口取(読み)くちとり

精選版 日本国語大辞典 「口取」の意味・読み・例文・類語

くち‐とり【口取・

〘名〙
① 馬の差縄(さしなわ)を引いて前行する役目。諸差縄(もろさしなわ)は左右から両人で、左を上手(かみて)として上位の官人が担当して引くのを例とする。片差縄(かたさしなわ)は一人で轡鞚(くつわずら)を握って前行する。
※三代実録‐貞観一四年(872)正月六日「青馬及人並不装飾
② 馬を引く役の武家奉公人牛馬の轡や手綱を引く人。〔吉川氏法度(1617)〕
※浮世草子・好色二代男(1684)一「雪に深草の花塩をまぜて、是一種の口取にして、呑程に」
吾輩は猫である(1905‐06)〈夏目漱石〉二「寒月君は面白さうに口取の蒲鉾を箸で挟んで」
※歌舞伎・貞操花鳥羽恋塚(1809)五立「ハハア、金鍔(きんつば)。そんなら、口取(クチト)りだな」

くち‐と・る【口取】

〘自ラ四〙 牛馬などの口につけた縄を引く。口取り縄を持って引く。
浄瑠璃・国性爺合戦(1715)千里が竹「跡に引馬虎斑(とらふ)の駒、母を助けて孝行の、名を取、口取、国を取」

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改訂新版 世界大百科事典 「口取」の意味・わかりやすい解説

口取 (くちとり)

口取ざかな(肴),口取菓子の略。口取ざかなは饗膳の最初に座つき吸物とともに出された酒のさかなで,〈土器を三宝に,口とりは熨斗のし),昆布〉と近松の浄瑠璃《心中万年草(しんじゆうまんねんそう)》に見えるごとく,かちぐり,のしアワビコンブといった祝儀のさかなに始まったものらしい。やがて饗膳が儀礼的なものから楽しみ味わうものへと変化し,会席料理などが出現するに及んで,食味主体に趣向をこらした料理が用いられるようになった。《守貞漫稿》は,会席茶屋では最初にみそ吸物,つぎに口取ざかなが出され,その〈口取皿も三種にて,織部焼などの皿に盛り〉としている。その後は,かまぼこきんとん,伊達巻(だてまき),寄せ物などを用いるようになり,折詰にしてみやげにする風を生じた。口取菓子は,《寛天見聞記》に〈茶の口取は船橋屋織江(ふなばしやおりえ)がよし抔(など)皆おごりといふべし〉などと見え,茶席で客が座についたときに出される菓子とするのが通説になっている。
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百科事典マイペディア 「口取」の意味・わかりやすい解説

口取【くちとり】

日本料理の一種。口取肴(ざかな)の略で最初に供する料理の意。もと本膳(ほんぜん)料理において三方(さんぼう)に搗栗(かちぐり),熨斗昆布(のしこんぶ)などを載せ酒に添えて供したのに始まる。かまぼこ,卵焼,きんとんなどに季節の料理を加え3〜9の奇数を皿に盛る。以前は広蓋(ひろぶた)や硯(すずり)蓋に盛られた。その席では食べず持ち帰る風がある。

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世界大百科事典(旧版)内の口取の言及

【すずり蓋(硯蓋)】より

…《料理早指南》(1801)や《四季献立集》(1836)は,汁,なます以下饗膳(きようぜん)の献立例を掲げる中に〈硯蓋之部〉を設けて,それに盛るべき料理を紹介しているが,その大半はかなり技巧的なものである。現在ならば口取の類のものが多いのだが,《四季献立集》には別に〈口取之部〉があり,すずり蓋の料理と口取のそれとの区別があったかどうかははっきりしない。【鈴木 晋一】。…

※「口取」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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