唐織(読み)からおり

精選版 日本国語大辞典 「唐織」の意味・読み・例文・類語

から‐おり【唐織】

〘名〙
公家装束に用いる浮織物(うきおりもの)に対する通称唐織物。唐綾織。
※海人藻芥(1420)「仙院御服は練貫をも時々令調進、綾、唐織等、努々不調進
中国渡来の織物。また、それを真似て織った織物。金襴、緞子(どんす)繻珍(しゅちん)、繻子(しゅす)などの類をいう。唐織物。からの地。
※虎明本狂言・鍋八撥(室町末‐近世初)「後にはきんらんどんすどんきん、からをりにしきなどを、しゃうばいいたさうと存る」
能装束の一種。浮織物で仕立てた打掛小袖。東北(とうぼく)夕顔采女(うねめ)野宮など、多くは女装束の表衣にし、まれには公達役にも用いる。その紅色のまじっているのを色有(いろあり)唐織といい、若い女役に用い、紅色のないのを色無(いろなし)唐織といって、年寄り用にする。唐織物。

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デジタル大辞泉 「唐織」の意味・読み・例文・類語

から‐おり【唐織(り)】

中国から渡来した織物の総称。また、それに似せて日本で織った金襴きんらん緞子どんす繻珍シュチンなど。唐織物。
公家の装束に用いる浮き織物の通称。唐織物。
能装束の一。2で仕立てた小袖。多く女装の上衣に用いる。

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改訂新版 世界大百科事典 「唐織」の意味・わかりやすい解説

唐織 (からおり)

絹織物の名称,また能装束の一種。〈唐織物〉の語は,室町時代に中国の明から輸入された貴重な織物を指して用いられ,金襴,緞子(どんす)などの美麗な織物が想起される。いわゆる〈唐織〉もそれに含められていたと思われるが,当時〈唐織〉をどのように呼んでいたかは不明である。織物組織的には,名物裂の中の乱絹(らんけん)錦がこれに類似する。〈唐織〉は通常,帯や能装束に用いられるもので,主として生糸を素材に三枚綾地とし,十数色に及ぶ多彩な絵緯(えぬき)によって文様をあらわし,さらに金銀糸が加わる。絵緯は通常半越(はんこし)とし,平糸を浮かして,刺繡(ししゆう)のように文様にしたがって縫取織とする。無撚りの緯糸が大胆に浮き,絹糸特有の光沢がある。とくに長い緯糸の浮きは綴搦み(とじがらみ)と呼ぶ操作で押さえることがある。すでに上杉謙信の胴服の襟(えり)にすぐれた例が見いだされ,天川神社などに所蔵される能装束中に刺繡で模したものがあり,当時の尊重ぶりがうかがわれる。

 能装束としての唐織は,小袖形式で主として女役の表着(うわぎ)に用いる。ほかに,平家の公達や童子役の着付ともする。〈唐織〉の組織を用いた豪華なもので,紅色を織り込んだ〈紅入(いろいり)〉は若い女役に,また紅気を含まない〈無紅(いろなし)〉は中・老年の役に用いる。片身替り,段替り,腰明けなど中世以来の伝統的な文様構成をとりあげ,金銀糸によって青海波(せいがいは)や檜垣,七宝繫ぎ(つなぎ)などを地文様とし,上文様に多色の絵緯を浮かして文様をあらわす。文様は主として四季の草花で,平安朝以来の和様を示し,男役の厚板の中国的文様と対照をなす。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「唐織」の意味・わかりやすい解説

唐織
からおり

唐織は、もと中国から渡来した織物の総称であったが、地紋のうえに絵緯(えぬき)で上文(うわもん)を織り出した有職(ゆうそく)織物。つまり二倍(ふたえ)織物に浮文(うきもん)のある織物をさす一般的な呼称となり、そこから特定の組織をもつ織物をさすようになり、さらにこの組織によって織ったものが能装束に使用されたことから装束名ともなった。織物としては、経(たて)糸に生糸を用い、これに地緯糸(じぬきいと)を経三枚綾(あや)に織り込み、この杼口(ひぐち)に種々の絵緯糸を色数だけの杼(ひ)を用いて文様を表す豪華な、あたかも刺しゅうのような外観を呈したもので、また縫取織(ぬいとりおり)ともいわれる。能装束の唐織は、主として女役が表着(うわぎ)に用いる装束の名称となるが、小袖(こそで)形の詰袖の装束で唐織が使用されることから装束名に転化し、唐織でなくても名称が拡大して使用されることになった。

[角山幸洋]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「唐織」の意味・わかりやすい解説

唐織
からおり

色糸に金銀を交えて絵文様を織り出した豪華な織物。色糸を浮かして織るので刺繍のような効果がある。中国からの輸入品であったが,室町時代末期頃から堺や西陣でも織られるようになった。また,能装束で唐織と呼ぶ場合は,女役や若い公達 (きんだち) の着る表衣をさす。

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