口頭伝承(読み)こうとうでんしょう(英語表記)oral tradition

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「口頭伝承」の意味・わかりやすい解説

口頭伝承
こうとうでんしょう
oral tradition

言葉によって語り継がれる様式。状況に応じたパフォーマンスなかで語られ,享受されるため,本来テキストは存在せず,繰返し継承されるメッセージとして成立する。人類学では,無文字社会ばかりでなく,文字をもつ社会においても,集合的な心性の表現媒体として研究される。口頭伝承の研究は次の3つの方向に大別される。 (1) 歴史表象としての研究。歴史の再構成のための資料としてとらえ,その同時代性および伝承過程での可変性を問題とする。また歴史伝承そのものを,対象社会の成員による価値観を含んだものとして分析する。 (2) 構成要素や形態の研究。神話,伝説研究の領域主流をなし,レビ=ストロースの神話の構造分析,V.プロップの物語の形態分析などが知られる。 (3) 語りのパフォーマンスとしての研究。実際の語りの場の微視的な機能や意味の分析も含まれる。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内の口頭伝承の言及

【口承文芸】より

…では文字のない第1期に属する伝承はそっくり残るのかといえば,けっしてそうではない。それが残るには文字によって記しとどめられねばならなかったからで,とくに漢字という表意文字をとり入れるほかなかった古代日本では,形式が比較的に短小で一字一音で表記することのできる歌以外は,古い口頭伝承が固有な姿をとどめる可能性はひどく制約されていた。たとえば《平家物語》や説経節を口承文芸と呼ぶのと同じ意味あいで《古事記》をそう呼びうるかといえば疑問である。…

【歴史】より

金文も諸部族の歴史にかかわる記事を含む。 周は殷の叙述形式を継承するが,その創業期を過ぎると,史官の手で口頭伝承を記録し,あるいはそれらを集成することが始まったようである。清代の章学誠は,儒家のいわゆる六経はもともと古代の史官の記録から起こったものだという〈六経皆史〉説を唱え,今日でも高く評価されている。…

※「口頭伝承」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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