否や(読み)いなや

精選版 日本国語大辞典 「否や」の意味・読み・例文・類語

いな‐や【否や】

[1] 〘感動〙 (「や」は詠嘆)
① 相手のことば、動作などを拒否する気持を表わすときに発することば。いやいや。いいや。いやもう。
古今(905‐914)雑体・一〇三九「思へどもおもはずとのみいふなればいなやおもはじ思ふかひなし〈よみ人しらず〉」
② 驚いたり嘆いたりする気持を強く表わすときに発することば。いや。いやこれは。これはまた。これはこれは。
落窪(10C後)一「いなや、この落窪の君のあなたにのたまふことに従はず」
[2] 〘副〙 (「や」は疑問)
① (「…やいなや」の形で用いる。漢文訓読語法として発生したもの) 問いかける気持を表わす。どうであろうか。そうであるかないか。そうするかしないか。
書紀(720)欽明一三年一〇月(北野本訓)「西蕃(にしのとなり)の献れる仏の相貌端厳(きらきら)し。全ら未だ曾て有らず。礼ふ可きや以不(イナヤ)
② (「…といなや」「…やいなや」の形で) 同時に、または引きつづいて、ことが行なわれるさまを表わす。…と同時に。…とすぐに。ただちに。
※虎寛本狂言・惣八(室町末‐近世初)「来るやいなや〈略〉何やらむつかしい料理を云付られたが」
[3] 〘名〙 ((一)の用法が転じたもの)
承諾しないこと。承知しないこと。辞退異議
滑稽本・八笑人(1820‐49)四「外お出入の衆が残らずお受をいたしましたに、わたくしばかり、いなやを申しましては」
② 承諾か不承諾かという確かな返答諾否
※和英語林集成(初版)(1867)「Inaya(イナヤ) ヲ キク」
[語誌](1)(二)①は、平安時代初期には「…かどうか」と、相手に問いかける表現として用いられ、中世以降も、定型化した文語的表現として生き続けた。「ロドリゲス日本大文典」(1604‐08)には、「書き言葉における荘重な質問」に「甚だ多く用いられる」とある。
(2)口頭語で「や」が疑問を表わさなくなったため、江戸時代中期ごろの口語では疑問の意は消失し、(二)②の意味に転じて用いられるようになった。

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

デジタル大辞泉 「否や」の意味・読み・例文・類語

いな‐や【否や】

[名]名詞「いな」に係助詞「や」の付いた「健在なりや否や」などの「否や」の一語化》
不承知。異議。「この段階になれば否やはない」
承知か不承知かということ。諾否。「否や返事を聞く」
[副]「…やいなや」「…がいなや」などの形で用いる。
…とすぐに。…と同時に。「かばんを置くや否や、外に飛び出した」
問いかけの意を表す。…かどうか。どうだろうか。「頼みの雨は降るや否や
[感]《「や」は間投助詞
拒否の気持ちを表すのに用いる語。いやいや。いやもう。
「思へども思はずとのみ言ふなれば―思はじ思ふかひなし」〈古今・雑体〉
驚き、嘆きの気持ちを表すのに用いる語。いやこれは。これはこれは。
「―、ここに男のけはひこそすれ」〈狭衣・三〉
[類語]1不承知反対一蹴拒否拒絶難色蹴る断る・不賛成・不同意異議異論異存批判抵抗辞退固辞遠慮難色造反対立辞する否む難色を示すを唱えるを立てる首を振る首を横に振るかぶりを振る如何なものか1すぐさまじきにすぐ直ちに早速じきすぐに直接もう間もなく程なく今にそのうちやがていつかいずれ追い追い追って追っ付け早晩きた日ならずして遅かれ早かれ近日近近ちかぢか近近きんきん後日他日不日又の日近く遠からず即刻即座即時即席即製同時言下直後直ちにとっさに俄か折り返しすかさず立ちどころにたちまち途端右から左瞬く間あっという間時を移さず間髪をれずリアルタイム

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