可翁(読み)かおう

改訂新版 世界大百科事典 「可翁」の意味・わかりやすい解説

可翁 (かおう)

14世紀前半に活躍した画家。日本の水墨画先駆者として重要な位置を占めるが,伝記は不明である。代表的な遺品に,《寒山図》《蜆子(けんす)和尚図》(以上東京国立博物館),《竹雀図》(大和文華館),《梅雀図》(梅沢記念館)があり,いずれにも〈可翁〉の朱文重郭方印,その下に〈仁賀〉と読める小さな朱文方印が捺されているが,落款年紀,著賛はない。後世の模本,縮図ではあるが,来朝僧一山一寧,同じく清拙正澄(せいせつしようちよう)著賛の可翁画があるので,およその活躍年代が想定できる。狩野永納撰《本朝画史》では,可翁は禅僧可翁宗然(そうねん)であり,良全(詮)と号し落款し,また可翁画に一山一寧が賛したものが多いとある。しかし,良全りようぜん)は14世紀中葉の画僧で,可翁とは別人である。現在,可翁について二つの説がある。一つは〈仁賀〉の名が勝賀,俊賀,長賀,栄賀など絵仏師宅磨派の作家に通ずるとし,絵仏師で水墨画に熟達した人,〈可翁仁賀〉とする説。もう一つは可翁画には深い自然観照に基づく写実性と禅的な精神性が高度な水墨技法で表されていることから,筑前出身南浦紹明(なんぽしようみよう)の弟子で,文保年間(1317-19)に入元し,彼地で修行10年に及んだ高僧で,建仁寺に住し,南禅寺第18世になった可翁宗然(1345没)ではないかという説である。なお,生硬さを見せる絹本墨画の《白衣観音図》と《出山釈迦図》(鹿王院)は可翁の習作期の作品かと思われる。
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百科事典マイペディア 「可翁」の意味・わかりやすい解説

可翁【かおう】

鎌倉末期〜南北朝の画家。生没年不詳。伝歴も不明で,前身宅磨派の絵仏師とか,建仁寺の僧可翁宗然(そうねん)〔?-1345〕と同一人とする説などがある。黙庵らとともに日本で本格的な水墨画を描いた先駆者の一人。牧谿梁楷ら南宋の水墨画を学んだらしく,初期の水墨画としては闊達(かったつ)な筆法をもつ。代表作《寒山図》《蜆子和尚図》など。
→関連項目寒山拾得禅宗美術

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「可翁」の意味・わかりやすい解説

可翁
かおう

南北朝時代の水墨道釈画家。「可翁」印のある一連の水墨画から可翁という画人が想定されてきたが伝記は不明。『竹雀図』 (大和文華館) ,『蜆子 (けんす) 和尚図』 (東京国立博物館) ,国宝『寒山図』などは簡潔な構図のなかによく一瞬の気迫をとらえた傑作。古来これを禅機の発露とみて建仁寺,南禅寺などに歴住した高僧可翁宗然の余技にあてるが確証はない。また中国,元の牧谿 (もっけい) 風の絵をよくした点で可翁宗然は注目に値するが,一方専門画家と考えられる良全と同一人とする説もある。近代になっては「可翁」印とともに押された小印を「仁賀」と読み,可翁仁賀という宅磨派の画人を想定する説も出て,いずれとも決しがたい。

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