単側波帯伝送(読み)たんそくはたいでんそう(英語表記)single side band transmission

日本大百科全書(ニッポニカ) 「単側波帯伝送」の意味・わかりやすい解説

単側波帯伝送
たんそくはたいでんそう
single side band transmission

振幅変調において片側側波帯を除去して、残る一方の側波帯のみを送信する通信方式。受信側において、欠落している部分の側波帯成分を搬送波の位置から推定して再生し、通常の振幅変調波の体裁を整えて検波する。一般にSSBとよばれている伝送方式である。振幅変調波の三つの周波数成分の電力配分は、100%変調の場合でも搬送波に3分の2、両側波帯に合計3分の1の割合である。搬送波は変調によってすこしも変化を受けない部分で、一定の周波数であるから、場合によっては送信波から除去しても受信側で同じ周波数を発生させることは可能である。二つの側波帯は搬送波を中心として対称であるから、片側だけを伝送すれば受信側で再生できる。SSB波を発生させる方法は、まず平衡変調器を使用して搬送波を信号波で平衡変調する。この変調器は原理的に振幅変調の際にできる両側波帯だけが出力され、搬送波は出力に含まれない。この両側波帯だけの電波の不要な側の側波帯をフィルターで除去すれば単側波帯の電波を発生させることができる。

 この方式によれば、6分の1の電力により同様の効果をあげることができるほか、同じ電力を用いれば6倍の電力で送信するのと同じ効果があげられる。また、占有周波数帯幅が半減することによって、選択性フェージングを軽減できるほか、受信機の通過帯域幅も半減できる。そのため信号対雑音比が向上し、受信感度が改善される。

 SSB方式には、搬送波を完全に抑圧するJ3E、搬送波を若干抑圧するR3E、片方の側波帯の最大変調時と等しい電力の搬送波を送出するH3Eの3種類の電波型式がある。一番効率のよいのはJ3Eであるが、受信には周波数安定度のよい受信機が必要である。もっとも効率のよくないのは、当然H3Eであるが、受信機は特殊なものは不要である。そしてR3Eがその中間にある。

 超短波帯での周波数分割多重伝送のための信号の多重化は単側波帯技術の応用であり、印刷電信に用いられる周波数偏移方式の電波もこの技術を応用して変調される。短波による単側波帯通信は、日本の漁船のおもな通信方式として広く普及しているほか、1972年(昭和47)ごろから商船関係の遠洋船舶通話として登場し、国際電信電話株式会社(KDD。現在のKDDI)の海岸局(JBO)を経由して、船舶の乗組員と家庭とを結ぶ通信設備として称賛された。当時の海岸局の出力は10キロワットで、船舶側は1.2キロワットであったが、東はアメリカ沿岸から、西はインド洋の紅海手前までをカバーすることができた。SSB無線通信の効果をさらに向上させる技術として、リンコンペックスシステムも利用された。

 1999年にGMDSS(海上における遭難及び安全に関する世界的な制度)が導入され、海上における遭難通信にモールス無線電信を使用しないことになり、遭難通信の能力を維持するために、短波で行われていた電信業務いっさいを強制する意味がなくなった。そして、SSB無線電話だけのために短波の無線設備を船舶に搭載し、第一級無線通信士を選任する意味がなくなってしまった。このため2000年には世界的に商船におけるSSB無線電話の使用はほとんどなくなり、世界に50局存在した無線電話用海岸局も全部廃局となった。新たに登場した国際移動通信衛星システム(インマルサット)にその地位を完全に譲ったのである。SSB方式は漁業無線やアマチュア無線においては現在も活躍している。

[石島 巖]


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