(読み)ふさぐ

精選版 日本国語大辞典 「塞」の意味・読み・例文・類語

ふさ・ぐ【塞】

[1] 〘他ガ五(四)〙
① 道や川などを、さえぎってとざす。通行や流れを止める。
※書紀(720)仁徳一一年一〇月(前田本訓)「将に北の河の(こみ)を防(ほそ)かむとして茨田堤を築く。是の時に両処の築有て壊れて塞(フサキ)難き」
② 押えとどめる。防ぐ。制する。
※四分律行事鈔平安初期点(850頃)「僧食を壅(フサイ)で、大法を障げ礙ぐること」
③ 穴などに、すき間なく物をいっぱい詰める。また、ふたをする。
※小川本願経四分律平安初期点(810頃)「虱い若出でば、蓋を作りて塞(フサク)(〈別訓〉ふたく)応し」
小学読本(1873)〈田中義廉〉四「今細き管に水を満てて、其一方の口を塞ぎ」
④ 心をある感情でいっぱいにする。
※法華義疏長保四年点(1002)五「憂悔心を塞(フサ)ぐ」
⑤ 耳・目・口などを手で押えておおう。目や口を閉じる。また、息を止める。
※経信母集(11C中か)「鳴り轟く音〈略〉耳をふさぎ、汗しとどになりて」
※蓬莱曲(1891)〈北村透谷〉三「内なる斯のたたかひには、眼を瞑(フサ)ぎて」
⑥ 門や戸などを締める。閉じる。
平家(13C前)一「竹のあみ戸をとぢふさぎ、灯かすかにかきたてて」
場所を占める。
※延慶本平家(1309‐10)三末「丹波国に打越えて、大江山を打塞ぐ」
⑧ 望みや責任などを果たす。満たす。
※書紀(720)顕宗元年正月(熱田本訓)「上は天の心に当ひ、下は民の望を厭(フサイ)たまへ」
[2] 〘自ガ五(四)〙 (「鬱ぐ」とも書く)
① 不愉快になる。気分を害する。腹が立つ。
※黄表紙・莫切自根金生木(1785)上「女郎やのしうちにぐっとふさいで」
② ゆううつになる。陰気な気持になる。気分が晴れない。
滑稽本浮世風呂(1809‐13)三「朝っぱらからふさいだ事かあって寝て居たはな」
[3] 〘自他ガ下二〙 ⇒ふさげる(塞)
[補注]平安時代には、主として「ふさぐ」「ふさがる」が漢文訓読文に、「ふたぐ」「ふたがる」が和文に用いられた。

ふさが・る【塞】

〘自ラ五(四)〙
① いっぱいになる。つまる。ふたがる。
(イ) いっぱいになってさえぎられる。立ちふさがる。さえぎられて通れなくなる。
※書紀(720)神功摂政前(北野本訓)「大磐(をほいは)(フサカリ)て溝(みそ)を穿(ほ)ることを得(え)ず」
(ロ) 空間にいっぱいにひろがる。満ちる。
※書紀(720)安閑二年正月(北野本訓)「仁風(うつくしひののり)宇宙(あめのした)に鬯(の)び美声(よきな)乾坤(あめつち)に塞(フサカル)
(ハ) 鼻やのどなどがつまる。
※韻字集(1104‐10)「鼽 ハナフサカル」
(ニ) ある気持や考えなどで胸がいっぱいになる。心配や苦労などで胸がつまる。
※俳諧・奥の細道(1693‐94頃)旅立「前途三千里のおもひ胸にふさがりて」
(ホ) 他のものに占められて使えなくなる。いっぱいで、別のものが入る余地がなくなる。
※虎明本狂言・宗論(室町末‐近世初)「おりふしべちの間がふさがっておりなひ」
② 閉じる。締まる。とざされる。閉鎖する。
※金刀比羅本保元(1220頃か)中「不破の関ふさがりたる由申ける間」
③ 手や器具が使用されていて使えない状態になる。
※倫敦消息(1901)〈夏目漱石〉三「両人とも両手が塞がってゐる」
陰陽道でいうふさがりの方角に当たる。事を起こそうとする方角に、太白神天一神などの凶神がおり、その祟りをおそれて行なうことができない状態になる。方塞(かたふたがり)になる。ふたがる。

ふた・ぐ【塞】

(蓋(ふた)をして外とへだてる意)
[1] 〘他ガ四〙
① ふたをする。おおう。また、通れないようにする。占める。ふさぐ。
※東大寺諷誦文平安初期点(830頃)「往還の人面を掩(フタキ)鼻を奄(おほ)ひて」
※竹取(9C末‐10C初)「にげて入袖をとらへ給へば、おもてをふたぎて候へど」
② 韻塞(いんふたぎ)の遊びをする。
※源氏(1001‐14頃)賢木「ふたぎもてゆくままに、難き韻の文字どもいと多くて」
[2] 〘他ガ下二〙 =ふさぐ(塞)(一)
※源氏(1001‐14頃)松風「寝殿はふたげ給はず、時々わたり給ふ御すみ所にして」
[補注](1)平安時代の漢文訓読文ではフサグを使用するのに対して、和文系の文献ではフタグを使用する。
(2)「聖語蔵本願経四分律平安初期点」に「蓋蔵」を「フタギヲサム」と訓読する例があるところから、「蓋(フタ)」の派生語かともいわれている。

ふさ・げる【塞】

[1] 〘他ガ下一〙 ふさ・ぐ 〘他ガ下二〙
① ふさぐようにする。通れないようにさえぎる。
※延慶本平家(1309‐10)二末「返し合せて、佐の前にふさげたり」
② 場所などを占めるようにする。領有する。
※平家(13C前)一一「おほくの国々をふさげらるる事、口惜候へば」
[2] 〘自ガ下一〙 ふさ・ぐ 〘自ガ下二〙 (「鬱げる」とも書く) 気分がふさぐようになる。憂鬱になる。
洒落本・竊潜妻(1807)下「お前をふさげさすまいと思うたに、やっぱり其様にふさいでから」

ふさがり【塞】

〘名〙 (動詞「ふさがる(塞)」の連用形の名詞化)
① あきがなくいっぱいになること。また、さしさわりがあること。さしつかえること。
※浄瑠璃・薩摩歌(1711頃)中「大事の娘をそそのかしふさがりのこの国へ」
② 陰陽家の用語で、大将軍・太白神・天一神などの凶神がいて、その方角をふさいでいること。この方角に向かって事を行なうことを忌む。
※金刀比羅本保元(1220頃か)中「東はさしあたりたる塞(フサガリ)の方也」

ふたが・る【塞】

〘自ラ四〙
※書紀(720)景行四〇年七月(北野本訓)「遮衢(さいきりをと)して径(みち)に塞(フタカリ)て」
※蜻蛉(974頃)中「方はいづかたかふたがる」

ひさ・ぐ【塞】

〘他ガ四〙 (目などを)ふさぐ。閉じる。
※能因本枕(10C終)三一九「おおと目うちひさきてよむ陀羅尼も」
[補注]「枕草子」の用例は「ひさく(引裂)」と解する説もある。

ふたがり【塞】

〘名〙 (動詞「ふたがる(塞)」の連用形の名詞化)
① ふたがること。ふさがり。
② 月経をいう。

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デジタル大辞泉 「塞」の意味・読み・例文・類語

さい【塞】[漢字項目]

常用漢字] [音]サイ(呉)(漢) ソク(呉)(漢) [訓]ふさぐ ふさがる とりで
〈ソク〉すきまなくふさぐ。ふさがる。「塞源活塞梗塞こうそく充塞栓塞逼塞ひっそく閉塞
〈サイ〉
通路をふさいで守りを固めた所。とりで。「要塞
国境地帯。「塞翁塞外辺塞
[名のり]せき

そく【塞】[漢字項目]

さい

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

世界大百科事典(旧版)内のの言及

【サカ】より

…前5世紀のペルシア戦争の際にペルシア側について参戦したサカは,とりわけ〈アミュルギオンのサカ〉とよばれた人々で,キルギスのステップに住み,尖り帽子,ズボン,独特の弓と短剣,戦斧を身につけた強力な部隊であった。なお中国史料の塞民族をサカにあてる説があるが疑わしい。【小谷 仲男】 時代が下って前1世紀ころサカ勢力は大月氏の西方移動におされて,西北インドに侵入した。…

※「塞」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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