和泉式部集(読み)いずみしきぶしゅう

改訂新版 世界大百科事典 「和泉式部集」の意味・わかりやすい解説

和泉式部集 (いずみしきぶしゅう)

歌集和泉式部の家集。正集,続集,宸翰しんかん)本,松井本,雑種本の5類があり,その総称。すべて他撰である。このうち,正集は902首(本文研究の成果による),続集は647首を収録し,ともに数個の歌群から成る。正集・続集の間に70首の重複歌が存するほか,歌群相互間にも若干の重出歌がある。重複・重出する歌のうち,本文に異同のあるものが,それぞれ総数の8割にものぼる。正集・続集の名称は流布の先後による仮称で,成立時期はむしろ続集が早く,《後拾遺集》奏覧以前にまず続集が成り,はるかに遅れて《千載集》撰進以後に正集が成ったものと思われる。正集に含まれる65首の日記歌,続集に入る122首の〈帥宮そちのみや)挽歌群〉は,《和泉式部日記》の成立に重要なかかわりをもつものとして注目される。宸翰本,松井本はともに勅撰集からの抜粋主体とした本,雑種本はそれぞれ成立・形態を異にする数本の総称である。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「和泉式部集」の意味・わかりやすい解説

和泉式部集
いずみしきぶしゅう

和泉式部の家集。『和泉式部正集』、『和泉式部続集』、宸翰(しんかん)本『和泉式部集』、松井本『和泉式部集』、雑種本『和泉式部集』の5種が知られている。902首からなる正集、647首の続集は、ともに雑纂(ざっさん)的な内容を有し、重出歌分布の状況などから、両集はもと一体であったものと想像される。その内部に、百首歌、題詠歌群、帥宮挽歌(そちのみやばんか)群、日次(ひなみ)詠歌群など、式部自撰(じせん)の痕跡(こんせき)をとどめる歌群を含みもってはいるが、全体としては他撰(たせん)の総収歌集とみられる。

 宸翰本、松井本はともに部立(ぶだて)組織を有する勅撰集などからの抜粋本であり、雑種本は、以上の4種いずれにも属さない、後人の撰になる伝本の総称である。質量ともに優れたこの集には、王朝期歌人の代表的私家集としての高い評価が与えられている。

[平田喜信]

『清水文雄校訂『和泉式部歌集・和泉式部続集』(岩波文庫)』『佐伯梅友・村上治・小松登美著『和泉式部集全釈』(1959・東宝書房)』

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