喝食(読み)かっしき

精選版 日本国語大辞典 「喝食」の意味・読み・例文・類語

かっ‐しき【喝食】

〘名〙
① (「喝」は唱えること) 禅宗で、大衆(だいしゅ)食事を知らせ、食事について湯、飯などの名を唱えること。また、その役をつとめる僧。のちには、もっぱら有髪の小童がつとめ、稚児(ちご)といった。喝食行者(かっしきあんじゃ)
※永平道元禅師清規(13C中)赴粥飯法「施食訖。行者喝食入。喝食行者先入前門。向聖僧問訊訖。到住持人前。〈略〉面向聖僧問訊訖。又手而立喝食」
咄本・百物語(1659)下「五山の喝食(カッシキ)連句に心を入て他事なし。さる人いふやうは、ちごかっしきなどは、又やはらかなる道をも御がくもんありたるよし」
② 能面の一つ。①に似せて作ってある。額に銀杏(いちょう)の葉形の前髪をかいた半僧半俗の少年の面。「東岸居士(とうがんこじ)」「自然居士(じねんこじ)」「花月(かげつ)」などに用いる。前髪の大きさにより大喝食、中喝食、小喝食などの種類がある。
③ 昔、主に武家元服までの童子が用いた髪型の一種。頭の頂の上で髪を平元結(ひらもとゆい)で結い、さげ髪にして肩のあたりで切りそろえる。
歌舞伎の鬘(かつら)の一つ。もとどりを結んでうしろにたらした髪型。「船弁慶」の静、「熊谷陣屋」の藤の方など時代狂言で高位の女性の役に用いる。
※歌舞伎・茨木(1883)「花道より真柴白のかっしき鉢巻、唐織の壺折、檜木笠を斜に背負ひ、杖を突き出来り」
女房詞書状宛名の書き方で、貴人に直接あてないで、そば人にあてる場合に使用される。
※御湯殿上日記‐文明一四年(1482)七月一〇日「めてたき御さか月宮の御かた、おか殿御かつしき御所、ふしみとの〈略〉一とにまいる」
[語誌](①について) 「庭訓往来抄」では「故に今に至るまで鉢を行之時、喝食、唱へ物を為る也」と注する。また、「雪江和尚語録」によれば、後世は有髪の童児として固定していたようである。

か‐しき【喝食】

〘名〙 (「かじき」とも) =かっしき(喝食)
※咄本・昨日は今日の物語(1614‐24頃)下「ある人、うつくしきかしきにほれて、歌を読おくる」
[補注]「寛永十年版犬子集」には「カジキ」と訓が付けられている。

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デジタル大辞泉 「喝食」の意味・読み・例文・類語

かっ‐しき【喝食】

《「喝」は唱える意》
禅寺で、諸僧に食事を知らせ、食事の種類や進め方を告げること。また、その役目の名や、その役目をした有髪の少年。のちには稚児の意となった。喝食行者あんじゃ。かつじき。かしき。
まろが父は七歳にして東福寺の―となり」〈戴恩記
喝食姿かっしきすがた」の略。
能面の一。額にイチョウの葉形の前髪がかかれ、両ほおにえくぼがある半僧半俗の少年の面。
仮髪かはつの一。髪先を内側へ丸めて束ね、後ろへ垂らしたもの。喝食面を使う役などに用いる。喝食かつら
歌舞伎女形かつらの一。もとどりを結んで、後ろへ長く垂らしたもの。時代物で、高位の女性の役に用いる。

か‐しき【食】

かっしき(喝食)

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改訂新版 世界大百科事典 「喝食」の意味・わかりやすい解説

喝食 (かつしき)

〈かっしき〉〈かつじき〉〈かしき〉ともいう。禅院での朝昼食事(斎粥(さいしゆく)という)時において,行者(あんじや)が衆僧に浄粥(じようしゆく)・香飯香汁(きようはんきようじゆ)・香菜(きようさい)・香湯・浄水などと食物の種類や,再進(さいしん)・出生(すいさん)・収生(しゆうさん)・折水(せつすい)など食事の進め方を唱えること。またその役名を喝食行者と称し,喝食と略称される。喝食は言語明確にすることが大事であるとされた。日本での喝食の初めについては,弁円の法嗣双峰宗源あるいは無外爾然など数説ある。喝食は,はじめ年齢を問わなかったが,のち髪を垂らした童児となった。一説には,天竜寺開山のとき,剃髪得度するにはまだ至らない寺に入った子どもを喝食となしたという。また,稚児の別称となり,《太平記》に足利尊氏嫡男直冬は〈始メハ武蔵国東勝寺ノ喝食〉とある。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「喝食」の意味・わかりやすい解説

喝食
かっしき

「かつじき」ともいう。禅寺で規則にのっとり食事する際、食事の種別や進行を唱えて衆僧に知らせること、またその役名。喝食行者(かっしきあんじゃ)ともいう。『勅修百丈清規(ちょくしゅうひゃくじょうしんぎ)』や『永平清規(えいへいしんぎ)』に記載があるが、後の日本の禅林では、7、8歳から12、13歳の小童が前髪を垂らし袴(はかま)を着けて勤めるのが一般の風習となった。室町時代には稚児(ちご)の別名となり、本来の職責と異なって、公家(くげ)や禅僧の若道(にゃくどう)の相手役となった。

[石川力山]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「喝食」の意味・わかりやすい解説

喝食
かっしき

禅宗用語。「かつじき」「かしき」ともいう。喝とは「称える」の意。禅林で食事時 (朝昼) に修行僧へ食事などを知らせることをいう。またそれにたずさわった稚児の別称。

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世界大百科事典(旧版)内の喝食の言及

【喝食】より

…禅院での朝昼食事(斎粥(さいしゆく)という)時において,行者(あんじや)が衆僧に浄粥(じようしゆく)・香飯香汁(きようはんきようじゆ)・香菜(きようさい)・香湯・浄水などと食物の種類や,再進(さいしん)・出生(すいさん)・収生(しゆうさん)・折水(せつすい)など食事の進め方を唱えること。またその役名を喝食行者と称し,喝食と略称される。喝食は言語明確にすることが大事であるとされた。…

【男色】より

…しかし,室町時代までは文献例が少なく,わずかに女犯を禁じられた僧の男色が知られているにすぎない。室町時代以後には僧院における稚児(ちご),喝食(かつしき)などが武士の間にも愛され,後には少年武士が男色の相手に選ばれた。とくに戦国時代には,尚武の気風からことさらに女性をさげすみ,男色を賛美する傾向が強まった。…

【能面】より

…平太(へいた)と中将は特に武将の霊に用い,頼政や景清,俊寛など特定の人物への専用面も現れた。喝食(かつしき),童子など美貌若年の面のなかにも,蟬丸や弱法師(よろぼし),猩々(しようじよう)といった特定面ができてくる。(4)は最も能面らしい表現のものといわれ,若い女面として小面(こおもて),増(ぞう),孫次郎,若女の4タイプがあり,それぞれ現在は流派によって使用を異にしている。…

※「喝食」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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