包(庖)丁(読み)ほうちょう

改訂新版 世界大百科事典 「包(庖)丁」の意味・わかりやすい解説

包(庖)丁 (ほうちょう)

料理用の刃物。本来は《荘子》に見える古代中国の名料理人の名で,転じて料理する人をいった。日本では〈料理すること〉をもいうようになり,料理する人を包丁人,包丁者,料理に使う刀を包丁刀と呼ぶ風を生じ,さらに包丁刀を略して包丁というようになった。包丁刀を単に包丁と呼んだ例は《今昔物語集》巻二十八に見られる〈鞘(さや)なる庖丁〉あたりが古く,それ以前は小刀,短刀の意味で刀子(とうす)と呼んでいた。《延喜式》内膳司の条下には,供御用の刀子として年間77枚が計上され,その中には〈蠣(かき)〉をむくためのもの10枚,〈鰒(あわび)〉を切るためのもの2枚も含まれていた。そして,同じ《延喜式》木工(もく)寮の条下には1尺以下のさまざまな長さのものとともに,アワビ専用らしい〈鰒切〉という刀子があり,その〈鰒切〉は同じ長さの〈一尺刀子〉の約3倍の鉄を要したことが書かれていることから考えると,カキやアワビ用のものは一般の刀子とは形状の異なるものだった可能性もある。室町期に入ると出刃(でば)包丁や菜刀(ながたな)が現れ,《毛吹草》(1638)には山城摂津の包丁と菜刀,和泉出刃包丁名産として挙げられている。伊勢貞丈は〈古は魚鳥を切る刀をば庖丁刀と云,野菜を切る刀をば菜刀と云し也〉といっている。

 現在使われている包丁には次のようなものがある。出刃包丁は背が厚く,先のとがったもので,堅いものを切るのに適し,魚や鳥をおろすのに用いる。薄刃包丁は菜切包丁ともいい,刃が広く薄く,先のとがっていないもので,おもに野菜を切るのに用いる。刺身包丁は薄刃,細身のもので,先のとがったものととがっていないものとがあり,前者柳刃後者蛸引(たこひき)と呼ぶ。洋風のものには,牛刀(ぎゆうとう)とも呼ぶ肉切包丁や,野菜の皮むきなどに用いるペティナイフがあり,パンやチーズを切る専用のものもある。なお,料理用以外にも薄刃の刃物で包丁と呼ぶものがある。布地皮革,紙などを切るのに用いる裁(たち)包丁,畳屋の使う畳包丁などがそれである。
ナイフ
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内の包(庖)丁の言及

【青銅器】より

…青銅でつくられた利器,容器,道具。青銅器時代はもとより,鉄器時代以降も用いられている。ここでは,人類史上特にその著しい発達が見られた,ヨーロッパ,オリエント地域の青銅器時代から鉄器時代のもの,および中国殷・周時代のものを中心に述べる。
【ヨーロッパ,オリエント】
 東アジアの青銅器が祭祀具として発達したのにひきかえ,ヨーロッパや西アジアの青銅器は実用品が多い。銅や青銅などの初期の金属は,石にかわって斧,手斧(ちような),剣,短刀などの利器の素材として利用されたところから,銅器時代や青銅器時代を設定する根拠となった。…

※「包(庖)丁」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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