即時強制(読み)ソクジキョウセイ

デジタル大辞泉 「即時強制」の意味・読み・例文・類語

そくじ‐きょうせい〔‐キヤウセイ〕【即時強制】

行政機関が国民の身体や財産に対して直接実力を行使して、行政上必要な状態を実現する作用。急迫の障害を除く必要上、やむをえない場合に限って法令で認めているもの。感染症患者の強制入院など。

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改訂新版 世界大百科事典 「即時強制」の意味・わかりやすい解説

即時強制 (そくじきょうせい)

国民にあらかじめその履行すべき義務を課することなく,行政機関がただちに国民の身体や財産に実力を加えて行政上必要な状態を実現する作用を,行政法学上,即時強制と呼ぶ。ドイツ行政法学上のsofortiger Zwangの訳。国民にあらかじめその履行すべき義務を課し,その不履行の場合に,行政機関が独自の強制手段を用いて義務内容の実現を図る作用を,行政上の強制執行と呼び,即時強制と区別するが,両者を総称して行政強制という。即時強制は,目前急迫の障害を除去する必要上,国民にあらかじめ義務を課しその履行を待ついとまのない場合(例えば,消防法29条に基づく土地,物件の使用,処分,使用制限)や,その性質上,義務を課することによっては目的を達することがむずかしい場合(精神保健福祉法29条以下に基づく精神障害者の入院措置の一部はおそらくそれにあたるであろう)に認められる。

 即時強制は,かりに相手方が受忍を拒否し抵抗しても,行政機関が物理的な実力の行使によって目的を達することができる作用であって,拒否や妨害についての罰則によって,相手方の受忍が間接的に強制されているにすぎない立入検査は,即時強制のなかに含めることはできない。

 即時強制は,人の身体や財産に対して実力を加える公権力行使であるから,法治主義のもとにおいて,法律や条例による根拠づけが必要であり,また,基本的人権を保障している憲法の趣旨に照らし,それを用いるにあたっては,目的を達成するに必要な最小限度にとどめなければならない。

 現行法上,警察官職務執行法は,警察官がその職権職務を遂行するための即時強制の手段として,保護,避難等の措置,犯罪の予防および制止,立入,および武器の使用を認め,これらの手段の要件を具体的に明示している(3~7条)。そのほか,各種の行政法規で各種の即時強制を認めているが,身体に対する即時強制としては,健康診断の強制(伝染病予防法19条1項1号,性病予防法11条,12条),強制入院(伝染病予防法7条),交通遮断隔離(同法8条,19条1項2号),酩酊者の保護(〈酒に酔って公衆に迷惑をかける行為の防止等に関する法律〉3条)などがあり,財産に対する即時強制としては,没収(未成年者飲酒禁止法2条,未成年者喫煙禁止法2条),携帯品の留置(関税法86条),船舶破壊,油の焼却(〈海洋汚染及び海上災害の防止に関する法律〉42条)などがある。

 即時強制の多くは,たちまちにして完了する事実行為であるから,それが違法な場合の救済は損害賠償請求に限られるが,人の収容,物の留置その他,その内容が継続的性質を有するものについては,その撤廃を求める不服申立てをなし,または取消訴訟を提起することができる。
警察官職務執行法
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「即時強制」の意味・わかりやすい解説

即時強制
そくじきょうせい

行政機関が直接に国民の身体または財産に実力を加えて行政上必要な状態を実現する作用をいう。行政強制の一種。目前急迫の障害を除く必要上あらかじめ義務を命ずる余裕のない場合、または義務を命ずることによっては目的を達しがたい場合になされる。たとえば警察官職務執行法の定める質問・保護・避難などの措置、犯罪の予防および制止、立入り、武器の使用などがあり、そのほか健康診断や予防接種の強制、風俗営業などの営業所などへの立入検査、食品衛生法における見本品の無償収去、火災の際の土地の使用など、即時強制を認める各種の法律の規定がある。ただし最近は、立入検査は拒否された場合拒否した者を処罰するのみで、その意に反して立ち入ることができるものではないとして、これを即時強制でなく、単なる行政調査と説明する傾向にある。

[阿部泰隆]

行政強制

行政強制とは、行政上の目的を達成するために行政機関が人の身体または財産に実力を加え、もって行政上必要な状態を実現する作用をいう。行政上の強制執行と、即時強制に分けられる。前者は、あらかじめ義務を命じ、その不履行を強制するためになされるものであり、後者は前述したとおりである。いずれも強制手段であるから、法律の根拠を必要とする。もともとドイツ系諸国では行政機関自身に強制権を認め、わが国旧憲法時代は行政強制を広く認めていたが、英米系諸国では行政機関も強制手段を用いるには司法権の介入を要するという司法的執行の原則を採用している。今日のわが国では、旧憲法時代の行政強制のうち、おもに代執行のみを認めて、直接強制や執行罰を廃止し、即時強制が認められる場合を厳重に制限するなどして、行政強制による人権侵害の防止に配慮している。

[阿部泰隆]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「即時強制」の意味・わかりやすい解説

即時強制
そくじきょうせい

行政法上の義務の賦課を前提としないで,行政機関がただちに国民の身体または財産に実力を加えて行政上必要な状態を実現する作用。義務を命じる余裕のない場合または義務を命じることによっては目的を達しがたい場合に,法律の根拠に基づいて行うことができる。基本的人権の保護のために,その目的に必要な最小限度に止められなければならない。即時強制の手段としては警察官職務執行法に定める質問,保護,武器の使用 (2,3,7条) などのほか,立入り検査 (たとえば,食品衛生法 17) などがある。

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