国際捕鯨取締条約(読み)コクサイホゲイトリシマリジョウヤク(英語表記)International Convention for the Regulation of Whaling

デジタル大辞泉 「国際捕鯨取締条約」の意味・読み・例文・類語

こくさい‐ほげいとりしまりじょうやく〔‐ホゲイとりしまりデウヤク〕【国際捕鯨取締条約】

クジラ資源の保護を図り、捕鯨業の適正化のために国際的な取り締まり制度を設ける条約。1946年ワシントンで調印、1948年発効。国際捕鯨委員会の設置、取り締まりに関する事項の決定を主な内容とする。日本は1951年(昭和26)加入、2019年(令和元)脱退。国際捕鯨条約ICRW(International Convention for the Regulation of Whaling)。→国際捕鯨委員会
[補説]対象となる大型鯨類13種
シロナガスクジラナガスクジラホッキョククジラセミクジライワシクジラマッコウクジラザトウクジラコククジラニタリクジラミンククジラ(クロミンククジラを含む)、キタトックリクジラミナミトックリクジラコセミクジラ

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改訂新版 世界大百科事典 「国際捕鯨取締条約」の意味・わかりやすい解説

国際捕鯨取締条約 (こくさいほげいとりしまりじょうやく)
International Convention for the Regulation of Whaling

クジラ資源の合理的利用を目的とする最初の国際捕鯨取締条約は1931年ジュネーブで署名され,36年に効力を発生した。この条約は翌37年発展的に解消し,同年新しい国際捕鯨取締協定ロンドンで締結された。日本は両条約のいずれにも加盟しなかった。第2次大戦後,イギリスノルウェーオランダなどが大規模な母船式捕鯨を再開,資源の乱獲が憂慮されたため,46年アメリカの発意によりワシントンで15ヵ国代表が会合し,同年12月,現在の国際捕鯨取締条約が生まれた。日本は占領下の49年に南氷洋捕鯨を再開,対日講和条約発効後の51年に本条約に加盟した。条約加盟国は70年代後半まで20ヵ国に満たなかったが,79年以降アメリカ,イギリスなどの民間反捕鯨団体の強い働きかけにより,スイスセントビンセントセーシェルセントルシアオマーンジャマイカなど商業捕鯨の禁止を標榜(ひようぼう)する国がつぎつぎと加盟し,2005年5月現在の加盟国総数は66ヵ国に達した。反捕鯨の立場をとるアメリカ,デンマークなどの国でも一部に捕鯨が行われているが,これらの国はその捕鯨を商業目的のためではないとして,捕鯨の継続を主張している。

条約は前文,本文およびこれと一体をなす付表から成る。前文は条約制定の経緯・目的を記載し,その目的をクジラ資源の乱獲を防止し,かつその維持増大をはかることにより捕鯨業の秩序ある発展を期するとしている。本文は全文11条で,適用対象,批准・加入,付表の修正手続等のほか,条約実施機関としての国際捕鯨委員会の組織・任務を定めている。付表は捕鯨に対する具体的な規制措置を列記し,とくにクジラ資源管理の具体的な規準,すなわち当該資源が最適な資源水準または最大持続的生産を与える資源水準の近傍にあるか,これを上回る水準にあるものに限り捕鯨が許されることなどが記載されている。

International Whaling Commission(IWC)の訳語。IWCは,各締約国政府を代表する委員により構成され,事務局をイギリスのケンブリッジに置く。委員会の最も重要な権限は付表内容を随時修正する権限で,修正には投票する委員の3/4の多数を必要とする。ただし,この決定につき一定期間内に異議申立てを行った国には拘束力は及ばない。IWCは1982年7月,イギリスのブライトンで開かれた年次総会で,商業捕鯨の実質的な全面禁止を決定した。南氷洋で行う遠洋捕鯨は85年10月1日以降,沿岸捕鯨は86年1月1日以降,全面禁止するという内容である。異議申立ては日本のほかソ連,ノルウェー,ペルーの計4ヵ国からなされた。委員会の下部組織の科学小委員会は,各クジラ資源について診断を行うほか,捕獲の可否,捕獲頭数の上限等必要な保存措置などを委員会に勧告する任務をもつ。1972年国連人間環境会議が10年間の商業捕鯨全面禁止を決議した際には,同小委員会は全会一致でこれに科学的根拠なしと断じている。また現在でも多くのクジラ資源につき全会一致で捕獲頭数の勧告を行っているが,同小委員会に出席する各国の科学者の資格・人数には制限がなく,また各科学者がそれぞれに議決権を行使できることとなっているので,近年その資格能力に疑問のある者も多数出席するようになり,審議に政治的な色彩が加わるに至った。

反捕鯨国の一部は,現行条約の規定がクジラ資源を利用すべきでないとする自国の立場と基本的に矛盾するとして,条約の改正を推進してきたが,近年に至って反捕鯨国が加盟国の圧倒的多数を占めるに至ったため,改正問題には消極的な立場をとっている。他方,捕鯨国は,クジラ資源の合理的利用を認めず,また当該クジラ資源につき,沿岸国の立場にもない国々が多数を頼んで委員会の決定を左右していることに不満をもち,また現行条約の規定は,距岸200カイリ内に分布するすべての生物資源について沿岸国がもつ排他的管轄権を考慮に入れていないとの立場から条約改正を強く求めている。しかし1990年までに資源の包括的評価を行うとした捕鯨モラトリアム(一時停止)の見直し作業実施の決定も先延しにしているばかりか,94年のIWC総会では,反捕鯨国は〈南氷洋サンクチュアリ〉(聖域化)の提案を強行可決した。
捕鯨
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「国際捕鯨取締条約」の意味・わかりやすい解説

国際捕鯨取締条約
こくさいほげいとりしまりじょうやく
International Convention for the Regulation of Whaling; ICRW

クジラ類資源を適切に保存し,捕鯨産業の秩序ある発展を目指す国際条約。1946年締結,1948年発効。1937年鯨油の生産調整を主目的とする国際捕鯨取締協定 International Agreement for the Regulation of Whalingがイギリスのロンドンで締結されたが,第2次世界大戦後も資源が回復しなかったことを背景に,1946年アメリカ合衆国のワシントンD.C.において 15ヵ国が新たに ICRWに署名した。条約は 11の条文と禁漁期・水域,捕獲枠など具体的な規則を定めた付表,およびクジラ類名称表からなる。条文とクジラ類名称表は加盟国による条約改定会議で決議されないかぎり改正されない。条文にはクジラ類や捕鯨に関する科学的調査の奨励,国際捕鯨委員会 IWCの設置と運営および付表の修正などの権限,締約国の義務および科学的研究のための捕鯨(→調査捕鯨)や IWC決定に対する異議申し立ての権利などが盛り込まれている。条約適用水域は捕鯨が行なわれるすべての水域で,管理対象はシロナガスクジラナガスクジラマッコウクジラザトウクジラ,ミンククジラ(コイワシクジラ)など 13種の大型クジラ類である。条約は寄託国であるアメリカに申請すれば,捕鯨国,反捕鯨国を問わず加盟できる。日本は 1951年に条約を締結,2019年に脱退した。2019年7月現在の締約国は 88。

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百科事典マイペディア 「国際捕鯨取締条約」の意味・わかりやすい解説

国際捕鯨取締条約【こくさいほげいとりしまりじょうやく】

鯨資源保護の国際的規制を内容とする条約。1931年調印,1936年発効の条約が最初。1946年新条約が締結され,日本は1951年に加盟。加盟国は40(1998)。この条約に基づいて設置された国際捕鯨委員会(IWC)は,1986年から母船式捕鯨と商業捕鯨を禁止し,日本は小型・調査捕鯨のみに規制された。現在,日本,ノルウェーなど捕鯨国は多数の捕鯨反対国と対立中。→捕鯨
→関連項目国際捕鯨委員会

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世界大百科事典(旧版)内の国際捕鯨取締条約の言及

【捕鯨】より

…しかし,油脂の世界的必要性から,捕鯨各国は捕鯨船の建造,修理,改装などを優先し,45年には南極海へ,ノルウェーから6,イギリスから3,計9船団が出漁した。 第2次大戦後,鯨類の資源管理を国際的に行おうとする気運が盛りあがり,46年に主要捕鯨15ヵ国で国際捕鯨取締条約が結ばれ,48年に効力を発生した。この条約のもとに国際捕鯨委員会International Whaling Commission(略称IWC)が設置され,鯨類資源の国際的管理を実施することになった。…

※「国際捕鯨取締条約」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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