは『GDP(名目国内総生産)』で割って計算します。
(2007/3/19掲載)

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