土佐紙(読み)とさがみ

精選版 日本国語大辞典 「土佐紙」の意味・読み・例文・類語

とさ‐がみ【土佐紙】

〘名〙 土佐国高知県)から産する和紙
言継卿記‐天文一四年(1546)一一月二七日「従一条殿御約束之厚土佐紙一帖、針三本被送下了」

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改訂新版 世界大百科事典 「土佐紙」の意味・わかりやすい解説

土佐紙 (とさがみ)

高知県の各地ですかれている和紙の総称。紙祖は紀貫之であるとの伝記もあるが,《延喜式》に土佐が主要な産紙国の一つにあげられていることからも,それ以前から製紙が行われていたと考えられる。江戸時代初期にすでに土佐七色紙は全国的に知られていた。《紙譜》(1777)が刊行されるころには,越前美濃と並んで三大産地の一つになっていた。土佐藩は紙専売制をとり,はじめは藩が紙をすべて独占する厳しいものであったが,紙すき農民の反抗によってしだいに後退して,一部の自由販売を認めるようになった。大蔵永常は《広益国産考》で,大坂の紙問屋に集まる紙の4割は土佐紙で,その利益ははかりがたいと記している。なお,現在の伊野町に属する成山に御用紙すきがいて高級紙をすいていた。明治時代に,御用紙すきの出身といわれる吉井源太らは,6枚すきなどの簀桁(すげた)の大型化,大きな紙の乾燥に適した馬毛はけなどの用具の改革や,ガンピ(雁皮),ミツマタ(三椏),コウゾ(楮)による薄紙を中心にした工業用紙をくふうして,高価な輸出紙の販路を開拓した。薄い雁皮紙は謄写版原紙としてそのまま生かされた。また三椏紙に応用されて図引紙,さらに楮紙に応用されてタイプライター原紙用紙などに用いる典具帖(てんぐじよう)を生んだ。土佐紙の特色の一つは県内に産地が分散することで,各種の工業用紙をすいた伊野町(現,いの町),障子紙や美術紙の土佐市高岡町,須崎半紙の高岡郡葉山村(現,津野町),清帳紙せいちようし)の吾川郡吾川村(現,仁淀川町),狩山障子紙の吾川郡池川町(現,仁淀川町),土佐宇陀紙の長岡郡大豊町,そのほか各種の楮紙をすく香美郡物部村(現,香美市),南国市久礼田などの産地がある。楮紙のほかに雁皮,三椏,麻,複合原料などの数多くの種類の紙がすかれている。製法上の特色は石灰液に漬けて,それを蒸すという石灰煮熟が行われていることで,そのため独自の温雅な紙肌や地合を生む。また高知は日本最大のコウゾやミツマタの産地で,全国のコウゾの生産(黒皮換算で約500t)の6割程度を産する。量が多いばかりでなく,良質のコウゾが多く,その繊維は細くて長く,光沢があってよく分散する。さらに高知には簀編みや桁づくり,金具づくり,刷毛づくりなど技術者が多い。とくに最も基礎となる竹ひごづくりや編糸づくりが高知から主要産地の簀編み職人のもとに送られている。以上のように,土佐紙はすぐれた伝統をもち,多くの製紙家がいるとともに,和紙の原料づくり,道具づくりと,3要素がそろっていることが最大の特色である。1976年に土佐和紙は,伝統的工芸品に指定された。また土佐典具帖紙と清帳紙は記録作成の無形文化財に選択され,手すき和紙用具製作は文化財保存技術に選定されている。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「土佐紙」の意味・わかりやすい解説

土佐紙
とさがみ

約 1000年前から土佐国 (高知県) で産した手すき和紙。山内一豊の土佐入国後まもなく,山内家から年々徳川家に献上したもの。江戸時代にすでに紙産地の第1位に立って高度な紙すき技術を確立した土佐の和紙生産は,多種類の優良品を生産しているが,おもなものを原料別にあげると次のとおり。 (1) コウゾ 典具帖 (繊細な繊維を紗を用いて抄出した白色の薄紙。海外にも輸出し貴金属の包装,書画の模写,コーヒーのろ過などに使う) ,土佐書院 (純白な障子紙の優良品) ,杉原 (武士の公式用紙) ,丈長 (婦人の髪飾り用) ,小杉原 (懐紙) ,土佐唐紙 (揮毫用) ,半紙。 (2) ミツマタ 東錦 (純白な記録用紙) ,若緑 (複写用) ,紗漉書院 (記録用) ,脂入書院 (便箋用) ,半紙,半切,白鳳紙 (揮毫用) ,図引紙 (青写真の原画用) 。 (3) ガンピ コピー紙。

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世界大百科事典(旧版)内の土佐紙の言及

【土佐国】より

…民間では17世紀後期安芸郡を中心に上方への薪積出しが活発化し,浦々に廻船ブームがまき起こったが,18世紀に入ると上方問屋の買いたたきや資源枯渇のためしだいに沈滞に向かった。 近世初頭,吾川郡成山(なるやま)(現,伊野町)で創出された七色紙が山内一豊に献上されたのを契機に,同地域は御用紙漉(かみすき)に指定され,厳重な保護統制を受け,土佐紙の声価が高まった。やがて各地に発生した紙漉に対しても,藩は御蔵紙と称する専売制度を適用して民利を奪ったので,1755年(宝暦5)には津野山一揆,87年(天明7)には池川紙一揆が起こった。…

※「土佐紙」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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