取付(読み)とりつける

精選版 日本国語大辞典 「取付」の意味・読み・例文・類語

とり‐つ・ける【取付】

〘他カ下一〙 とりつ・く 〘他カ下二〙
① 物を他のものに装置する。作りつける。つける。
万葉(8C後)一七・四〇一一「鷹はしも 数多(あまた)あれども 矢形尾の 吾(あ)が大黒に 白塗りの 鈴登里都気(トリツケ)て 朝猟(あさがり)に 五百(いほ)つ鳥立て」
② 憑(よ)りつかせる。のりうつらせる。
延喜式(927)祝詞(出雲板訓)「己命の和魂(にぎみたま)を八咫(やた)の鏡に取託(ツケ)て、倭の大物主櫛𤭖玉(くしみかたまの)命と名(みな)を称へて」
③ 手許におさめる。自分の方に獲得する。
大乗院寺社雑事記‐康正三年(1457)七月一三日「不下知して左様に取つけたる公事に候はば、為私可門答之由申付候つる」
④ いつもその店から買い求める。いつも注文する。
⑤ 取付⑤をする。
東京学(1909)〈石川天崖〉一四「それで仕払を受けた先方は、是れを以て直ちに其の銀行へ取付ける事も出来るし」

とり‐つ・く【取付】

[1] 〘自カ五(四)〙
① 人、物などにしがみつく。すがりつく。とりすがる。つかみつく。
※万葉(8C後)二〇・四三五八「大君の命(みこと)かしこみ出で来れば吾ぬ等里都伎(トリツキ)て言ひし子なはも」
② (「取憑」とも) 心霊や魔物などが乗りうつって祟る。つきものがする。
※栄花(1028‐92頃)楚王の夢「御物怪のとりつき奉りにければ」
③ 相手を倒そうとして組みつく。
今昔(1120頃か)二〇「同死にを、此老僧に取付て死なむと思て」
④ 手がかりを得る。なれ親しむ端緒をつかむ。頼りにしてすがる。
愚管抄(1220)六「関白摂政の子なりとも申さむにしたがふべしなど云ただの御詞の有ける。これにとりつきて、又もとより義村が思よりて」
⑤ 着手する。しはじめる。とりかかる。
言国卿記‐文明一三年(1481)四月一九日「後撰上巻書はて畢。やがて下巻にとりつく也」
[2] 〘他カ下二〙 ⇒とりつける(取付)

とり‐つけ【取付】

〘名〙
① 取りつけること。作りつけること。
※旅‐昭和五年(1930)八月号・乗心地を聴く〈三輪真吉〉「列車内取附の洗面所の水タンクは小さいですから」
② 江戸時代、貢租の割付け方法。
県令須知(1752頃か)二「取付に少し宛様子替り有。高に幾つと割付ると、反別に取米を割付ると」
③ 契約・了解などを獲得すること。
※夢の浮橋(1970)〈倉橋由美子花野「各方面との折衝や了解のとりつけなどございますから」
④ 一定の店を常に利用すること。
仮名草子仁勢物語(1639‐40頃)上「年比とりつけなる人の、酒の直(あたひ)取りに来たりければ」
預金者が預金を引き出すこと。特に、金融恐慌などで経済不安が生じたとき、預金者がいっせいに銀行に行き預金の引き出しをすること。
※銀行小言(1885)〈富田鉄之助〉下「若し甲銀行は乙に金壱万円の取付を要し、乙銀行は甲に金八千円の取付を為すべきに」

とっ‐つけ【取付】

〘名〙
① 鞍(くら)の後輪(しずわ)の鞖(しおで)につけた紐。餉付(かれいつけ)。鳥付(とりつけ)。とつけ。
太平記(14C後)二九「落れば首を掻(かき)切て、あぎとを喉(のんど)へ貫き、とっ付(つケ)に著けて馳せて行く」
刀剣の柄口(つかぐち)の金具。
※幸若・烏帽子折(寛永版)(室町末‐近世初)「刀〈略〉とっつけ、さやぐちにくりからふどうみゃうわうのたきつぼへとんでおり」
※坑夫(1908)〈夏目漱石〉「『一口に坑夫と云ふと〈略〉中々外で聞いてる様な生容易い業ぢゃないんで、まあ取(ト)っ附(ツ)けから坑夫になるなあ』と云って」

とり‐つき【取付】

〘名〙
① とりつくこと。すがりつくこと。
② 物事などのはじめ。とっつき。
※俳諧・西鶴大矢数(1681)第九「石山寺は世帯の取つき かんまいて減さぬやうに鐘の声」
歌舞伎・廓曠着紅葉裲襠(子持高尾)(1873)序幕「暑さ寒さの取附(トリツ)きには何時でも持病が起るゆゑ」
③ はじめの元手。開業の資金。
※浮世草子・西鶴織留(1694)六「わづかの取付千貫目にする程の人心」
④ 一番はじめに通る所。一番手前の所。入口。とばくち。とっつき。
※俳諧・炭俵(1694)上「すぢかひに木綿袷の龍田川〈野坡〉 御茶屋のみゆる宿の取つき〈利牛〉」
⑤ 最初の印象。とっつき。

とっ‐つき【取付】

〘名〙 (「とりつき(取付)」の変化した語)
① 時間の最初。その期間の初めの部分。最初。
※滑稽本・東海道中膝栗毛(1802‐09)二「夏のとっつきから秋へぶっかけて」
② 位置・場所などのいちばんてまえ。いちばんまえ。とっかかり。
※浄瑠璃・菅原伝授手習鑑(1746)二「マアとっ付(つキ)におる宅内め、身が前へ出あがらふ」
③ 初めて接したときの感じ。第一印象。
※ガトフ・フセグダア(1928)〈岩藤雪夫〉二「何ら生活上の原則を持たない、〈略〉私にはとっ附きがよかった」

とっ‐つ・く【取付】

〘自カ五(四)〙 (「とりつく(取付)」の変化した語)
① しがみつく。とりすがる。
※俳諧・やつこはいかい(1667)序「めうなひげむしにとっつかれたとおぼしめして」
② 身に病や霊などがつきまとう。不浄なものが身についてはなれない。
※滑稽本・浮世床(1813‐23)初「悪い病ひにとっつかれた」
③ 物事をしはじめる。とりかかる。着手する。また、人と接しはじめる。
※春泥(1928)〈久保田万太郎〉みぞれ「震災後、〈略〉外の稼業にそろそろそろ取っつかうと思案をしてゐる中で」

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

デジタル大辞泉 「取付」の意味・読み・例文・類語

とっ‐つけ【取付】

くら後輪しずわ四方手しおでにつけるひも。餉付かれいつけ
刀剣の柄口つかぐちの金具。

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

山川 日本史小辞典 改訂新版 「取付」の解説

取付
とりつけ

信用不安の発生時に預金者が預金引出しのために金融機関に殺到すること。連鎖的に波及し金融恐慌をひきおこす。日本では1927年(昭和2)3~4月のものを最大として頻発したが,銀行法の制定により中小銀行の集中・合併が進みほぼ例を絶った。第2次大戦後は,政策的に業界全体として保護していくとする護送船団方式や預金保険機構などの防止対策が確立した。

出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報

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